表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6人家族の珍道中 ドタバタ家族の記録  作者: ゴリラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/31

螺旋(らせん)の天使と、丸刈りの父 — 三女・結菜の天パ大戦争 —

三女・結菜ゆいなちゃんの「くるくる天然パーマ」を巡る、パパの悶絶と親子の攻防戦

【第一章:遺伝という名の呪いと祝福】

日曜日の朝。この家の洗面台は、一日のうちで最も過酷な場所となります。

鏡の前で、パパ(38歳)は自らの頭にバリカンを当てていました。ジョリジョリという乾いた音が、静かな朝に響きます。

「……よし、今日も完璧だ。1ミリの隙もない」

パパが頭を剃り続ける理由。それは、かつて自分を苦しめた「剛毛・超絶天然パーマ」を封印するためでした。湿気を含めば爆発し、乾けばたわしのように硬くなる。そんな自分の髪質を愛せなかったパパは、大人になって「剃る」という究極の解決策に辿り着いたのです。

しかし。

そんなパパの「負の遺産」とも言える遺伝子が、最も残酷で、かつ最高に可愛らしい形で受け継がれてしまいました。

それが、三女の結菜(4歳)です。

「パパー……。ゆいなのお髪、今日も『ぴょんぴょん』なの……」

パジャマ姿の結菜が、涙目で洗面所にやってきました。

その頭は、もはや「寝癖」という概念を超えていました。右は右へ、左は左へ。そして中央部は空に向かって螺旋を描き、まるで意志を持った植物のように自由奔放にうねっています。

パパはその頭を見た瞬間、バリカンの手を止め、胸の鼓動が激しくなるのを感じました。

(か……可愛い。なんて尊いカールなんだ。これは神が描いた曲線だ!)

「結菜、おはよう。今日もいい具合に巻いてるねぇ。パパはね、この髪型、世界で一番好きだよ」

「やだ! パパとおんなじ『つるつる』がいい! ぴょんぴょん、嫌いなの!」

パパの親バカ全開の褒め言葉も、4歳女子の「お姉ちゃんになりたい心」には1ミリも届きません。結菜の天パ大戦争、本日も開戦です。

【第二章:パイナップルの誕生 —— 鏡の前の絶望 ——】

朝食後、ママ(33歳)の「地獄のヘアセットタイム」が始まります。

長女・陽葵(9歳)と次女・澪(7歳)は、パパの遺伝子が薄まったのか、ほどよいウェーブの「ゆるふわ天パ」。ブラッシング一つで、今どきのオシャレ女子のような仕上がりになります。

「いいなぁ、陽葵ちゃん。今日もツルツル(ストレート)だね」

「ツルツルじゃないよ、澪。お姉ちゃんもちょっと巻いてるよ」

二人が涼しい顔で鏡を見ている横で、ママが結菜の髪に霧吹きを吹きかけます。シュッシュッと水を与えられた結菜の髪は、一時的に落ち着くかと思いきや、乾き始めた瞬間に「反動」でさらに激しく巻き戻ります。

「結菜、今日はどうする? 二つ結びにする?」

「おねえちゃんとおんなじ、シュッてした三つ編みがいい!」

ママは覚悟を決めました。

しかし、結菜の髪は一本一本が「私は自由よ!」と主張しています。三つ編みを編もうとしても、編み目の途中から短い髪が「ぴょぴょぴょぴょん!」とスプリングのように飛び出してきます。

「……無理。結菜、三つ編みは無理よ。髪が暴走してるわ」

ママの最終手段。それは、頭のてっぺんで一つにまとめ、ゴムでガッチリ固定すること。

完成したのは、結菜の天パが上に向かって噴水のように広がる、見事な「パイナップル・ヘア」でした。

「できたわよ。可愛いパイナップルさん!」

結菜が鏡を見ます。

そこには、四方八方に髪を散らかし、情熱的にうねり狂う自分の頭がありました。

結菜の口がヘの字に曲がります。

「これ……パイナップルじゃない。……モンスターだもん!!」

「そんなことないよ結菜! ほら、パパを見てごらん!」

パパが横から割り込みます。

「パパのこの『つるつる』より、結菜のその『ぴょんぴょん』の方が、100倍オシャレだよ! パパなんて、その髪になりたくて、なれなくて、諦めて剃ったんだから!」

「パパは嘘つき! ぴょんぴょん、お顔に刺さって痛いんだもん!」

結菜は怒ってリビングを走り回りました。走るたびに、頭の上のパイナップルが「ボヨン、ボヨン」と弾みます。その躍動感に、パパはカメラを構えずにはいられませんでした。

【第三章:幼稚園の洗礼 —— くるくるは正義か? ——】

幼稚園への登園時間。例の「歩いて行きたい病」を発動中の結菜を連れて、ママは出発します。

道中、近所のおばあちゃんに会うと、必ずこう言われます。

「あらぁ! 結菜ちゃん、今日もとびきり可愛いわねぇ! その天然パーマ、お金を払ってもなれないわよ。フランスのお人形さんみたい!」

ママは「ありがとうございます〜」と笑顔で返しますが、結菜は「お人形さんじゃないもん。パイナップルだもん」と不機嫌そうに呟きます。

幼稚園に着くと、ストレートヘアの友達たちが結菜の周りに集まってきました。

「結菜ちゃんのお髪、触っていい? ふわふわしてる!」

「バネみたい! びよーん!」

子供たちにとっては「魔法の髪」でも、本人にとっては「整わない、結べない、お姉ちゃんになれない」悩みの種。

帰宅後、結菜は玄関で帽子を脱ぎ捨て、再び爆発した頭でママに訴えました。

「ママ。明日、美容院いこう? 結菜、お姉ちゃんみたいに、お背中まで『シュッ』ってしたいの」

ママは困り果てました。

「結菜、美容院に行っても、あなたの髪を『シュッ』とするには、とっても強いお薬と、長い時間が必要なのよ。4歳の結菜にはまだ早いわ」

その夜、パパは寝ている結菜の頭をそっと撫でました。

指に絡みつく、強烈なカール。

「いいじゃないか、結菜。パパは、この髪型で笑ってる結菜が、世界で一番好きなんだよ。いつか、自分で自分の髪を『宝物』だと思える日が来るまで、パパが全力で褒めちぎってやるからな」

