無敵の力は僕らのために
初投稿作です。
表現法とか構成とか難しいですね……。
今後扱って欲しいアニソンがございましたら感想までご一報ください。
怖い。逃げたい。何で私が。
この森に入ってから何度そう考えたことか、セリル=フロックハートは覚えていない。
それでも尚、眼前の狼人に立ち向かい続けるのは、守りたい人がいるからだ。
狼人。人の知性をもちながらも狼の野生を持つこの魔獣は、本当であれば
セリルの生まれ育った村の周辺に生息するようなものでは決してない。
追われてきたのか、自ら狩場を求めて移動したのかは定かではないが
脅威として目の前に存在するのは動きようのない事実である。
セリルが狼人と接敵してから15分。
彼女の攻撃は全て、狼人の持つ鋼のごとき毛皮に全て止められ、何の痛痒も与えることも出来ていない。
「このっ……化け物がぁっ!!」
セリルはその小さな体に似つかわない大振りなブロードソードで切りかかるが、狼人は何度も繰り返してきた、決まったやり取りのようにその右腕で刃を振り払う。
遠い過去に騎士であった先祖の剣は、狼人の攻撃にも折れず曲がらず、良く時間稼ぎに役立ってくれたが剣術を修めていないセリルには盾以外の有効な使い道は無かった。
最初こそ警戒していたように敵意をむき出しにしていた狼人であったが。
もうこの段になってくるとめんどくさそうにしながらも、目の前の女をどういたぶってやろうかという方に思考が向いているらしい。
狼人の表情などわからないはずのセリルにも感じ取れるほどにその顔を喜悦に歪ませていた。
何度切りかかっただろう。
何度弾き飛ばされただろう。
何度あきらめかけただろう。
それでも尚、眼前の狼人にセリルが立ち向かい続けるのは、唯一残った妹と、両親が死んでからも良くしてくれた村の人たちの為だった。
が……
ガキインッ!!
数え切れないほどの合を狼人の爪と切り結んだセリルの握力はとうに無く、気力だけで握っていた剣もついに飛ばされた。
既に武器の無くなったセリルにトドメを刺すべく、狼人はその体をちぢこませ、今にも飛び掛らんと前傾姿勢になる。
セリルの命の灯火は、もう数瞬もすれば消えるだろう。
(もう避難は済んだかな……レスティ――)
ぜえぜえと鳴る喉。細かい切り傷の点在する身体。武器を失った両手。
満身創痍になり、最後の時を迎えようとするセリルは、たった一人の肉親のことを想い目を瞑り、そして――
場にそぐわぬ金管楽器の音が鳴り響いた。
「この音……領軍が来てくれたのかっ!?」
その勇壮な調べはついぞ聴いたことはなかったが、その音は小さいころ、村に訪れた領主軍の行進の際に聞き及んでいる。
狼人も軍に関係する音だと知っているのか、きょろきょろと忙しなく辺りを
見回している。
が、何かを見つけたのか視点が一点に定まる。
30メリル(約30メートル)は先だろうか。
そこには一人の男が、足を肩幅よりすこし大きめに広げ、握ったこぶしを天へと向けていた。
どうやら音もその人物の辺りから聞こえてきているらしい。
たった一人らしいことに、警戒しながらも狼人はその口端を歪め、
まずは女の方だとばかりにセリルに向き直った瞬間、その男が動く。
いや、歌った
「ま・じーーーーーーーーーーん……」
豪ッ!!!!!!
それは風の音だったのか。それとも男の口から出た音だったのか。
凄まじい音と、凄まじい速度で男はセリルと狼人の間に一瞬で割り込み
その右腕で狼人を殴り飛ばした。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう」
セリルはその結果を見て唖然としたが、どうやらこの目の前の男は自分を助けてくれたらしいと思い当たり礼を述べる。
「あの、あなたは、」
「待て。まだ終わってねーみたいだ。ライブはまだまだこれからみたいだぜ」
狼人は何本もの木をなぎ倒しながら吹っ飛んでいったが、依然こちらに向けられる、先ほどよりも濃い殺気はまだ安全ではないと示している。
吹き飛ばされるほどの打撃を受け、相応のダメージを負って気が立っているのか、土煙から姿を現した狼人の目は殺意にギラついていた。
「ちょっと下がってろ。残念だが遊んでる暇はなさそうだ」
金管楽器に加え、打楽器の音が男から鳴り響いてくる。
これがこの男の先ほどの攻撃の秘密なのだろうか。
「あ、あぁ。気をつけて」
先の、目に見えぬほどの速度の男の攻撃や、今までの狼人と自分とのやり取りを考えると足手まといにしかならないと理解したセリルは、悔しそうにしながらも男の後方へと下がる。
瞬間、狼人はセリルと戦っていた時は遊んでいたのだと理解できるほどのスピードで男にその爪を尽きたてんと迫る。
男は血迷ったか避け様ともせず、武術を修めているのかも怪しいほどの細腕を爪と身体の間に置く。
「あぶないっ!!」
セリルの脳裏には裂かれ飛ぶ男の左腕が思い描かれ、その通りになってしまうと絶望に染まりかけた瞬間
キンッ!!
狼人の爪が折れ飛んだ
「……は?」
今起こったことが理解できないセリルは、戦闘中にも関わらず間抜けな声をその喉から漏らす。
しかし、現に男の左腕は健在で、狼人はその右腕を抱えて犬のように悲痛な声をあげていた。
「だ、大丈夫……なのか?」
セリルは唖然としながらも男を気遣う。あの鋭い爪を受けて無傷などありえないだろう、と。
「あぁ、問題ない。俺は無敵の鉄の城。英雄は負けない。」
鳴り止まぬ金管楽器と、深みを増す打楽器。
混乱しつつあるセリルに、男は人好きのしそうな笑みを浮かべつつ続けてこう言った。
「アニソンは世界を救うんだよ」
アニソンofアニソン!
やっぱ最初はこの曲でしょう!