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第13話・リトルウィッチは訝しむ

「……あなた、不思議な魔力をしてるわね」


さながら御伽話に出てくるような魔法使いの格好をした少女は、俺のことを見つめながらそう呟いた。

俺を精査するかように見つめてくるその瞳は、まるでブルートパーズを埋め込んだかのような綺麗さ。

肩くらいまで伸びた髪は、深い海で染色したように思える紺色だ。


「なあおい、あれってリトルウィッチじゃねぇか!?」


「あれが!? あんな子供に負けてんのかよ俺ら……」


俺が彼女を観察していると、周囲からそう言った声が聞こえてくる。

どうやら昨日耳にした、『最年少でBランクにまでなった冒険者』であるリトルウィッチとは、彼女のことらしい。


「纏う魔力とは別の魔力が……それにあの剣からも……」


彼女はそう呟くと、右手に持っていた黒ずんだ木の杖を俺の方に向けながら、反対の手で酒場を指差した。


「ねぇあなた、少しお話しいいかしら?」


そう言って彼女は、可愛らしい顔に怪しげな笑みを浮かべた。




「………………それってナンパ?」


「ナンッ!? ち、違うに決まってるでしょ!」


次の瞬間、彼女は手に持っていた杖をフルスイングしてきた。






「その……悪かったわね、思いっきり()()ちゃって」


「あれはどっちかと言ったら()()だったけどな」


酒場の端っこにて、俺の目の前に座る彼女は、バツが悪そうにしていた。

それもそのはず、先ほど彼女がフルスイングした杖が、俺の肋骨に直撃したのだ。


「えーと、改めて……わたしはマギサ。Bランク冒険者よ」


「俺はFランク冒険者のベリルだ。ま、登録したのは一昨日だけどな」


そう言って俺は、ローブの中から冒険者証を取り出して見せる。


「それで話なんだけど、あなたのその不思議な魔力はなに? あなたの魔力とは別の魔力が、明らかに心臓に存在してるのよ」


心臓に俺とは別の魔力、と言われて思いついたのは、俺の契約悪魔であるアスタロトのことだ。

GSOの設定では、悪魔と契約すると魂が結びつき、禁魔書が魂の宿る、と言われていた。

つまり、彼女が感じている心臓の魔力とは、アスタロトの魔力のことではないだろうか。


(ただ、それを正直に話すのもあれだしな……)


「そうだな、企業秘密ってとこだ。俺の特殊魔法だと思ってもらって構わない」


「まあ、さすがに簡単には教えてくれないわよね……」


悩んだ俺はそう濁して伝えると、彼女は不満げな表情で呟いた。


(この反応は……諦めてなさそうだな)


