マジョリティを塗り潰せ! 我が家のボスが地域のBOSS(特攻隊長)になった一週間
38歳のパパが「天然ハゲ社長」や「長女のフルスイング」に翻弄されている間に、家庭の支配者であるママ(33歳)が、ついにその眠れる本能を解き放つ
【第一章:金髪の衝撃 —— ボスの覚醒 ——】
それは、ある土曜日の昼下がりのことでした。
「ちょっと髪切ってくるわ。お昼は適当に食べてて」
そう言い残して家を出たママの背中は、いつも通り、4人の子供たちをなぎ倒して進む軍神のようでした。パパはいつものように、2歳の颯太と格闘しながら「はいはい、ゆっくりね〜」と見送ったのです。
数時間後。玄関が開く音がしました。
「ただいまー」
その声と共にリビングに現れたのは、パパの知っている「33歳のママ」ではありませんでした。
そこにいたのは、陽光を跳ね返すような輝きを放つ、完全なる金髪の美女。
「……えっ。ママ?」
パパは持っていたコーヒーをこぼしかけました。元々派手な色は嫌いじゃない人でしたが、今回の金髪はレベルが違いました。透き通るようなプラチナブロンド。
「パパ、どう? ちょっと明るすぎたかしら」
ハにかむママを見て、子供たちが文字通り「爆発」しました。
「ママ、お姫様みたい!」「可愛い! 綺麗!」「ママ、強そう!」
陽葵、澪、結菜がママを取り囲み、アイドルを出迎えるファンのように大興奮。2歳の颯太にいたっては「ちんぱつ! ちんぱつ(金髪)!」と叫びながら、ママの神々しい頭を拝むように触っています。
パパは思いました。(おだてれば木に登る……いや、この人は木をなぎ倒して進むタイプだ。この金髪は、さらなる嵐の前触れに違いない)
【第二章:インナーピンクの降臨 —— ヤンキー・ライジング ——】
数日後。金髪に目が慣れてきた頃、ママは再び美容院へと向かいました。
「ちょっとリタッチしてくる」
帰ってきたママを見た瞬間、パパは確信しました。
「あ、これ、完全にヤバい人だ」
表面は、燃えるような情熱のブラッド・レッド。
そして髪をかきあげると、内側からは眩いばかりのショッキングピンクが顔を出します。
さらに毛先も遊び心たっぷりのピンク。
どこからどう見ても、深夜のドン・キホーテで最強のオーラを放つ「伝説のレディース総長」です。
閑静な住宅街の、トカゲを飼っている家の玄関から出てきていい色ではありません。
「ママ……それ、ヤンキーっていうか、もう特攻服が似合いそうだよ」
パパの震える声に、ママは鏡を見ながら満足げに笑いました。
「いいじゃない。子供たちも喜んでるし」
その通りでした。子供たちは、この「ド派手なボス」に熱狂しました。
「ママ、かっこいい! 炎の使い手みたい!」「必殺技、出せそう!」
もはやママは、家の中の守護神から、異世界の勇者か悪役令嬢のような存在へと昇華したのです。
【第三章:カラーギャング集団の結成 —— 伝染する色彩 ——】
驚くべきは、ここからでした。
ママがこの「ヤンキー・スタイル」で幼稚園の送迎や小学校の保護者会に顔を出すようになると、周囲のママ友たちの間に、奇妙な現象が起き始めたのです。
数日後、幼稚園にお迎えに行ったパパは、目を疑いました。
「あ、結菜ちゃんのパパ。お疲れ様です〜」
挨拶をしてきたのは、いつも清楚なベージュのワンピースを着ていたはずのAさん。彼女の頭は、今や深海のような真っ青。
「あ、パパさん。こんにちは!」
次に声をかけてきたBさんは、新緑のような鮮やかなグリーン。
さらにCさんは、金髪に紫のメッシュ。
園庭を見渡せば、そこにはピンク、ブルー、グリーン、オレンジ……。
かつて「閑静な住宅街」と呼ばれたこの街の送り迎えスポットが、一瞬にして「カラーギャングの抗争現場」のようになっていたのです。
