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異世界トリップしたようです。

初投稿です。

ゆっるい設定で書いておりますので、暖かい眼差しでご覧くださいませ。

まったくわけがわからない。


ついさっきまで、リビングで惰眠を貪っていたはずなのに。

ソファの上でうっかり寝返りを打ち、真正面から床に激突かと思いきや、なにやら台座のようなところに落っこちた。


何事っ!? と思いながら痛む身体にムチ打って起きてみれば、私を囲うように三人の男性が立ち、その背後には守られるようにしてもうひとり女性がいた。



……誘拐? 私、誘拐されました?



私を囲む四人の顔は暗くてわからない。

どうやら私が座り込んでいる場所にスポットライトのようなものが当たっているようで、そのせいで周りの様子がよく見えない。


「おい。お前は何者だ!」


中央に立つ男が声を荒げる。

急に大きな声を出すからビクッとしちゃったじゃないか。

なんなのこの人たち。何者かも分からずに私を誘拐したの?


「何者かと聞いている!」


中央の男がしびれを切らしたようにさらに声を強め、腰に差す剣の柄に手をかける。

てか、剣!? 銃刀法違反ですやん!!


「……やはり、邪神の手の者か!」


は? 邪神?

え、何急に。厨二? 厨二なの?

厨二こじらせての誘拐?

厨二だから剣とか持ってるの?

私の頭の中のハテナがなにひとつ解消される暇なく、男は剣を鞘から引き抜く。

シャランと涼しげな音をたてて引き抜かれた剣は、スポットライトの光を跳ね返し、白く輝いた。

その曇りない輝きを見たとき、本能が悟った。


あの剣、本物っぽくね?


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


なにがなにやら分からないけれど、とにかく身の危険だけはひしひしと感じる!

とりあえずここは距離を取るべきだ! と判断した私は、大慌てで後ずさった結果、台座から見事に転げ落ちた。


もともと丸い台座のようなものの上に座り込んでいたのだから、そりゃ後ずされば落ちる。

そんなことも分かっていなかった私は、床に後頭部を思い切り打ち付けて、意識を失ったのだった。






「また来てしまったのか」


……? 誰の声?

真っ暗でなにも見えない。

スポットライトすらない。


「今回も、私の声は届かないのだろうか」


いやいや、めっちゃ聞こえてますけど?

なんかしっぶいおじさんの声が聞こえてきますけど?


「いつになったら、伝わるのだろう」


だから、聞こえてますってば!!

しっぶい声のおそらくおじさんは、私の叫びに気づきもせず、これ見よがしにため息をこぼす。


……なんか、ちょっと、イラっとするなぁ。

こうなったら、腹の底から叫んでやる。


私の大声に驚いて、独り言が聞かれていたんだと知って恥ずかしがればいい!!


そうと決まれば大きく息を吸いこんで〜……






「聞こえてるって言ってるでしょう!!」






自分の大声に驚いて目が覚めた。


ベッドの中だった。

しっぶい声の持ち主どころか、さっきの四人組も見当たらない。


もしかして、全部夢?

夢だとして、どこからどこまでが夢なの?


キョロキョロと、辺りを見渡す。

馴染みのあるいつもの自分の部屋ではなく、ログハウスを思わせる、木目が鮮やかな部屋だった。

置いてある家具も全て木でできていて、とても暖かな雰囲気の部屋だけど、見覚えがない。


ここがどこなのか心当たりすらないけれど、ただひとつ、言いたいことがある。



この布団、めっちゃフカフカ!!


なんだこれ。軽いのにちゃんと温かくて、肌に吸い付くような滑らかな手触りは頬ずりをせずにはいられない!!

これ、羽毛だよね? これはものすごい高級品と見た。


寝返りを打って布団を身体に巻きつける。

お日様の匂いがして、幸せな気持ちになる。

ついでに眠気もやってきた。

このままもう一眠り……


「目が覚めました?」


扉が開く音の後、背中に声がかかる。

女の人だ。もしかして、四人組の紅一点だった人?

ということはここは彼女の部屋?