【第四章:パパの「身代わり」大作戦】

結菜の天パ嫌いを少しでも和らげるため、パパはある作戦を思いつきました。

「そうだ。パパが天パを嫌って剃っているから、結菜も嫌いになるんだ。パパが自分の髪を愛する姿を見せればいいんだ!」

……といっても、パパの頭はすでにツルツル。生えるのを待つには時間がかかります。

そこでパパは、休日の朝、子供たちの前で**「くるくるカツラ」**を被って登場しました。

「見てくれ、結菜! パパも結菜とお揃いになったぞ! くるくるパパだ!」

アフロヘアのような巨大なカツラを被り、踊り狂う38歳の父。

長女・陽葵は冷めた目で「……パパ、何やってんの?」と一言。

次女・澪は「あはは! パパ、でっかいトイプードルみたい!」と大爆笑。

結菜はといえば……。

「……パパ、それ、変だよ。ゆいなの『ぴょんぴょん』は、そんなに大きくないもん。パパのは、ただのゴミ捨て場のモジャモジャだよ」

作戦は、無残にも失敗に終わりました。

4歳児の審美眼は、パパの空回りした努力を見事に切り捨てたのでした。

【第五章:雨の日の「大爆発」】

そして、一番の難敵がやってきました。「湿気」です。

ある雨の日。幼稚園から帰ってきた結菜の頭は、もはや「パイナップル」を超えて「雷様」のようになっていました。

水分を吸収した髪が、全方向に膨張し、ボリュームが2倍にアップ。

「重い……お髪が重いよぉ……」

結菜はついに泣き出してしまいました。

「雨、きらい! ぴょんぴょん、もっとぴょんぴょんになっちゃった! 結菜、もう幼稚園行かない!」

ママが懸命にドライヤーで乾かしますが、乾けば乾くほど、髪はさらに複雑な迷宮を形成していきます。

そこへ、長男の颯太(2歳)が、結菜の髪に自分のおもちゃの「小さな飛行機」を突っ込みました。

「ぶーん! ちゃくりくー!」

「わーん! 颯太くんが結菜の頭を飛行場にしたー!!」

結菜の髪は密度が高いため、一度入ったおもちゃは容易には出てきません。パパが必死に飛行機を救出し、結菜を抱きしめます。

「いいか、結菜。飛行機が着陸したくなるくらい、結菜の髪は『柔らかくて暖かい場所』なんだ。それは、とっても素敵なことなんだぞ」

「……パパ、うるさい」

パパの渾身のフォローも、雨の日の不快感には勝てませんでした。

【第六章:お姉ちゃんたちの優しさ】

そんな結菜を見て、長女の陽葵と次女の澪が動き出しました。

「ねえ、結菜。お姉ちゃんたちが、結菜の髪を可愛くデコレーションしてあげるよ」

二人は自分たちの宝物である、キラキラしたヘアピンやカラフルなゴムを山ほど持ってきました。

「天パだからこそ、ピンがいっぱい止まるんだよ。お姉ちゃんたちの髪はサラサラすぎて、すぐ落ちちゃうんだから」

陽葵が結菜の暴れる髪を一つずつ丁寧にピンで留めていきます。

「ここは、お星様のピン。ここは、お花のピン」

澪も手伝い、結菜の頭はみるみるうちに「キラキラの宝箱」のようになっていきました。

「できたよ、結菜! 見て!」

鏡を覗き込んだ結菜。

そこには、四方八方に散らかる髪を逆手に取った、世界に一つだけの「ジュエル・パイナップル」が完成していました。

「……あ。可愛いかも」

結菜の顔に、ようやく笑顔が戻りました。

「ねえパパ! 結菜、お星様がいっぱいだよ!」

「本当だ! 宇宙一可愛いよ、結菜!」

パパは涙をこらえながら、その姿をスマホのカメラに収めました。

天パを嫌う三女と、それを必死に肯定するパパ。そして、それを優しく包み込むお姉ちゃんたち。

【エピローグ:パパの決意】

その夜、パパは洗面所で自分の頭を撫でました。

ジョリジョリとした、潔い感触。

(いつか、結菜が自分の髪を本当に嫌いじゃなくなった時……。その時、俺ももう一度、髪を伸ばしてみようかな)

そんなことを思いながら、パパは結菜が脱ぎ散らかした「お星様のピン」を一つ拾い上げました。

三女・結菜の天然パーマは、明日もまた、朝の光と共に自由にうねり、パパの心をキュンキュンさせ、ママを困らせ、家族を笑顔にするのでしょう。

「パパ、明日は『スイカ』にして!」

「……え、スイカ? 結菜、それはパパにもママにも難易度が高すぎるよ……」

パイナップルの次はスイカ。

結菜のヘアセット大戦争は、まだまだ終わる気配がありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