黄金の旋律 ! 颯太、三十分間の「○○○の舞」
家のリビングは、今日も予測不可能なエネルギーに満ち溢れていました。
2歳の末っ子長男・颯太。
彼が披露したのは、家族の記憶に一生刻まれるであろう「究極の儀式」
【第一章:静寂を切り裂く、前兆のポーズ】
その日の午後は、佐藤家にしては珍しく穏やかな時間が流れていました。
小学生組の陽葵と澪は宿題を終えてトカゲのラッキーと戯れ、三女の結菜は自分のくるくる天然パーマにヘアピンを刺す作業に没頭していました。
パパ(38歳)は、10キロ痩せたシャープな顎のラインを時折鏡で確認しながら、在宅ワークの資料作成に励んでいました。ママ(33歳)はキッチンで、昨日のカラーギャング騒動で抜け始めた髪色を気にしつつ、夕飯の仕込みをしています。
その時でした。
2歳の颯太が、リビングの扉の前でピタリと足を止めました。
「……?」
パパがふと顔を上げると、颯太が何かに取り憑かれたような無表情で、一点を見つめています。そして、次の瞬間。
「じょー!!(行くぞー!)」
唐突に、彼の小さな体が激しく左右に揺れ始めました。
【第二章:開演 —— コミカル・シェイクの衝撃 ——】
颯太の踊りは、これまでに見たどのダンスとも違っていました。
両手を頭の上に高く掲げ、指先をピロピロと動かしながら、腰を驚異的な可動域でフリフリ、フリフリと振り始めたのです。
「ちょっと、颯太!? 何その動き!」
キッチンから出てきたママが、思わず声を上げました。
颯太の腰の振りは、まるで熟練のフラダンサーか、あるいは高速で回転する洗濯機の脱水槽のようです。オムツでパンパンに膨らんだお尻が、右へ左へ、コミカルにバウンドしています。
「アハハハ! 颯太くん、面白い! お尻が喋ってるみたい!」
次女の澪が手を叩いて笑い転げます。
しかし、颯太の踊りは止まりません。それどころか、ママの爆笑がガソリンになったのか、ダンスはさらに激しさを増していきました。
今度は腰を左右だけでなく、前後に激しく突き出すモーションが加わりました。
「前後にフリフリ、前後にフリフリ」
颯太はリビングの扉の前から、パパとママが座るソファの前まで、カニ歩きのように横移動しながら踊り続けます。
「見てパパ、颯太のあの顔! 無表情なのに腰だけが狂ったように動いてるわよ!」
ママは腹筋を押さえて膝をつきました。パパも仕事の手を止め、目の前で繰り広げられる「狂気と笑いのステージ」に釘付けです。
「……颯太、お前、新種の求愛ダンスか何かか?」
パパのツッコミなど耳に入らない様子で、颯太はさらにスピードを上げます。立ち止まっては腰を振り、歩きながらも腰を振る。その動きはもはや、2歳児の筋力を超越していました。
【第三章:三十分間のトランス状態】
ダンスが始まってから、すでに15分が経過しました。
普通の子供なら飽きてやめるはずですが、颯太は汗だくになりながらも踊り続けています。
「まだ踊ってるわ……。この子、将来ダンサーになるのかしら」
ママは笑いすぎて涙を拭いながら、スマホで動画を撮り始めました。
パパも時計を見ます。
20分……25分……。
「パパ、颯太くんの腰、壊れないかな?」
長女の陽葵が心配そうに見守る中、颯太はついにパパとママの目の前、最短距離に陣取りました。
至近距離で、突き出されるオムツお尻。
激しく上下する腕。
そして、一点を見つめる鋭い眼光。
パパは思いました。
(これは、何か大きな力を呼び出そうとしている儀式に違いない。あるいは、ダイエット中の俺に対する、カロリー消費の見せつけか?)
30分が経過しようとしたその時、颯太の動きがフッと止まりました。
まるで魔法が解けたかのように、彼は腕を下げ、深く息を吐きました。
リビングに訪れた、久々の静寂。
パパとママは、感動すら覚えていました。30分間も踊り続けた息子の体力と、そのシュールなエンターテインメント性に。
そして、颯太はパパとママの顔をじっと見上げ、静かに、しかし力強く、こう告げたのです。
「……うんち、でた」
【第四章:衝撃のタイムライン】
「…………えっ?」
ママの時が止まりました。パパもキーボードの上で指を固まらせました。
今、この子はなんて言った?
