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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖女の幼馴染という立場に転生したモブの俺

作者: 高月水都

 チートスキルを持った転生というお約束をいくつも読んでいた。なので、自分が転生したと知った時これでチートスキルが手に入るぜと思ったのだが、そんな野望は齢5歳で打ち捨てられた。


 そう、

「魔力なしですね」

 この世界では五歳になると魔力やスキルを神殿で検査する義務があり、自分は魔力なしだと測定された。


 前世の知識も記憶も活用したくても知識は穴抜けの状態で、味噌や醬油などの食べ物チートの場合もまずその食材が手に入らなければ無意味であり、そんな訳で前世の記憶でチートだとはしゃいでいたのはすでに黒歴史になっていた。


 それに何より。

「リチェリー。神力が測定不可。女神の加護持ち!!」

 というチートな幼馴染がすぐそばにいたのだ。


「ど、どうしよう、アラン」

 びくびくと神官から告げられた言葉で怖気づいている幼馴染に、

「力に溺れないように心技体を鍛えたら?」

 と前世知識の横綱の必須条件を告げておいた。


「心技体……?」

「あー……例えば、神力というのが治癒とか浄化とか補助魔法だとしたら測定不可と言われたからと言って無尽蔵にバシバシ使っていたらもしもの時に枯渇するかもしれないだろう。きっちり必要な分を計算して使用するように技術を磨くとか……」

「うんうん」

 リチェリーはどこからともなくメモ用紙を取り出して記入していく。文字は俺が勉強が出来ないと騙されても文句は言えないと教えて、それに納得したから学んでいったので、足し算引き算と文字を書く事は出来ていた。


 ちなみにメモ帳は植物で紙が作れるとうろ覚えの知識を伝えたらそれを興味本位で試した別の幼馴染が実践して作り上げた代物だ。

 そいつは先日スキル錬金術と言われてそれを大義名分にして様々な事を実践し出している………マッドサイエンティストまっしぐらだ。


「後、怪我人がいる場所が近づくことが困難な場所であったり、危険な状況である場合もある。見捨てるつもりなら別にいいが、その人を助けたいのならそんな困難をやすやすと乗り越えられるほどの体力と戦闘力。瞬発力が必要で……よくある溺れる人を助けようとしたら自分が溺れてしまうという事態を防ぐ力を磨く……」

「うん。分かった!!」

「後、冷静に判断できる心を鍛えないとな。とっさの時に判断を間違えて、自分も周りも危険にさらすことがあるかもしれないしな」

「なるほど」

 ………その言葉を真に受けた幼馴染が実際にそれを行っていき、【聖女】に任命された事。そして、女神の加護を持つというものが現れるというのはある意味物語の定番ネタだというのをすっかり忘れていた。


 そう。【聖女】には【勇者】がセットであり【勇者】がいると言うことは当然【魔王】という存在もいるということだ。


 リチェリーは14歳の頃に勇者一行として魔王を討伐しに向かったのだ。


「あ~~。気を付けろよ」

「うん」

「水を発見した場合それが飲んでいい水か分からないから一度温めてから冷やして飲むんだぞ」

「うん」

「怪我を治療する時は先に消毒をするんだぞ」

「分かってるよ」

「それから………」

「アラン」

 延々と気を付けることを言い続けていたらリチェリーが言葉を遮る。


 リチェリーの綺麗な金色の瞳がじっと向けられる。風で揺れる白金の髪が日の光を反射させて眩しく感じる。


 ああ、綺麗だな。

 今まで幼馴染を綺麗だと思ったことなかったが、リチェリー自身の努力がそこで体現されている。内面の美しさが外側に溢れていると思えた。


「行ってくるね」

「ああ」

 もっと言いたい事はあった。だが、言葉がこれ以上出てこない。


「気を付けろよ」

「うんっ!!」

 変わらない子供のような笑みを浮かべて、リチェリーは旅立った。




 それから、数年たった。


「アラン!! 大変だ!!」

 村にある学校で教師として働いていた俺のところに村長が慌てたように走ってくる。


「村長。今は授業中なんだが……」

 廊下に出て話を聞こうとするが、窓から子供たちが覗いていて聞き耳を立てているのがしっかり見える。


「今から自習だ」

「「「ええぇぇぇぇぇぇ!!」」」

「ヨルンの作った紙を折りたたんでそこから一番長く空を飛べる飛行機を作る方法を考えてみろ。一番遠くまで飛んだ飛行機と高く飛んだ飛行機を考えた奴には給食のプリンを贈呈しよう」

