第3話・初遭遇に襲撃を添えて
太陽が真上を通過しようとする頃、少し離れた所からさっきも聞いた鳴き声がまた聞こえてきた。
俺はその場にしゃがみ込み、小さな崖になっている奥の方を覗き見る。
するとそこには、剣や鎧で武装をした何十体ものゴブリンらが集団でたむろしていた。
それに、他よりも図体の大きいゴブリンが何体かおり、その中でも特に大きな個体は、厳つい大剣を持って鎧を着込み、完全武装していた。
予想だが、あれはゴブリンの上位種と呼ばれる存在だろう。
(こんな所に集まって何を……? とりあえず、まだこちらには気付いてないようだし奇襲を仕掛けるか)
そう考えた俺は、「《召喚》」と禁魔書を呼び出した。
「少しデカめのいくか……ぶっ壊せ、《破壊星》」
浮かび上がった白色の魔術陣から、一筋の白い光が流星のように流れ落ちていく。
そして、光が1体のゴブリンを撃ち抜いた瞬間……
白い閃光を発しながら、大爆発を起こした。
「久々にこの魔術を使ったが、破壊力抜群で爽快感があるな」
禁魔書を消した俺はゴブリンらの生死を確認をするために、崖に近付いてその下を覗き見る。
その場には、ゴブリンの死体どころか木々すら残っておらず、全てが消滅していた。
「よいしょっと。うわぁ、跡形もねえな……あ?」
崖を下って地面に降り立つと、俺は少し離れた奥の方に逃走している数体のゴブリンの姿を見つける。
「離れてたやつがいたのか。ちっ、逃すか!」
俺は剣を鞘から引き抜くと、全速力で駆け出した。
◆
アルケレス王国の辺境に位置する、アーミナー大森林。
その中を通る街道の上を走る馬車で、冒険者である俺――バルドは相方のジグと雑談をしていた。
「今日は魔物が少ないな。俺らはラッキーだぜ、バルド!」
「ああそうだな。それに、あと少しすればもうナートレアだ」
俺たちは今、商人であるダージの旦那の依頼――辺境の町であるナートレアと、海に面した港町シーナギの往復路の護衛を受けて、その帰り道を進んでいる。
ジグの言う通り、今日は珍しく魔物の襲撃が少ない。
普段ならわんさか出てくるゴブリンですら、まだ1体も見ていないくらいだ。
(いや……どう考えても怪しいな。魔物暴走でも起きるのか?)
そんなことを考えながらチラリと後ろを見ると、同じく依頼を受けているエルフの女が、自身の槍の手入れをしていた。
「旦那ー、街にはいつぐらいに着くんだ?」
「そうですね……たぶんですけど、遅くても日没までには着くと思いますよ」
「おお、そりゃあ早い! そうだ、バルド」
先頭で馬を操っている旦那に話しかけていたジグが、俺の肩を軽く叩いてくる。
「なんだジグ。どうせお前のことだし、パーっと飲もうぜ! とでも言う気だろ」
「よくわかってるな! その通りだぜ!」
そんなことを話していると、後ろから『ガシャン!』と槍を落としただろう音が聞こえてきた。
振り向いて見れば、予想通り女が槍を落としていたが、なぜか女は槍を拾おうとしない。
それどころか、どこか放心気味である。
「き、気を付けて! 大量の魔物が来てる、急いで戦闘準備を!」
『なんだと!?』
女の衝撃発言に、俺とジグが同時に叫ぶ。
(さっきから感じてた悪寒はこれかよ!)
旦那が急いで馬車を止め、俺は背中に背負っていた大剣を抜いて飛び降りた。
そしてジグは片手剣、女は槍とそれぞれの得物を持って俺に続いてくる。
「皆様方、どうかお願いします!」
「やるぞジグ! 全部ぶっ飛ばすぞ!」
次の瞬間、左右の森から大量の矢が俺たち目掛けて飛んできた。
「オラァ!」
俺は大剣を薙ぎ払い、ゴブリンどもの体を真っ二つにする。
「ちっ、数が多すぎんだろ!」
さらに剣を振るってゴブリンどもの頭をぶった斬る。
俺が大剣を盾のように横に構えると、飛んできた数本の矢がガキンッと剣身に防がれる。
「バルド、ゴブリンメイジが出てきやがった! 相手は火魔法だ、気を付けろ!」
(ゴブリンメイジだと? 歩兵に弓兵、それに魔法兵かよ。くそ、こんなの軍隊じゃねえか!)
魔物、ましてやゴブリンがこんな統率された動きをするなんて、完全に異常事態だ。
俺は次々と襲ってくるゴブリンどもを殺していくが、捌ききれずに相手の攻撃をいくらか喰らってしまう。
周囲にいたゴブリンを全て戦闘不能にした俺は、馬車に戻って回復薬を一気に煽る。
「ふぅ……くそ、ポーションと戦況がいつにも増して不味い」
そんなことを呟いた次の瞬間、馬車より後方の森から白い閃光が溢れ出し、大きな爆発音が辺りに響いた。
「なんだ!?」
唐突の出来事に衝撃を受けた俺は、急いで閃光が発生した方に視線を向ける。
少しすると、森の中から1体のゴブリンが慌てた様子で飛び出してきた。
(なんだ……? 何かから逃げてるのか?)
