悪役令嬢はファッションの道を行く
「あらキルヒアイス様。この度は、どういったご用件で」
私は分かっている。目の前にいる黄金に輝く髪を持ち、黄薔薇の紋章を受け継ぐキルヒアイス様に、運命的な出会いがあったのを、この日のために私は根回しをしていた。国のご法度である賭け事をキルヒアイス様としたのだ。ちなみに悪徳大臣の証文付きで賭け事をした。
その内容は、今月のうちに私こと――ミレディとキルヒアイスは婚約を破棄することになる。
キルヒアイス様は絶対にそんなことは無いと、冗談めいて賭け事をなさった。
だが、見るがいい、この男はある街娘に陥落した。
これぞ、恋する男の顔だ。
私が散々やった乙女ゲーの男たちも同じような顔をしていた。その顔で女をたぶらかし、はては女に陥落する、惨めな男の顔がそこにはあった。
「ミ、ミレディ……君は預言者か何かか」
「あら、どうなさったんですか、キルヒアイス様」
散々やった薔薇革命という乙女ゲー、気付いたら私はゲームの中に転生していた。
しかも、恋敵で権力を意のままに操る、赤薔薇の紋章を受け継ぐ女、ゲームでももっとも手強い相手だ。品行方正、眉目秀麗、質実剛健と四文字熟語で礼賛したくなるミレディとなっていた。だが、実際にゲームを開始すると、ただのお嬢様的な面が徒となって、婚約破棄や愛する弟から見離される可哀想な位置だ。
だが、何故か知らないけど、私がミレディとなった。
私は負けない。
裏切り者には金を払わせる、まず最初の一撃を食らわせて、モテモテ主人公に蹂躙される弟は当てにせず、赤薔薇の紋章を必ず守ってみせる。
「どうか、なさいましたか」
「いや……」
なんとキルヒアイス様は賭け事の清算をしにきたのに、あまりの額の大きさに敵前逃亡をしようとなさっているではないですか。
「本当の愛を知ったのですね」
私の台詞――カッコイイ。
「……はい、すみません」
「私の勝ちですね。愛の価値はおいくらでしたか?」
「あなたの嫁入り時の持参金分です」
よっしゃあ! 生きているだけで丸儲けっ!
私の家は静かになった。
主人公に恋した私の弟も面倒なので追い出したし、あとは一族が傾く前に、ゲーム中盤から流行するファッション店を買収して、ファッション業界を牛耳るに限る。
「くくくっ……はっはっはっ!」
こうして私はゲームの中でブランド企業の女社長として暗躍するにいたった。
短編で2を書きました。