豆の散歩と、パパの「計画的」な衝動買い
38歳のパパにとって、爬虫類ショップやペットショップは「魔界」です。
「見るだけ」と決めていても、運命は突然やってくるもの。
AM 10:00 平和な散歩タイム
日曜日の午前中。パパはウッドデッキの横で、マルギナータリクガメの「豆」を地面に放した。
「パパ、豆さんとお散歩いく!」
三女の結菜(4歳)が、自分のお気に入りのポシェットを下げてやってくる。
「よし、行こう。豆、今日はあっちの公園の草むらまで遠征だぞ」
時速0.1キロの豆、小走りの結菜、そして見守るパパ。一行は近所の公園へと向かった。豆が道端のタンポポを食べるのを20分間じっと見守るという、究極に贅沢(で忍耐のいる)な時間。
「パパ、豆さんお腹いっぱいだって。次はお店いこう?」
結菜が指差したのは、公園の近くにある、パパがいつも「目の毒だ」と言って避けている総合ペットショップだった。
AM 11:00 運命のキンカチョウ
「……見るだけだぞ。ルリ(モニター)のエサのコオロギを買うだけだからな」
そう自分に言い聞かせて入店したパパだったが、鳥コーナーの前で足が止まった。
そこにいたのは、一羽のキンカチョウ。
オレンジ色の頬に、シマウマのような首元の模様。そして「メー!メー!」と、まるで小さなおもちゃのラッパのような鳴き声。
(……なんだ、この可愛さは。トカゲにはない、このフワフワ感……)
パパの脳内に電撃が走った。
「パパ、この鳥さん『メー!』って言ってるよ! 結菜これ好き!」
結菜のその一言が、パパの背中を全力で押した。
PM 12:30 帰宅と「言い訳タイム」
「ただいまー……」
玄関を開けるパパの手には、豆のケージの他に、見慣れない小さな鳥かご。
キッチンからママ(33歳)が鋭い視線で現れる。
「おかえり。……ねえパパ、その右手に持ってる『白い布が被せられた箱』は何?」
パパの冷や汗が止まらない。
「あ、いや、これか? これは、その……『教育』だよ」
「教育?」
「そう! ほら、陽葵(長女)はトカゲで命の尊さを学んでるだろ? でも、哺乳類や鳥類の『温かさ』も知るべきだと思うんだ。これは家族の情操教育のための、いわば教材というか……」
「パパ、これ『キンカチョウ』でしょ。一目惚れしたんでしょ」
「……バレた?」
パパは必死に言い訳を重ねる。
「違うんだ、聞いてくれ! この子はショップで一羽だけポツンと寂しそうにしてて、俺と目が合った瞬間に『パパ、連れて帰って』って言ったんだ! 本当なんだ!」
「鳥が『パパ』なんて言うわけないでしょ」
ママが呆れ顔で鳥かごを覗き込むと、中から「メー! メー!」と可愛い鳴き声が。
「あ……可愛い」
ママの表情がわずかに緩んだ。その隙を逃さず、結菜が加勢する。
「ママ、この子ね、結菜とお花のお話しするの! お名前は『メーちゃん』にしたの!」
「……もう。次は絶対相談してって言ったでしょ」
「わかってる! 次は必ず! あ、でもルリのケージを少し大きくすれば、もう一種くらい……」
「パパ!!」
その日の午後
結局、新しい家族「メーちゃん」はリビングの一等地に鎮座することになった。
長女の陽葵はラッキー(トカゲ)にメーちゃんを紹介し、長男の颯太はカゴの周りを「メー!メー!」と叫びながら走り回っている。
パパはママに内緒で、こっそりスマホで「キンカチョウ 飼い方 多頭飼い」と検索し始めていた。
そして、真夜中にママから静かにお説教をうけるパパをジャンクルジムのように遊ぶ長男……




