今年も伝説を残す—胃袋のサバイバルと、長さ二メートルの黙示録 —
「日常」は常に規格外ですが、38歳のパパが年に一度解き放つ「飲み会」の規模は、もはや自然災害
【AM 10:00:開戦の狼煙】
その日は、ママの親友とその旦那さんが営む居酒屋「味処・戦場(仮名)」の開店と同時に始まりました。
ママ(33歳)は朝からパパを玄関でジロリと睨みつけ、最後のアドバイスを送ります。
「いい? 親友の店なんだから、暴れない。吐かない。お店を壊さない。……わかった?」
「わかってるって。今日は精鋭揃いだから、礼儀正しく飲むよ」
そう言って家を出たパパですが、その足元はやる気に満ち溢れた「勝負のステップ」でした。
店に入ると、そこにはパパを含めた五人の酒豪たちが、既に獲物を狙う虎のような目でカウンターに座っていました。
「よお、揃ったな。……大将、とりあえず『焼酎ロック五つ』、乾杯用にな」
通常、乾杯といえばビールですが、この五人にそんな「助走」は必要ありません。
運ばれてきた五つのグラス。氷がカランと鳴った瞬間、一升瓶が一本、光の速さで空になりました。
「乾杯!!」
朝の10時。街がようやく動き出したその時間に、パパたちの「伝説」が幕を開けました。
【PM 3:00:焼酎の墓標と、店主の陥落】
このお店には、酒豪たちを煽る恐ろしいシステムがありました。
「焼酎十本空けたら、一本無料」
一般人なら一生かかっても達成できないような特典ですが、パパたちにとっては「ただのペースメーカー」に過ぎません。
一本、二本、三本……。
カウンターの上には、空になったビンがドミノ倒しのように並んでいきます。
パパは10キロ痩せたことで血流が良くなったのか、驚異的なピッチでグラスを空けていきます。
15時。開店から5時間が経過。
この時点で、既に二十本の焼酎がパパたちの血肉と化していました。
あまりの飲みっぷりに、厨房で料理を作っていた店主(ママの親友の旦那)も、ついに耐えきれなくなりました。
「……パパさん。あんたたち、人間じゃないな。俺も混ぜてくれ!」
店主、途中参戦。仕事着のままカウンターの内側でグラスを傾ける店主。
もはや店は「居酒屋」ではなく、「酒の耐久レース会場」へと変貌しました。
【PM 9:00:援軍到着と、加速する狂乱】
日が傾き、街が夜の帳に包まれる頃。パパたちのボルテージは下がるどころか、さらなる援軍によって爆発しました。
18時、四名の友人が合流。
「遅れた! 追いつくぞ!」
「おう、まだ二十五本だ。すぐ追いつけるぞ」
二十五本という数字を「まだ」と表現するパパ。感覚が麻痺しています。
さらに21時、三名が追加。
店内は、へべれけになった総勢十三名のオヤジたちが、肩を組み合い、笑い、吠え、そして飲み続ける地獄絵図となりました。
「大将! 次のボトル持ってきて! 無料のやつ、何本目だっけ!?」
「もう数えてねえよ! 倉庫の在庫がなくなるぞ!」
パパは身体もデカく、酒を飲むほどに声がデカくなり、存在感が「大怪獣」へと膨れ上がっていきます。10キロ痩せて顔がシャープになったはずなのに、酔っ払った顔は真っ赤に熟したリンゴのよう。
【AM 0:00:現実への帰還と、二メートルの証】
日付が変わり、お店の閉店時間。
ようやく、嵐のような飲み会が終了しました。
オヤジたちが戦いを終え、カウンターに並んだ空きビンの最終確認が行われました。
その数、なんと八十九本。
一本の容量がどうあれ、八十九本という数字は狂気です。
「……八十九か。去年よりちょっと少ないな」
オヤジ達がへべれけになりながら呟きます。
そして、運命のお会計タイム。
「迷惑料」込みで一人四万円を前払いしていた朝から組。
後から合流し、食べて飲んで一万二千円の18時組。
ラストスパートで一万円を置いていく21時組。
店主ですら、自分で飲んだ分二万五千円を支払うという、この潔さ。
合計金額、三十万三千円。
そして、レジから吐き出されたレシートは、パパの身長を遥かに超え、二メートルを突破しました。
細長い紙に、延々と続く「焼酎」「焼酎」「焼酎」「焼酎」の文字。
「……よし。今年もこれを貼るか」
店の一番奥の壁。そこには歴代の飲み会の「戦果」であるレシートたちが、まるで賞状のように貼られています。
パパは今年の二メートルのレシートを横に並べ、少しだけ悔しそうに肩を落としました。
「去年より短いな。……おい、みんな。来年は三メートル目指すぞ。修行しとけよ」
「応!!」
朝の10時から深夜まで飲み続けたオヤジたちは、互いの健闘を称え合い、千鳥足で夜の街へと消えていきました。
【AM 2:00:パパの帰還と、ママの慈悲】
パパが家の玄関に辿り着いたのは、丑三つ時を過ぎた頃でした。
ガチャリと鍵を開けると、そこには仁王立ちしているママの姿が……。
「……ママ、大好きだよ」
パパはそれだけ言うと、リビングの床にバタンと倒れ込みました。
パパは、アルコールという重石によって床と一体化しています。
ママは、酒臭いパパを見下ろし、大きなため息をつきました。
「……親友に連絡したら、『今年も壁が埋まったよ、ありがとう』って笑ってたわよ。もう、バカなんだから」
ママは、倒れているパパの顔をそっと撫でました。
そこには、年に一度の「大怪獣」としての役割を終え、ただのへべれけな父親に戻ったパパの、幸せそうな寝顔がありました。
翌朝。
パパは猛烈な二日酔いと格闘しながら、三女の結菜に「パパ、お口が臭いー!」と叫ばれ、長男の颯太に「アンキロサウルスのハンマー(尻尾)」で頭を叩かれ、再び「いつもの日常」へと引き戻されるのでした。




