社長の頭は天然記念物!? 長男の暴言とパパの進退をかけた一週間
インフルエンザ、胃腸炎、そして極寒の熱海ドライブ。そんな怒涛の連休が明け、家族に「いつもの日常」が戻ってきました。……といっても、この6人家族に「平穏」という文字は無し
【月曜日:嵐の前の、いつもの朝】
月曜日の朝。リビングは再び「戦場」と化していました。
「澪! 宿題のプリント、ランドセルに入れた!?」「陽葵、名札忘れてるわよ!」
ママ(33歳)の怒号が響く中、小学3年生の陽葵と1年生の澪が、重いランドセルを背負ってバタバタと家を出ていきます。
その後を追うのは、ママと三女・結菜(4歳)。例の「歩いて登園したい病」は継続中で、ママは2歳の颯太を自宅に、パパに託して出発します。
「パパ、今日はお仕事でしょ? 颯太をお願いね。お昼は冷蔵庫の残り物食べて!」
「了解。今日は在宅ワークだし、颯太とお留守番は余裕だよ」
パパはコーヒーを飲みながら、余裕の表情。颯太はパパの足元で、トカゲの「いちごちゃん」のケージをトントンと叩きながら「じょー!(トカゲ出せー!)」と叫んでいます。平和な一週間の始まり……に見えました。
【水曜日:運命の「急遽出社」アラート】
在宅ワーク3日目の水曜日。事件は起きました。
午前10時、パパのスマホがけたたましく鳴り響きます。
「もしもし? ……えっ、システムトラブル!? 今すぐ会社に来いって!? いや、でも今日は子供が……。ええい、わかった! すぐ行く!」
トラブル対応に待ったはなし。しかし、ママは幼稚園の行事で連絡がつかず、上の子たちは学校。手元には、アンパンマンの動画を見てケラケラ笑っている2歳の颯太。
「颯太、行くぞ! パパと一緒に、パパの『戦場(会社)』へ突撃だ!」
パパは慌ててオムツ3枚とおしりふき、お菓子をカバンに詰め込み、颯太を抱えて家を飛び出しました。
【会社到着:静寂を切り裂く長男の咆哮】
電車とタクシーを乗り継ぎ、パパは会社に到着しました。
オフィスビル。静かなフロア。キーボードを叩く音だけが響く中、パパは「静かにね、颯太。シーッだよ」と何度も耳元で囁きました。
颯太は最初、見たことのない広いオフィスとたくさんの大人たちに圧倒され、パパの首にしがみついてガチガチに緊張していました。
(よし、このまま静かにしていてくれれば、トラブル対応だけして帰れる……)
パパがトラブル対応のデスクに座ろうとした、その時です。
フロアの奥から、我が社のトップ、社長が悠々と歩いてきました。
社長は、仕事はできるが、頭頂部が実に見事に、太陽の光を反射して「輝いている」ことで有名な御仁です。
それを見た颯太の瞳が、これまでにないほどキラキラと輝き始めました。
緊張から解放された反動でしょうか。颯太はパパの腕から身を乗り出し、フロア全体に響き渡るような大きな声で叫んだのです。
「あ! パパ! あの人、ピカピカつるつるー!! パパといっしょだー!!」
一瞬、オフィスからキーボードの音が消えました。
全社員の視線が、社長の頭と、パパの頭(こちらは自ら短く刈り込んでいるスタイル)、そして満面の笑みを浮かべる2歳児に集中しました。
パパの背中に、真冬なのに滝のような冷や汗が流れます。
「……し、颯太。それは言っちゃダメなやつ。……パパはね、自分で剃ってるから無いの。でも、あの人は『天然』だから。自然の摂理だから言っちゃダメなんだよ!」
必死のフォロー。しかし、パパは口を滑らせました。「天然」という言葉が、逆に火に油を注ぐことになるとは。
「プッ……」「ククク……」
周囲の社員たちが、必死に笑いを堪えて肩を震わせ始めました。
【社長、降臨:逃げ場のない真実】
ゆっくりと、社長がこちらに向かって歩いてきます。パパは、今日が自分の会社員生活の命日になることを覚悟しました。
社長が目の前に立った瞬間、颯太はトドメの一撃を放ちました。社長の顔を指差し、親愛の情を込めてこう叫んだのです。
「おじさん、ハゲだよー! つるつるピカピカ、ハゲアタマー!!」
