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夜明け前に現れる水氷の聖霊

 ウィスプについてはなんか知らんけどやたらこちらに友好的というか積極的だし、危害を加えてこない限り放置という事にした。

 べ、別に他の措置を考えるのが面倒くさかったとかそういうわけじゃないからね?



 とりあえずウィスプは攻撃してこないしカウィールはウィスプに対してまだ若干ビビっているものの最初みたいに叫びだすほどじゃなくなった。

 キャンプファイヤーもどきの私の魔法もまだ消える兆しはない。

 ……もうこれは寝るしかないだろう! だって今日いろいろあり過ぎたし! 私は疲れたんだ!


 カウィールを乗っけて運んだ羽は一番下のものだけ土で汚れてしまったが、他のは最初同様綺麗なままだ。

 二枚を地面に敷いて敷き布団代わりに。そしてカウィールと私用の掛け布団として各々二枚ずつ。ふわふわで手触りもよく、暖かいのにとても軽いという高級羽毛布団に負けず劣らずなものだった。



「あ、あの、エルミシア様、これは一体……?」

「もう遅いから寝るよ。それは掛け布団、あれは敷き布団として使うの」



 二枚の羽をお腹の上に置いて目を瞑る。

 あー、羽を布団だと認識した途端眠くなって……眠く……なって…………こない、だと?


 いやいや自分で言うのもアレだけど今日はいろいろあり過ぎて理解が追いつかない程度には疲れたんだよ?

 それに加え、いかにも体力のなさそうな幼児体型。何時間も走り続けて疲れなかったのはいったん置いておくとしても、精神的にはごっそり持ってかれて疲れてるはず。


 そして眠れない私の周りに、いつの間にかウィスプが密集していた。

 なんだか光がさっきより弱いし、触ろうとしてみても何の反応もしない。もしやこいつら寝たのか? 魔力の塊まで寝るなんて予想外だ。

 

 布団をかぶって木にもたれかかってみる。眠くならない。

 横になってみる。眠くならない。

寝返りをうってみる。眠くならな……って、カウィール寝るの早いな。もうすでにスピースピーと小さい寝息を立てて寝ていた。


 羨ましくなるぐらいすぐに寝るな……と思ったけれど生贄として連れてこられたり、気絶して起きたらウィスプに囲まれていたりなんてしたらそりゃ精神的に疲れるか。



 私も人のことは言えないけど、カウィールの話し方は子供より大人に近いものだった。

 でも寝ている今の顔はとても無邪気そうで、思わずその頰を指でつついた。



「う、うぅーん……」

「……可愛いなぁ……」



 眉間に皺を寄せながらも口はむにゃむにゃと動かすカウィールを見て、つい口から出た。なんだろう、この感覚は。

 今まで感じた事のないもやもやするような、暖かい気持ちが胸の中に渦巻く。


 それに首を傾げつつ、カウィールが起きないのをいい事に頰をいじり続けた。

 ときおり呻き声を発するけど起きる気配はない。

 も、もうちょっと、私が眠くなるまではいじっててもいいよね!?




 どのぐらいいじっていたの分からない。できればまだいじっていたかったのだが、ただならぬ気配を感じて私は身を硬くして立ち上がる。


 なんだこれ、冷や汗が出る。

 さっきまで感じていた胸の奥の暖かさが一瞬にして消えて無くなる。



 リーン……リリーン……



 美しい鈴の音が湖全体に響く。

 カウィールはまだ寝ている。ウィスプたちも無反応。

 この異様な空気を感じ取っているのは私だけか? と緊張した面持ちで木々を見ていた時、それは現れた。



 大きなツノを持った、鹿のような動物。

 もっとも特異な点は、それの体が水でできているかのような透明度を持っているという事だ。


 こちらに気付いていないのか、それとも気付いたうえで取るに足らないと無視しているのか、それは悠々と湖の上を・・・・歩き始めた。

 それの通った後の水が凍りつく。


 水と氷とが織りなすあまりにも幻想的な光景に、声も出ない。



 リリーン……リーン……


 鈴の音に合わせてそれは闊歩する。

 湖のちょうど真ん中にたどり着いたとき、それはこっちを見て



【浄水魔法を取得しました】

【風樂魔法を取得しました】

【氷絶魔法を取得しました】

【神聖耐性を取得しました】

【神圧耐性を取得しました】



 パシャン、と音を立ててただの水になり、湖へと混ざった。


 それを見届けてから、私は糸が切れた人形のように地面にへたり込んでしまった。



「なんだったんだ、今の……」



 いつの間にか空は白んできていた。夜明けが、近い。

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