「「「わぁぁぁぁぁい!!」」」

 先日、幼馴染の作った紙をもっと使いやすいように加工してみせると勢い込んでいた紙漉き職人が見事作り上げた薄い折り紙もどきを見せて、アランの出した自習の内容とご褒美を聞いた子供たちはすぐに机に向かって紙を折りたたみだす。


「いいのか……?」

「いいんです。アンナが考えた野菜をたっぷり使ったプリンなので野菜嫌いを克服するのにも最適なので」

 当たり前のように野菜ばかり食べているのですっかり野菜嫌いになってしまった子供たちに野菜を食べさせる方法はないかと子供たちの母親に相談されて、パティシエ希望のアンナと試行錯誤して作ったプリンだ。


「――で、何があったんですか?」

「それが……リチェリーが……」

 辛そうに顔を歪めて、魔王討伐に向かっているリチェリーの名前を出す。そして、告げた内容が……。



「リチェリー!!」

 知り合いが最近開発した飛行機……というかヘリコプターでリチェリーのいる場所に向かった。


「アラン……」

 別の知り合いが国に働き掛けてできた入院施設に、リチェリーが入院したと連絡が来たのでそこに向かうと、リチェリーは大怪我を負ってベッドで休んでいた。


「アラン……来てくれたんだ……」

 嬉しそうに微笑むが顔が一番怪我が多く、痛みですぐに顔を引きつらせている。


「ごめんね……こんなみっともない顔を見せちゃって……」

「気にするな。神力切れとポーション切れで回復させれないだけで、今ポーションを持ってきたしな。ラファのお手製だから効果はあるぞ」

 とポーションという名前の飴玉を渡す。


 錬金術師というスキルを手に入れた幼馴染に、ポーションが液体状なので瓶が戦闘中に割れたら大変だよなと話をしたら飴玉状にしてくれた。いや、なんでそんなことが出来るのと思ったけど、ラファなら出来るかと妙な納得感があった。


 液体と違い多少回復に時間はかかるが、それでも全快するし、回復した後は急激な疲労に襲われるのでゆっくり横になって休むように伝えて、眠るのをじっと見守る。


「…………」

 見守りながらリチェリーの前では必死に押し隠していた怒りがふつふつと湧き上がって表情が険しくなっていく。


 聖女は真実の愛の相手以外と結ばれることはない。口付け一つでも神力が消えてしまうし、清らかなままでいないといけないらしい。

 それなのに勇者が聖女と勇者の恋物語が鉄板ネタだからと肉体関係を迫ったらしい。で、リチェリーとともに勇者と一緒に居た仲間たちは全員女性で……いわゆるハーレム勇者だったらしく、全員肉体関係があり、勇者に迫られているリチェリーに嫉妬した挙句、リンチをしたのだ。


 無事だったのは、非常事態の時にマーキングした地点に自動転送されるシステムで勇者一行の保護を考えてあった機能がきちんと作用したからであって、なかったら疾うの昔に死んでいただろう。血の臭いをさせているだけで餌だと襲われる可能性は高いのだ。


 ちなみに証拠はある。リチェリーの旅装束に今回の魔王討伐の映像と音声を録音録画できる機能を備えた宝玉をラファが付けたのだ。いや、今回の魔王討伐の様子を教材に出来ないかなと相談して二人が了承したし、リチェリーの後見人である神殿も勇者の後見をしている王家に許可を取ったので勇者も知っているはずだが、それを忘れていたのかしっかり証拠になってしまったのだ。