「ひっ……!」
パパは膝から崩れ落ちそうになりました。オフィスには、もはや隠しきれない爆笑の渦が巻き起こっています。
すると、社長はどうしたでしょうか。
なんと、社長は颯太の目線に合わせて腰をかがめ、自分の頭をなでながら豪快に笑い飛ばしたのです。
「ははは! 坊主、よく分かってるじゃないか! そうだよ、おじさんはハゲだよー。つるつるなんだよー!」
社長は指で自分の頭を「キュッキュッ」と鳴らすジェスチャーまで披露。
「お父さんの仕事中、いい子にしてるんだぞ。おじさんの頭を撫でてみるか?」
「なでるー!!」
颯太は嬉しそうに、社長の頭をペシペシと叩きました。
「……社長、本当に、本当に申し訳ございません。息子が失礼なことを……」
パパが平謝りすると、社長はニヤリと笑いました。
「いいよ、正直な意見だ。でもパパさん、『天然』ってのは余計だったな」
優しい社長の会社で本当に良かった。パパは胸を撫で下ろしました。
【金曜日:リモート会議の公開処刑】
それから2日後。パパは再び在宅ワークに戻り、社長も参加する重要なリモート会議に出席していました。
トラブルも解決し、和やかな雰囲気で会議が進んでいた時、社長がふと思い出したように言いました。
「あ、そういえばパパさん。この間は息子さんに会えて楽しかったよ。……でもね、改めて言っておくけど、私は『天然』のハゲだからねぇ〜。パパさんみたいにメンテナンスして維持してるわけじゃないから。希少価値が高いんだよ」
画面上の全社員が大爆笑。
「パパさん、天然記念物の保護、よろしくお願いしますね!」と、同僚の野次まで飛びます。
画面の中ではみんなが笑っていますが、パパ一人だけは笑えませんでした。
(社長、まだ根に持ってる……! 笑顔でグサグサ刺してくるタイプだ、これ!)
パパの10キロ痩せたシャープな輪郭も、この屈辱(?)のせいで引きつり、ダイエットの成果よりも「不審な表情」として画面に映し出されていました。
【土曜日:お菓子と息子の「再・謝罪」行脚】
このままでは、次の査定が危ない(かもしれない)。
そう危惧したパパは、土曜日の休日、ママにお願いして最高級の洋菓子詰め合わせを用意してもらいました。
「ほら、颯太。もう一回会社に行くよ。今度こそ『かっこいいおじさま』って言うんだぞ」
パパは颯太に言い聞かせましたが、颯太は「つるつるおじさん、いくー!」とやる気満々です。
休日出勤していた社長のもとへ向かい、パパは深々と頭を下げました。
「社長、先日は本当に失礼しました。これ、家族からです」
お菓子を受け取った社長は、颯太を見て「お、ハゲ仲間が来たか」と上機嫌。
颯太はお菓子を渡すと、社長の頭をじっと見つめ、パパとの特訓の成果を出そうとしました。
「……おじさん、ピカピカ。……ダイヤモンドみたい!」
パパはガッツポーズ。完璧です。
しかし、颯太は最後の一言を付け加えるのを忘れませんでした。
「ダイヤモンド、ハゲアタマー!!」
結局、社長室には社長の笑い声とパパの悲鳴が再び響き渡ることとなりました。
【一週間の結末:パパのダイエットと日常】
こうして、激動の一週間が終わりました。
相変わらず、小学生の姉たちは宿題に追われ、三女は歩いて登園し、パパは「天然」のハゲ社長に目をつけられ(?)、10キロ痩せた体でキーボードを叩いています。
夕飯時、ママがボソッと言いました。
「パパ、なんか……最近、顔がやつれてない? 苦労してるのね、会社で」
パパは心の中でガッツポーズをしました。
(ついに気づいたか! 10キロ減の成果に!)
「……まあね。天然記念物の保護は大変なんだよ」
パパがそう答えると、颯太が横で「つるつるー!」と叫び、家族全員が笑いました。
パパの日常は、明日もまた、ドタバタと幕を開けるのです。
誰にも気づかれない秘密のダイエットは、まだ続いています。
しかし、社長の頭のように「輝かしい未来」が待っているかどうかは、まだ誰にも分かりません。




