午前0時のデッドヒート —— 長男2歳、まだ覚醒中 ——
お風呂上がりの騒ぎが一段落し、お姉ちゃんたちがスヤスヤと眠りについた後。いよいよパパ(38歳)の前に立ちはだかる、この家で最も小さく、最も手強い「ラスボス」……。
2歳児の長男・颯太くんとの、深夜の寝かしつけ格闘記をお届けします。
時刻は夜の21時30分。
小学生組と幼稚園組は、パパとの風呂で体力を使い果たし、ママの魔法(絵本の読み聞かせ)によって夢の中へ旅立った。
残るは、パパの腕の中にいる2歳の颯太だけだ。
「よし、颯太。ねんねしよ。パパと一緒にゴロンしようね」
パパは優しく、そして忍耐強く布団へ誘う。
しかし、颯太の瞳は、まるでブラックホールのようにギラギラと輝いていた。
「ぱぱ! でんしゃ! ぶーん!!」
ガバッ! と起き上がる2歳児。
ついさっきまでウトウトしていたはずなのに、布団に入った瞬間に体力がフルチャージされる不思議。これが「2歳児の七不思議」の一つである。
「シーッ。みんな寝てるからね。でんしゃは明日だよ」
パパは優しく横に倒すが、颯太はバネのように跳ね起きる。
「ないない(おもちゃ)、するー!」
「ダメダメ。今はねんね。パパがトントンしてあげるから」
トントン……トントン……。
一定のリズムで背中を叩く。パパ自身のまぶたが重くなってくる。
(あ、これはいけるかも……。寝るぞ、寝るぞ……)
パパの意識が遠のきかけた、その時。
「あ、あんぱん!!」
颯太が全力でパパの鼻を指差して叫んだ。
「……痛っ! 颯太、鼻はアンパンじゃないよ。ほら、お目目つむって」
そこからが本当の戦いだった。
ローリング: 颯太が布団の上を時計回りにゴロゴロと3周する。
カカト落とし: 隣で寝たふりをするパパの脇腹に、鋭い一撃が突き刺さる。
指差し確認: 壁の小さなシミを指して「これ、なに?」と10回連続で聞く。
「……颯太。パパ、もう限界だよ。お月様も寝てるよ」
パパが泣きそうな声で頼み込むと、颯太はふと動きを止めた。パパの顔をじっと見つめ、小さな手でパパの頬をなでる。
(おっ、ようやく愛の力で寝るのか……?)
期待した次の瞬間、颯太はニヤリと笑い、パパの口の中に自分の拳を突っ込んだ。
「あうー!」
「ふぐっ……! 食べないよ、パパは食べ物じゃない!」
時刻は22時を過ぎた。
リビングから、片付けを終えたママが忍び足で入ってくる。
惨敗して布団に突っ伏しているパパと、その背中の上で馬乗りになって「おんま(お馬さん)!」とはしゃぐ颯太を見て、ママは静かに微笑んだ。
「パパ、選手交代ね」
ママが颯太を抱き上げ、耳元で何かを囁きながら、ゆっくりとゆらゆら揺らす。
するとどうだろう。
あれほど暴れていた小さな怪獣が、わずか3分で「すぅ……すぅ……」と寝息を立て始めたではないか。
「……ママ、どんな魔法使ったの?」
パパの問いに、ママは人差し指を口に当ててウィンクした。
「パパ、お疲れ様。鼻、赤くなってるわよ」
翌朝、一番に起きて「パパ、あそぼー!」とパパの顔を踏みつけにくる颯太に、パパが「昨日の格闘は何だったんだ」と白目を剥くまでが、この家のセットメニューである。
そして次の日へ~おやすみなさい