 とんとん

 ドアからノックの音がする。

「いいぞ」

 振り向きもせずに入っていいと許可する。

「アラン」

 後ろから声を掛けてくるのは幼馴染のラファ。だけど、ラファだけではないらしく数人の気配がする。

「みんな。俺の勝手な復讐に付き合ってくれないか?」

 嫌ならいいと振り向きもせずに告げると、

「――いや、みんな怒り心頭だから言われなくてもしただろう」

 みんなの代表としてラファが告げる。その声を聞いてゆっくり振り向く、情けなくて泣きそうになっている自分のみっともない顔を見せたくなかったのだが、いつまでも背中を見せていたら誠意は伝わらない。

「――頼む」

 頭を下げるとみんな気にするなと同じように泣きそうな……それでいて怒りを顕わにした顔でわずかに黒い笑みを浮かべた。


 後日、無事に魔王は討伐されたらしい。

 ありとあらゆる支援があり、その支援のおかげで勇者一行は無事帰還した。


「――よくぞ戻った勇者よ」

 どこか青白い顔でずっと支援してきた王が告げる。

「はっ。魔王を討伐したことをここで報告します」

 誇らしげに勇者が告げる。勇者は魔王を倒した褒美として、美姫で有名な第4王女との結婚が決まっていたので鼻の下が伸びそうになっていたのを必死に隠している。


 仲間たちには悪いが勇者と言えど王命には逆らえないと告げれば納得してくれるはずだと勝手な事を思っていた。


「そ…そうか……」

 陛下は青白い顔のまま体調が悪いのか心配になってくるほど汗を流している。


「で」

 陛下の視線が左右に揺れる。


「聖女はどうなったんだ?」

 陛下の言葉に一瞬息をのむ。聞かれると思った。

(なぁにが、聖女は清らかじゃないといけませんだ。たかが、平民のくせにせっかく俺が口説いているんだから楽しませろよ)

 まあ、そんな女はいらないから捨てたけど。ポーションも普通に手に入るし、補助道具も多いのだ聖女なんて足手まといにしかならない。

 それでも、聖女を見捨てたなどと言われたらせっかくの品行方正の勇者として、第4王女と婚姻するのだきちんと説明しないと。

「聖女は……度重なる魔物との戦いに怯えて、逃げ出して……」

 そこで言葉を切る。悲しげに沈痛そうな表情を作り上げて、そこから言葉を濁すと後ろにいた女性陣が涙ぐむ演技をする。


 これくらいやれば信じるだろうなと思ったのだが、それを見て陛下がそっと首を横に振る。


『さっさと治しなさいよ!!』

『で、ですが……たびたび回復させるとなると疲労が溜まっていって、結果的に回復させることが出来ないほどの重傷を負う可能性も………』

『あ~~役に立たない~~!!』

 いきなり、広間に響く女戦士の声と聖女の声。思わず後ろを振り向くと女戦士は怒りのあまり顔を赤らめてプルプルと震えている。


『治癒魔法で肌荒れとか治せない~? 野宿ばかりでお肌が荒れているんだけど~』

『お言葉ですが、治癒に頼っているばかりだと自己回復能力が低下して……』

『いいから治してよ。最近ディランに触り心地悪いって言われているんだから~』

 女魔法使いの声に困ったように答える聖女の声。女魔法使いは誤魔化すように必死に顔を隠している。


『なあ、良いだろう』

『ディランさま。ディランさまは第4王女様と結婚するのが決まっているとか……それにカーサさんとハルシオンさんが……』

『聖女と勇者が結ばれるのは古今東西よくある話だろう。あいつらは気にするな』

「だあぁぁぁぁぁぁ!!」

 慌ててどこから聞こえるか分からない自分の声をかき消すように叫ぶ。


 女戦士と女魔法使いの名前はカーサとハルシオンというんだなとどっちがどっちか分からないなとどこか明後日なことを考えていたので勇者の大きな声に正直ビビった。まあ、でも、こっからどんな反応するのか楽しみなのでこの茶番劇に集中する。