「うんち、出たの?」
ママが恐る恐る聞き返すと、颯太は満足げにコクンと頷きました。
「いつ……いつ出たのよ? 今? 踊り終わった今出たの?」
ママが尋ねると、颯太は首を振り、最初のリビングの扉の前を指差しました。
「あちー(あっち)」
「えっ、あっち……って、あのダンスを始める前ってこと!?」
ママの声が裏返ります。
「颯太、ダンスを踊る前から、もう出てたの?」
颯太は清々しい顔で答えました。
「うー(うん)」
「ギャーーハハハハ!!!」
ママが床に転がりました。
「ちょっと待って! ということは、何!? 颯太は、オムツの中に『黄金の果実』を抱えたまま、あんなに激しく、30分間も腰を振ってたってこと!?」
パパも椅子から転げ落ちそうになりました。
通常、颯太はうんちが出るとすぐに「うんち出た〜」と報告に来る素直な子です。なのに今日に限って、彼は報告よりも先に「舞」を選んだ。
しかも、中身が入った状態で、前後左右に、あんなにフルスイングで。
「アハハハ! 熟成されてる! 30分間、シェイクされてるわよ!」
ママは笑いすぎて呼吸困難に陥っています。
「颯太! なんで言わなかったのよ! 気持ち悪くなかったの!?」
颯太はケロッとして、「おどる、たのしかった」と言わんばかりのドヤ顔をしています。
【第五章:オムツ替えという名の「事後処理」】
笑い死にそうになりながらも、ママは母親の義務を果たすべく、颯太を寝かせました。
「もう……怖いわ。開けるのが怖いわよ」
パパも野次馬根性で横から覗き込みます。
ママがオムツのテープをバリバリっと剥がした瞬間。
「…………っ!!」
二人は無言で鼻を抑え、のけぞりました。
そこには、30分間の激しいシェイクと体温によって、極限まで「練り上げられた」芸術作品が鎮座していました。
「パパ……これ、もはや『練り香水』とかのレベルじゃないわよ。攻撃力がカンストしてるわ」
ママは笑いと悪臭のダブルパンチで、顔をぐちゃぐちゃにしながらオムツを替えています。
パパは、その様子を横で見ながら、つい口を滑らせました。
「……30分間、『うんちの舞』だったわけね」
その言葉が、ママのトドメを刺しました。
「……ッ、フフ……アハ、アハハハハ!! 『うんちの舞』!! やめてパパ! お腹痛い! 腹筋が、腹筋が死ぬ!!」
ママはオムツを持ったまま、笑いすぎて後ろにひっくり返りそうになりました。
「あんなに、あんなに高潔なダンスに見えたのに! 実態は『うんちの舞』だったなんて!!」
リビングにはママの絶叫に近い笑い声が響き渡り、長女も次女も三女も、事情を知って大爆笑。佐藤家は「うんちの舞」というパワーワードによって、一つにまとまったのです。
【第六章:そして日常へ —— 舞の余韻 ——】
スッキリした顔で新しいオムツを履いた颯太は、何事もなかったかのようにミニカーで遊び始めました。
一方、ママはその後1時間、思い出し笑いで家事が手につかない状態に。
「ねえパパ……フフッ。あの時の、腰を前に突き出した瞬間の颯太の顔……思い出したらまた……クククッ」
「ママ、もうやめろ。俺も仕事が進まない」
パパは再びパソコンに向かいましたが、画面の文字がすべて「フリフリ」と動いているように見えて仕方がありませんでした。
夜、子供たちが寝静まった後。
パパとママは、今日撮った動画を何度も見返しました。
画面の中で、頭の上に手を掲げ、激しく腰を振る颯太。そのオムツの中には、すでに「彼」がいたのだと思うと、一コマ一コマが愛おしく、そして猛烈におかしい。
「パパ。この子、やっぱり大物になるわね」
「ああ。あんな状況で30分踊り続ける精神力は、俺のダイエットなんて比じゃないよ」
結局、パパの10キロ減の成果は、颯太の「うんこの舞」の衝撃によって、またしても家族の話題から消え去っていきました。
パパはツルツルの頭を撫でながら、そっと呟きました。
どんなに大変なことがあっても、夜に熱が出ても、誰かが喧嘩をしても、ママがカラーギャングになっても。
この家には、すべてを笑いに変える「うんちの舞」がある。
佐藤家の明日は、今日よりもさらに激しく、腰を振るような一日になるに違いない