次の瞬間、何者かが森から現れ、手に持った剣でゴブリンの頭を素早く切り落とした。
その人物は、黒いローブを羽織った人間らしき黒髪の男だった。
こっちを向いた男は、驚いた様子で口を開く。
「おい、助けはいるか!」
「頼む!!!」
そう尋ねてきた男に向かって、俺は叫んだ。
◆
ゴブリンを追っていくと、道らしき開けた場所に出た。
俺は手に持った剣を振り、ゴブリンの首を切り落とす。
「ふっ! よしっ、と。やっと森から出られたか。道がちゃんと整えられているし、このまま進めば人里に着けそうだな」
俺は道がどこまで続いてるのかと左奥の方を見てみる。
すると、少し離れた所で1台の馬車が、大量のゴブリンに襲われていた。
「な!? 状況は不味そうだな、加勢に行こう」
馬車の周りでは3人の武装をした人が、ゴブリンと戦っていた。
しかし、全員とも既にボロボロであり、状況は悪く見える。
「おい、助けはいるか!」
「頼む!!!」
「分かった!」
そう返事するのと同時に、俺は剣を握り直して駆け出した。
「紅月流……飛月!」
俺はゴブリンらに迫りながら、紅く染め上げられた剣身を振るう。
纏った鮮血が三日月の形を取って斬撃となり、素早く飛んで何体ものゴブリンを真っ二つにした。
(敵が多すぎる! 魔術で一掃するべきか……?)
近付いてきたゴブリンを切り捨てながら、俺はどの魔術にするかを考える。
「弾けろ、《凶星の種子》」
俺の詠唱によって、黒色の魔術陣が浮かび上がる。
魔術陣から、禍々しいひと雫の小さな光が放たれ、1体のゴブリンの頭に当たって消えた。
「ギャ? グギャッギャギャッ!」
攻撃を喰らったゴブリンは、何も起こらなかったことを嘲笑うかのように鳴き声を上げる。
「グギャ、グギャギ――」
次の瞬間、『バチンッ!』という音と共に、十数体ものゴブリンの頭や胸部の一部が弾け飛んだ。
凶星の種子――この魔術の本質は連鎖だ。
小さな1つの光はその名の通りに種となり、近くの敵へとどんどん枝を伸ばしていく。
そう、この魔術は成長型――
「ッ! 前方から大きな反応!」
耳の長い女性――エルフだろうか――の発言を聞き、前方に視線を向ける。
そこにいたのは、図体の大きい4体の武装したゴブリン。
その中でも特に大きな個体は、厳つい大剣を持って鎧を着込み、完全武装していた――
(って、さっきも見たなコイツら)
もしかしたら、先ほど綺麗に消し飛ばしたやつらと同じ魔物なのかもしれない。
俺がそんな事を考えている中、大剣の男は残党を処理していた手を止めて女性の言葉に反応する。
「ご、ゴブリンロードだと!? くそ、Cランクの魔物じゃねぇか!」
「こんな浅い区域に出てくるなんて……! ここは、怪我が1番少ない私が戦うわ。2人とも、それと魔法使いの方はゴブリンナイトをお願い!」
そう言って槍を構えた女性を、俺は左手で制止した。
「ここは俺に任せてください」
俺がそう伝えると、3人とも『何を言ってるんだ』という表情を浮かべる。
「ちょっと待っ――」
俺は剣を構え直すと、勢いよく飛び出した。
それに合わせるかのように、ゴブリンナイトと呼ばれていた魔物たちが前に出てくる。
「《アイススピナー》!」
そうして、生成されたのは十字の形をした2枚の氷の刃。刃は回転しだすと同時に、敵目掛けて素早く射出された。
魔法に反応したナイトたちは、剣を使って急いで防御しようとする。
1体はどうにか魔法を逸らしたが、刃は首の代わりに鎧ごと右足を切り落とした。
もう1体は防御が遅れ、鎧の隙間から侵入した刃が首を切断する。
「ふっ!」
俺は足を失って倒れかけているナイトに近付くと、剣を振るって首を切った。
そのまま流れるように、まだ消えていなかった氷の刃を左手で掴む。
そして、残っていたもう1体のゴブリンナイトに向かって素早く投擲した。
「グギャッ!?」
投げた刃は無防備だった顔面に突き刺さり、ナイトが悲鳴を上げる。
「《アイスバレット》」
即座に生成された弾丸は、素早くナイトの胸部を貫いた。
「よし、あとはお前だけだ」
そう言って俺はゴブリンロードの方を向き、ゆっくりと構えをとった。
ロードは大剣を掲げると、唸り声を上げながら鬼の形相で襲いかかってくる。
「すぅ……紅月流、神椿」
俺は大きく息を吸うと、剣を一瞬のうちに横に振るった。
溢れ出た鮮血が弧を描き、真紅の大鎌となる。
次の瞬間、薙ぎ払われた紅き刃が、ゴブリンロードの首を捉えた。
「……ァ?」
『ゴトンッ』と、支えを失った頭が地面に落ちて転がる。
「…………ふぅ」
ゴブリンロードが完全に事切れたのを確認した俺は、大きく息を吐いた。




