小さな暴君・ソウタサウルス降臨 :尻尾と鎧と、愛の噛みつき攻撃
新たな「野生の王国」へと変貌を遂げようとしていました。
今回の主役は、2歳の末っ子長男・颯太。
これまでは「うんこの舞」で家族を爆笑の渦に叩き込んできた彼ですが、最近、自分の中に眠る「太古の血」に目覚めてしまったのです。
【第一章:アウーの咆哮と爪の構え】
最近の颯太は、自分のことを人間だと思っていない節があります。
朝、目を覚ました瞬間から、彼の日常は白亜紀へとタイムスリップします。
「アウー! アウー!」
本人は、映画で見たティラノサウルスの「ガオー!」という咆哮を完璧に再現しているつもりですが、2歳の滑舌では、どうしても可愛い遠吠えのような「アウー」になってしまいます。
しかし、その表情は真剣そのもの。眉間に皺を寄せ、両手の指を鋭い鉤爪に見立てて「カギ型」に曲げ、腰を落として獲物を狙うポーズ。
彼が狙っているのは、主にリビングを横切る「いちごちゃん(フトアゴトカゲ)」や、パパの「ツルツルした頭」でした。
そんな「ソウタサウルス」の脅威が、ついに外部へと流出する日がやってきました。
その日、小学3年生の長女・陽葵が、学校の友達数人を連れて家に遊びに来ていました。
「お邪魔しまーす!」と賑やかに玄関を入ってくるお姉ちゃんたち。
すると、廊下の角から、シュタタタッ!と低い姿勢で飛び出してきた影がありました。
「アウー! アウー!!」
指を爪にして、友達の一人に襲いかかるポーズをとる颯太。
友達たちは、突然現れた謎の2歳児に呆然。
「え……? 颯太くん、どうしたの? 怒ってるの?」
困惑する友達たち。無理もありません。2歳児が必死に「アウー」と言いながら爪を立てて迫ってくる姿は、知らない人から見れば「未知の生命体による威嚇」に他ならないからです。
すかさず長女の陽葵が、手慣れた様子で通訳に入りました。
「みんな、ごめんね。これ、怒ってるんじゃなくて、恐竜なの。今、颯太はスピノサウルスだから、戦いを挑んでるんだよ。だから『あうー』って言われたら、『わあ、強い恐竜だ! 逃げろー!』って言ってあげて」
「ああ、恐竜なんだ!」
「なんだ、可愛い〜!」
状況を理解した友達たちは、さすが陽葵の友人。すぐにノリを合わせてくれました。
「わあ! スピノサウルスだ! 食べられちゃう、逃げろー!」
そう言って友達が逃げるふりをすると、颯太は満足げに「アウー!」と勝ち名乗りを上げ、ドヤ顔でリビングへと帰還していくのでした。
【第二章:家族限定の「噛みつき攻撃」】
しかし、颯太の恐竜ごっこには、一つだけ家族を悩ませる「裏メニュー」がありました。
それは、心を許した相手にしか繰り出さない、究極の親愛表現。
「……ガブッ!!」
「痛っ!! 颯太、またパパの二の腕を噛んだな!」
パパ(38歳)の腕には、今日も颯太の「ティラノサウルスごっこ」の歯型がくっきりと残っています。
この噛みつき攻撃、お友達には絶対にやりません。ターゲットは、パパ、ママ、そして長女の陽葵の3人のみ。
次女の澪や三女の結菜には、なぜかやりません。おそらく「この3人は噛んでも許してくれる、大きな獲物(群れのリーダー)」だと認識しているのでしょう。
「颯太! ママの太ももは、お肉じゃないわよ!」
「陽葵のお手手は、餌じゃないんだからね!」
3人がかりで叱っても、颯太は「アウー」と嬉しそうに笑うだけ。
10キロ痩せたパパの腕は、今や颯太にとって「ちょうどいい噛み応えのジャーキー」扱い。
パパはツルツルの頭を撫でながら、「まあ、これも成長の証か……」と、絆創膏を貼りながら目を細めるのでした。
【第三章:極秘ミッション —— 尻尾付きパジャマを確保せよ ——】
数日後。パパとママは、子供たちが学校や幼稚園に行っている隙に、大型ショッピングモールへ買い物に出かけました。
パパとママは、一緒に子供服売り場を歩いていました。
そこで、パパの目が釘付けになりました。
「ママ、見てくれ。……これだ。これしかない」
パパが指差したのは、モコモコした素材の、恐竜の着ぐるみパジャマ。
背中にはギザギザの背びれがあり、お尻の部分には、太くて立派な「尻尾」が付いています。
「うわぁ、これ、颯太が見たら狂喜乱舞するわね」
「バレないように買おう。サプライズだ」
二人は周囲を警戒しながら(?)レジへ向かい、颯太にバレないようにカバンの奥深くに隠して帰宅しました。
家に着くと、パパはそれを仕事部屋のデスクの横、例の「トカゲの餌」などが置いてある棚の隅に、音もなく忍ばせました。
