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叶えてほしい現実的な願いは

キャラクターの簡単な設定はシリーズトップをご覧ください。


スマホアプリ「書く習慣」のお題で書いたものです。

お題は『流れ星に願いを』です。

雪孝(ゆきたか)さんって流れ星に三回願い事唱えたら、ってやつ信じてなさそうですよね」

 まとまった休みを、僕の家で一緒に過ごしているときだった。

 前日まで友人と一泊二日の小旅行に出かけていた(のぼる)くんの土産話を聞いている途中、突然なにかを思い出したかと思えば、そんなことを言われた。

「突然だね。まあ、その通りだけども」

「やっぱり」

 隣に座る昇くんは小さく笑った。年齢より幼く見えるその顔に、いつも密かに「萌え」ていたりする。

 子どもの頃、助けてもらった祖父が憧れの人だったと目を輝かせて孫の僕が引き継いだ探偵事務所の門をくぐってやってきてから、一年ほどが経った。

 最初は毛を逆立てた犬のようだった彼も今はすっかりすっかり馴染んだし、先輩の(あずさ)くんにもいい感じに可愛がられている。

 なにより、僕の大事な大事な恋人にもなった。

「泊まったホテルの屋上で星空鑑賞会やってたんですよ。予約制だったんで参加できなかったんですけど、流星群が見やすい日だったらしくて」

 それはもったいないことをした。見やすいとはいえど結局は運だから、流れないときは本当に流れないし、腰を据えて観賞できる機会も意外とないものだ。

「見やすくても、流れるときはほんと一瞬じゃないですか? だから三回唱えるなんて絶対無理だよなぁって」

「当たり前だよ。ていうか来るのがわかってたとしても、単なる迷信だから無駄無駄」

 ちょっと言い過ぎたかな? でも理屈が通らない事柄ってどうにも気持ち悪くて納得できないんだよね。昇くんはこんな僕の性格は充分わかってくれているとは思うけれど。

 その当人は、呆れたように苦笑していた。

「ほんとバッサリですね。でも、絶対叶うってわかってたらしてみたいでしょ?」

「うーん、まあ」

「叶う理由は置いといてですよ」

「そりゃあね」

 実用的なところなら最小限の労働で稼げるようにしてほしいとか、夢物語ならなにもしなくてもお金が湧いて出てきますようにとか、まあ、いろいろあるけれど、一番は……

「……なに、ニヤついてるんですか」

 どうやら顔に出ていたらしい。

「そりゃあ、一番叶えてほしい願い事考えてたからね」

 聞くべきかやめるべきか。昇くんの顔にははっきりそう描かれている。でも言った方がたぶん面白く、可愛い方向に転がるだろう。

「絶対叶うなら、愛愛愛! って叫ぶかな」

「あい……?」

 眉根を寄せている昇くんの頬に触れて、続ける。

「昇くんともっとラブラブになりたい、ってこと」

 単なる悲鳴か反論だったのかはわからない。

 唇を食むように何度か角度を変えたキスをし終わると、怒ればいいのか恥ずかしがればいいのかわからない昇くんの表情があった。

「雪孝さんって変なときに論理的じゃなくなりますよね」

「え、そう?」

「そうですよ! いきなりら、ラブラブとか言い出して!」

 結構本気で願っているんだけどな。今でも充分幸せだけど、たとえば「僕なしじゃ生きられないです!」とか言われてみたい。本当にそうなったら、昇くんらしさが消えてしまうから本気で願っているわけでもないけど、一日くらいなら……。

「だ、大体今も結構そうじゃないですか。おれ、ほんとに雪孝さんのこと……好きですもん」

 視線は逸らしつつ、こちらの服の裾を遠慮がちに掴んで、なんとも可愛らしいことを言ってくれる。なのに僕ったら、ちょっとだけ意地悪したくなってしまった。

「本当に?」

「だったらキスとかしません」

「じゃあそのキス、たまには昇くんからしてほしいな」

 反射的に僕を見た昇くんの瞳がいっぱいに開かれている。昇くんは照れ屋さんだし、僕からするのは全然嫌いじゃないけど、たまにはされる側の立場に立ったっていいでしょ?

「願い事三回唱えれば叶うかな? あーい」

 ずるい、と恋人の表情が訴えている。別に激しくなくても……いや、それはそれで嬉しいし、燃える。

「あーい」

 一瞬視線を伏せた昇くんが、勢いよく距離を詰めてきた。背中にソファーの柔らかな感触が走る。

「あー……」

 三回目の言葉は、押し倒した勢いとは裏腹に優しく、けれど深いキスに飲み込まれた。

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