「陛下。これは何者かの罠で……」

「……これは、大怪我を負って治療中の聖女の持っていた法具に残されていた声だ」

 陛下が告げる。

「きちんと説明しただろう。後の勇者の伝記を作る際に参考資料として録音しておくと」

 ………そう言えば聞いた事あった。だが、それがどんなものか知らないのでこんな形で、()()()()が出るなんて…………。

 いや、違う。これは別人だと慌てて誤魔化そうとすると。


「………そなたらが真実を明かせば許されたのだがな」

 沈痛そうな陛下の声。


「魔王を倒すためにどれだけポーションを使用した。武器、装備はどういう状況だ。そなたらのこれからの生活を保障するありとあらゆる権利はその技術者。能力者。生産者全てが勇者の態度次第では断ると告げておった」

「なっ……!?」

「それ等の者らはすべて聖女と同じ村出身だったのだ」

 陛下の言葉にそんなのおかしいだろうと口を挟もうとしたが口が動かない。


「勇者だからと言って特別視せずにきちんと処罰しなければかの村の技術はすべて闇に消し去ると言われたからな。――申し開きはあるか」

 そこでやっと口が動く。


「陛下、何を……そんな世迷言を……」

『なあ、なんでリチェリーはそこまで頑ななんだろうな心配だな。しっかり俺たちと交流してくれるように伝えてくれよ』

『聖女だからって、偉そうに。所詮田舎の農民でしょう!!』

『あんたみたいな子、勇者に相応しくないわ』

 暴力を振るう勇者一行の姿が天井に映し出されている。あまりにもひどい光景に視線を逸らす者も居る。


「これでもか?」

「そんなのこいつらが勝手に……」

『大怪我をしてぼろぼろになった時に慰めれば気を許すだろう。女って単純だしな』

 勇者の弁明に重なるように勇者の録音した声が響く。


「――残念だ」

 王の声と共に数人の兵士が勇者一行を牢に連れて行く。


 魔王を倒したことの功績があるからせいぜい鞭打ち程度だろうが、王の前で虚偽の発言。聖女に対する行いは見過ごしてはいけないだろう。


「あの程度でいいの?」

 ずっと様子を窺っていた村の仲間たちが尋ねる。


「いいんだよ。贅沢に慣れたものが今更それが無くなるとどうなるか身を以て体験してもらうから」

 最高の装備。最高の整備。勇者に与えられたのはそれだけではなく美食と言える保存食。いくらでも手に入ったポーション。


「今までの気分で行動すればそれは身代を滅ぼすし、それらが手に入らない状況に不満が溜まって負のスパイラルに嵌っていく」

 それが最高の罰だろう。微笑みながら告げるとその場にいる全員あくどい笑みを浮かべる。


 ……俺はチートではなかった。聖女の傍にいるモブ。だけど、俺の前世の知識は俺の傍にいたチートな者たちが再現していったのだ。


 そして、今は前世の記憶を頼りに学校を開いて多くの知識を広めている。


『アランはすごいね。物知りだ!!』

 そうやって目を輝かせていた幼馴染がいたから。


「さてと」

 魔王討伐の旅を終えたら言いたかったことがあった。勇者とか好きな人が居たら忘れようと思ったけど、そんな心配もしなくていい。


「リチェリー。結婚を前提に付き合ってください!!」

 と格好良いセリフをたくさん考えていたけどすべてぶっ飛んでのありきたりな言葉。顔を赤らめて指輪を差し出すと同じように顔を赤らめたリチェリーは嬉しそうに受け取って、

「はい!!」

 と返事をしてくれたのだった。











イメージとしてはエルメロイ二世

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― 新着の感想 ―
胸クソ勇者のざまあ完了。 魔王を倒すほどの強者をただの兵士がよく連行できたな、とか思いもするけど、まあ気落ちしてるからかな? どこぞの駄目勇者とかみたいに脱走からの大騒ぎとかもありそうだけど。
[一言] まあ知識が有ってもそれを実現できるかは別なんで、周囲がチート能力持ちだったんでしょうが。(乃至、元々の各能力に主人公の前世知識が良くはまった)。
[良い点]  ウェイバーかあ確かにチート製造機w  こっちの主人公には目指すべき王の姿は無いけど代わりにどんな時でも忘れない・守りたいひとが居る。  一途さも似通っていますね。 [一言]  村ひとつチ…
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