【第四章:発見と「尻尾の舞」】
その日の夕方。パパが仕事をしていると、颯太がトコトコと部屋に侵入してきました。
「パパ、あそぼー」
「今、仕事中だよ。……おや? 颯太、そこにあるのは何かな?」
パパが指差した先には、わざとらしく袋からはみ出した「緑色の尻尾」。
颯太の動きが止まりました。
彼は慎重に、まるで生きた獲物に近づく肉食恐竜のように、袋へ歩み寄ります。
そして、中身を引きずり出した瞬間——。
「アッ!! アウー!! アウー!!!」
颯太のボルテージが最高潮に達しました。
彼は着ぐるみを持ったまま、リビングへと猛ダッシュ。
「ママ! ママ! アウー!!」
興奮しすぎた颯太は、着ぐるみを振り回しながら、リビングの真ん中で踊り始めました。
恐竜の舞の誕生です。
尻尾を振り回し、腰をくねらせ、上半身を激しく揺らす。
「アウー! じょー! アウー!」
ママもそれを見て大笑い。「パパ、これ大正解ね!」
【第五章:お風呂上がりの狂乱と、突然の終止符】
その夜。お風呂から上がった颯太は、一秒でも早く「恐竜」になりたくて、脱衣所で暴れ回りました。
パパとママが協力して、なんとか着ぐるみを着せます。
完成したのは、世界で一番小さな、しかし世界で一番元気なグリーン・ディノ。
背中のギザギザ、そして歩くたびに床をペシペシと叩く太い尻尾。
颯太は鏡に映る自分の姿を見て、人生で最大級の「アウー!」を放ちました。
「アウー! アウー! アウー!!」
あまりの興奮に、颯太はリビングを全速力で走り始めました。
尻尾が左右に大きく振られ、まるで遠心力で飛ばされそうな勢いです。
お姉ちゃんたちも「颯太、かっこいいー!」と盛り上げます。
しかし。
興奮が限界を超えたその時、悲劇が起きました。
「シュッ……ズデンッ!!」
自分の尻尾を踏んづけたのか、あるいはフローリングで滑ったのか。
颯太は、前向きに派手に転倒しました。
「…………ッ!!!」
一瞬の静寂。
次の瞬間、佐藤家の屋根を突き破らんばかりの「ギャーーー!!」という泣き声が響き渡りました。
痛さと、驚きと、かっこいい恐竜が転んでしまった恥ずかしさ。
パパが慌てて抱き上げます。
「よしよし、大丈夫か、ティラノサウルス!」
パパの腕の中で、ヒックヒックと泣き続ける颯太。
しかし、一日中「恐竜」として体力を使い果たしていた彼に、限界がやってきました。
泣き声が次第に小さくなり……。
「……スー、スー……」
鼻の頭を赤くしたまま、恐竜の着ぐるみに包まれて、パパの肩で寝落ちしてしまいました。
「あんなに暴れてたのに、電池切れかよ」
パパは、重くなった小さな恐竜を、そっと布団に運びました。
【第六章:朝の目覚めと「鎧」への愛】
翌朝。
颯太は目を覚ました瞬間、自分の腕を見ました。
そこには、緑色のモコモコした袖。
「……! アウー!」
記憶が蘇ったのか、颯太は布団から飛び出し、パパの寝室へ突撃しました。
「パパ! おきろ! アウー!」
朝から元気な恐竜の襲撃を受け、パパはツルツルの頭をペシペシ叩かれて目を覚ましました。
しかし、この日の颯太には、さらなる心変わりが訪れていました。
パパが図鑑を見せながら、「颯太、やっぱりティラノサウルスが一番かっこいいか?」と聞くと、颯太は首を横に振りました。
彼が指差したのは、尻尾の先に大きな「ハンマー」を持ち、背中が硬い甲羅のような鱗で覆われた草食恐竜——アンキロサウルスでした。
「あー、こっち(アンキロサウルス)!」
「えっ、ティラノとかスピノじゃないの?」
「ハンマー! ぼんっ! じょー!!」
颯太は、自分の着ぐるみの尻尾をハンマーに見立て、床を「ボンッ!」と叩く仕草をしました。
強くて怖い肉食恐竜よりも、鉄壁の守りを誇り、一撃で敵を粉砕する「鎧竜」の魅力に気づいてしまったのです。
パパが池を掘り、ママがカラーギャングになり、長女がフルスイングを放つこの家で生き抜くには、攻撃力よりも「防御力」が必要だと、2歳ながらに悟ったのかもしれません。
佐藤家の進化系統樹は、今日もまた予想もしない方向へと枝分かれしていくのでした。
「アウー!(アンキロサウルスだぞ!)」
今日もリビングには、尻尾を揺らす小さな鎧竜の咆哮が、賑やかに響き渡っています。
パパは思いました。
パパは大怪獣、ママの髪色、長女の武勇伝、次女の壁登り、三女の天パ、そして長男の恐竜化。
この家の行く末は···········