そんなことを考えていると、店員が俺たちの飲み物を持ってくる。

マギサは頼んでいたアプルのジュースーー地球でいうりんごジュースのようなものーーに口をつけると、今度は別の質問をしてきた。


「その不思議な魔力のことは一先ず置いておいて、腰に差しているその剣は一体なんなの? それ。魔剣でしょ?」


マギサの言う通り、この剣は貴重な魔剣の一振りだ。

この魔剣をドロップーー厳密には少し異なるーーしたのは、俺が転移する前に戦った静嘆の亡剣士と同じ、難関ボスの1体だ。


名前を『紅夜の吸血姫』といい、剣と血液操作を駆使して戦う、少女の姿をしたボスである。

そんな吸血姫は、素早く攻め込んでくる上に魔術陣すら切断してくるため、GSO1の魔術師殺しと言われていた。


ボス戦中に彼女が使ってきた剣術、紅月流は討伐後に習得が可能になる剣術であり、今でも俺のメインウェポンの1つになっている。


「その魔剣、名前はなんて言うの?」


「……嬢王。こいつの名前は、嬢王ニュイ=ルージュだ」


俺がそう言った瞬間、マギサが飲んでいたジュースを吹き出した。

彼女は「ゴホッゴホッ」と咳き込みながら、バカにするような視線を向けてくる。


「なんで嬢王なんて名前付けたのよ!? もっとカッコいいのがあったでしょ!」


「そう言われても、こいつは嬢王って名前がぴったりなんだよ」


そもそも『ニュイ=ルージュ』とは、『紅夜の吸血姫』のボ名前である。

また、この剣は難関ボスを倒すことで入手することが出来る強力な魔剣だ。

そのため、この魔剣を装備するにあたって中々に厳しいデメリットが存在しており、そのデメリットに対して『嬢王』という名があまりにも相応しかった。


「そう名付けた理由を言語化するのが難しいんだよなぁ……えーとだな。この剣は、まさに傲慢なお嬢様なんだよ」


俺がそう答えると、マギサに怪訝な顔をされる。

そして彼女は、「なに冗談言ってるの?」とでも言いたげな表情を浮かべた。


「なに冗談言ってるのよ。魔剣を人に例えるなんて……それも貴族に例えるなんて、不敬罪で殺されても文句言えないわよ?」


この世界の貴族ってそんなに物騒なのか。

確かに、ファンタジー小説に多く登場するのは主人公に理不尽なことをしてくる貴族だが。


俺がそんなことを考えていると、唐突にマギサはコップをテーブルに叩きつけた。


「決めたわ! わたし、今日からあなたに着いていくことにするわ!」


俺のことを指差した彼女は、そんなふざけたことを言い放った。






「それで、こんななにもない草原まで来て、今日はなにをするの?」


酒場を出た俺たちがやってきたのは、昨日アストと薬草採取をした、あの草原だ。

依頼書に書いてあった情報だが、街から1番近いハーブラビットの生息地が、どうやらここらしい。

そういえば昨日、薬草を探している最中にウサギを何匹か見かけたが、思えばあれがハーブラビットだったのだろう。


「今日の依頼は、ハーブラビットの討伐だ」


俺がそう教えると、マギサは再び不満げな表情を浮かべる。


「ハーブラビット程度、あなたなら目をつぶってても瞬殺できそうね。役不足じゃないかしら?」


どうやら、想像以上に簡単な依頼内容に文句を覚えているようだ。

それにしても、マギサは俺のことを随分と高く買っている。


とりあえず、ハーブラビットを探し出すのが面倒だと感じた俺は、とある魔術を使用する。


(《狩人の本能(ハンターセンス)》、対象はハーブラビットだ……)


頭の中でそう唱えると同時に、俺の右眼に白色の魔術陣が浮かび上がる。

次の瞬間、周囲にいるウサギたちが白い光を放ち出した。

1番近くに見えるのは、50メートルほど先の木陰だ。


「なんで立ち止まってるのよ。早く探しに行きま――」


「流星矢……命中したみたいだな」


魔術陣から放たれた白く輝く矢は、一瞬のうちに飛んでいくとすぐに見えなくなった。

しかし次の瞬間、目標だった木陰のウサギの発光が収まる。

距離が少し離れていたから不安だったが、無事に命中させられたようだ。


「え、ちょ、今のなに!? 見た目からしてライトアローに近かったけど……というかなんで急に撃ったのよ!」


「落ち着けマギサ、ちょっとついて来い」


俺の魔術にポカンとしていたマギサだったが、少しして再起すると、すごい慌てようで俺に迫ってくる。

そんな彼女の勢いに少し引きながら、俺は押さえつけるようにそう答えた。


(どうやら、魔術陣はちょうど見えてなかったみたいだな)


歩き出した俺の後ろを、またもや不満げな表情で着いてくる。

そして、先ほど俺が狙撃したウサギのところまでたどり着くと、そこにあったのは――


「な、なんで魔獣が死んでるのよ!? それにこれ、ハーブラビットじゃない! まさかあなた、あの距離から発見した上に倒したって言うの!?」


頭がえぐれているウサギの死体を見つけたマギサは、酷く動揺した様子で俺の肩を掴んでくる。


先ほど俺が使った魔術《狩人の本能》は、魔獣や魔物、そして人といった動く存在を対象として、発光させることが出来るものだ。

そしてこの発光は、術者である俺にしか見ることが出来ない。

明らかに戦闘向けではないが、汎用性が高くて活躍機会の多い魔術の1つだ。


俺はマギサにぶんぶんと揺らされたまま、《亜空書庫》に死体を収納する。

すると彼女は、俺の肩を揺らすのをやめると、、何かを感じ取ったのか慌てた様子で振り向いた。


「やっぱりないっ! もうっ、さっきからなんなのよ。こんなの、聞いたことも見たこともないわ!」


マギサは大きな声でそう叫ぶと、その場で地団駄を踏み始めた。


「もーーーーー!!!」

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