「ちょっとママ、何なのこれ。みんな染まってるじゃないか!」
帰宅したパパが叫ぶと、ママは涼しい顔で答えました。
「みんな、本当はやりたかったのよ。でも勇気がなかっただけ。私が先陣を切ったら、みんな『自分も!』ってなったみたい」
死語だと思っていた「カラーギャング」。それが令和の住宅街に、ママたちの解放運動として蘇ったのです。
【第四章:街のばーちゃんたちも染まる —— 終わらない色彩の輪 ——】
騒動はママ友の間だけでは終わりませんでした。
ある日、パパがゴミ出しに行くと、近所の「超」がつくほど厳格で有名なおばあちゃん、田中さん(80歳)に出会いました。
「田中さん、おはようござ……えっ!?」
田中さんの、いつも綺麗に整えられていた白髪が、鮮やかなラベンダーパープルに染まっていました。
「おほほ。佐藤さんの奥様に勧められてね。人生、最後くらい華やかにしようと思って。いいでしょう?」
一人、また一人。
買い物帰りの近所のおばあちゃんが、毛先だけオレンジに。
犬の散歩中のおじいちゃんが、サイドにブルーのラインを。
パパの家の「ボス」が発信源となり、街全体の彩度が限界突破していきました。
「うちの嫁は、この街をラスベガスにでも変えるつもりか……」
パパは冷や汗を流しながら、一人、自分のツルツルに剃り上げた頭を撫でました。せめて自分だけは、この極彩色の中の「空白(無色)」を守り抜こうと。
【第五章:ボスの帰還 —— 色の抜け殻と日常 ——】
それから1ヶ月。
熱狂の「カラーギャング」ブームも、少しずつ落ち着きを見せ始めました。
派手な色はメンテナンスが大変です。染めるには勇気がいりますが、維持するにはさらなる忍耐と美容代が必要です。
ある朝、パパがキッチンへ行くと、そこには「元・総長」の姿がありました。
燃えるような赤も、ショッキングピンクも、日々のシャワーと日光によって抜け落ち、ママの髪は落ち着いた「普通の茶髪」に戻っていました。
「あらパパ、おはよう」
トーストを焼くママ。その姿は、あのヤンキーの面影はなく、いつもの「我が家の頼れるボス」でした。
「……ママ、色が抜けちゃったね」
「そうね。さすがにあの色は、幼稚園の先生に『結菜ちゃんがお絵描きでママの顔を赤とピンクのクレヨンでしか描かなくなりました』って心配されちゃったから」
パパはホッとしました。
街のカラーギャングたちも、徐々に茶髪や黒髪に戻りつつあります。
田中さんのおばあちゃんも、ラベンダーが淡いグレーになり、街は再び「閑静な住宅街」としての平穏を取り戻そうとしていました。
【第六章:そして、新たな野望へ】
しかし、パパは知っています。このボスの内なる炎が消えたわけではないことを。
「パパ。次はね、『ギャラクシーカラー(宇宙色)』っていうのが流行ってるらしいわよ。星空みたいに青と紫と銀が混ざった色。どう思う?」
パパは、飲んでいたスープを吹き出しそうになりました。
「……ママ。お願いだから、まずは俺の10キロ痩せたダイエットの成果に気づいてからにしてくれ」
「え? パパ、痩せたの? ……あ、本当だ。やつれてるわね。苦労してるのねぇ」
やっぱり気づかれていない。10キロ減の衝撃よりも、ママの頭の衝撃の方が勝っていたのです。
「パパ! ママ、次は宇宙になるの? 結菜も宇宙がいい!」
三女の結菜が、自分のくるくる天然パーマを振り回しながら参戦します。
「よし、結菜。パパが許可する。結菜のその天パを、宇宙で一番可愛い『星屑』にしてあげよう!」
パパは、結局ママの勢いに呑まれ、またしても新しい騒動を肯定してしまうのでした。
我が家のボスが本物のBOSSとして君臨し続ける限り、佐藤家の日常に「モノクローム」な日々は訪れないようです。