となると、ちゃんと起きて挨拶をするべきなんだろうか。

でも、相手は人に剣を向ける誘拐犯だよね。

ここは寝たふりをしてやり過ごそう。


「あら、寝てる。さっきの声は気のせいだったのかしら」

「ふふふ。気のせいかどうか、確かめてみましょうか」


柔らかな男性の声。剣を向けてきた人とは別の声だ。


「確かめるって、どうするんですか?」

「こうするんですよ」

「えっ、ちょ、ラグロさん!?」


女の人の焦る声に、ぞわっと身の危険を感じた次の瞬間には、ハラハラとなにか粉のようなものが降りかかった。


「……ぇえふ、ふ、ふえっくしょおぉい!! 」


鼻がムズッとしたと思えば、大きなくしゃみが飛び出た。


「えふっ、ふぐ、ぐっしょい!! ……ふぁっくしょん!!」


一度くしゃみをすると、そこから止まらず何度もくしゃみを繰り返す。

たまらず私はベッドから飛び起きた。


「えぐっ、ぐしゅ、えっくしゅん!!」

「あぁ、やはり起きていましたね」

「これ、寝ていても起きるんじゃあ……」

「ふふふ。気のせいですよ、セイラさん」

「ふえっくしょん!! もうやだぁ〜っくしゅん!!」


それからしばらく、私のくしゃみは止まることなく続き、男の人が新しい薬を私に振りかけてやっと終わりを告げた。






「では、改めて質問させてもらおう。お前は、何者だ?」


私がくしゃみを連発している間に残りの二人もやってきたらしく、部屋には気絶する前と同じ四人組が揃っていた。

あのときと同じ、ベッドに座る私から女の人を庇うように男の人が三人横並びに立っている。


私に質問を投げてきたのは真ん中に立つ男性で、声から剣を突きつけてきた人と同じだと思われる。

ゲームでいうなら剣士といった風の服を着ていて、高い位置でひとつにまとめた長い髪は、大きく波打ってものすごい存在感があった。

声は落ち着いているけれど、私を見つめる瞳は冷たい。

相変わらず腰に剣をさげていて、少しでも怪しい動きをすれば斬る、と無言のプレッシャーを感じる。


「私は……木下多恵子です」

「キノシタタエコ? 変わった名前ですね」


没個性としか言いようのない私の名前を変わっていると言いたもうた男性は、さっき私をくしゃみ地獄に陥れた、ラグロと呼ばれていた人だ。

黒いローブのようなものをまとい、肩ぐらいまで伸ばした髪を、うなじでくくっている。ところどころこぼれる髪が、なんとも色っぽい。

柔らかな声同様、にこにこと穏やかに微笑んでいて、さっきのくしゃみ地獄がなければ、うっかり信用してしまいそうなほどに優しげな雰囲気の人だった。


「キノシタタエコ。お前はなぜあそこに現れた」

「なぜと言われましても……。私も気がつけばあそこにいたのでなんとも言えません」


私が素直に答えると、中央に立つ男性は眉間のシワを深くした。

ぞわっと命の危機を感じた私は、びくりと肩を震わせる。


「まぁまぁまぁ、そんなカリカリしないで。ヒイロが睨むから彼女が怖がってるじゃないか。こんなんじゃ、何も話せないよ」


そう言って中央の男性ーーヒイロを落ち着かせたのは、白のケープのフードを深くかぶった男の人だった。

肩周りを隠すケープの下は、忍び装束を彷彿とさせた。ただ、色は黒ではなく淡い緑だ。

顔が半分くらい隠れて口元くらいしか見えないけれど、声はとても朗らかで、このピリピリした空気を少し和らげていた。


「あの、身体は大丈夫ですか? 丸一日意識が戻りませんでしたし、どこかに痛みとか、めまいとかありませんか?」


ここで初めて私の身体を慮る言葉をかけてくれたのは、奥に控えるセイラと呼ばれていた女の人だ。

女の人、というより女の子と言ったほうがいいかもしれない。

すらっと背が高く、手足も長い。腰まで伸びた髪が、白いワンピースによく映えている。巫女のような、神聖な雰囲気の人だ。

やたらとキラキラ眩しい男性陣の中にいても、なんの遜色もないほどの美少女だった。


……て、ちょっと待って。


「丸一日眠ってたんですか!?」


私の問いに、セイラさんは小さく頷く。

確かによく寝たと思ったけれど、まさか丸一日眠っていただなんて……

寝すぎじゃない?

いや、それだけ頭を強く打ったということなのか?

後頭部を触ってみたけど、とくにタンコブすら見つからない。


……あれ? タンコブが出来ない方が危ないんじゃなかったっけ? 内出血的な?


青い顔でぷるぷる震えていると、セイラさんが駆け寄ってきて私の両手を握った。


「大丈夫ですよ、落ち着いてください。怪我は私の力で癒しました。ただ、あなたの身体が休息を必要としていたようなんです」

「休息? ど、どうしてですか?」


あそこに落っこちるまで、私はソファに寝転がって眠っていたはずだ。

丸一日意識を失うほど疲れていただなんて、考えられない。


私の表情を見て何かを察したらしい彼女は、ちらりと背後の三人を振り返った後、神妙な表情で私に向き直り、言った。


「あなたはどうやら、どこかから転移されたようです」

「……てん、い?」

「どこか遠くから、あの場所に召喚された……と言った方が分かりやすいでしょうか。よほど遠くから転移したのか、身体に負荷がかかったようです」


どこか遠くから、召喚……て、

そんなバカな。と言いたいところだが、否定できない。

なぜならーー


鮮やかなオレンジ色の髪と水色の瞳をもつヒイロさん。


眩く輝く金色の髪と紺の瞳を持つラグロさん。


紫色の髪にピンクの瞳を持つセイラさん。


最後のひとりはフードのせいで分からないけれど、これだけカラフルな人が三人並べば、嫌でもここは私のいた世界とは違うんだろうなと気づく。



木下多恵子、十九歳。


なんの間違いか、異世界トリップしたようです。

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