寛治、町に出て。
ありがたいことに、読んでくださってるいる方が
回を追うごとに増えてきています。とても嬉しいです。
でも、それが少し読んで「あ、つまんねえ」と
読むのをやめた人の数だったとしたら、がっかりです。
最後まで読みたくなるようなものを書かなくてはいけないってことですね。
頑張ります。
では、どうぞ。
3
おらの家にしろへび様の話を聞きに来る人は一旦下火になったのだけど、豊穣祭り以降にまた増えた。
ここには三津男君たちはいないし、お菓子やお金をもらえるのは嬉しかったから、おらは同じ話を繰り返した。
この頃には、流暢に話せるようになっていた。
気が小さくて人前で何かするのが苦手だったおらでは、なくなっていた。
その日は二十数人はいただろうか。
話が終わってひと段落すると、みんな暗くなる前にと帰路につく。
毎日がそんな感じだ。
どんな人が聞きに来ているのかなんて、たとえば背のひょろっとした三十くらいの男が来たとか、あの綺麗なお姉さんは何度目だとか、いちいち覚えちゃいない。
おらの足をさすって拝む人は印象に残るけど、それが毎日のようになると、やっぱり忘れていってしまう。
こっちにすれば大勢の聴衆の誰かさんだけれど、向こうにとってはしろへび様の使いなのだから、話を聞きに来た人たちの中にはおらの顔を覚えている人が、確実にいる。
だから町に出たときに、
「しろへび様の子だっぺ。今日は町に来たのかい?」
と話しかけられると、話を聞きに来てくれた人なんだなあとは思うけれども、対応に困ってしまうのだ。
礼儀正しく挨拶を返しはするけど、顔が引きつってしまう。
「兄ちゃん、すごいな。有名人なんだな」
なんて兄弟たちは笑うけれど、耳の聡い人たちに気づかれてしまって、案の定、人だかりができてしまったのだ。
これでは買い物もままならない。
たとえば野菜を買いに来た、だったらおらがいなくてもおっ父がいれば持つことができる。
大量に買っても腐らせるだけ、つまりはそんなに大荷物にはならないからだ。
でもおらたちが町に来た理由は、新しい着物を仕立てるためなのだ。
おらの着物はおらがいないと採寸できない。
作れない。
おっ父が事情を話したのだけど、それでもついてくる人がいるにはいた。
店につくと、おらは一番下の盛彦の服から採寸しようと言っただ。
下から順に盛彦、雪、穣、千代、そして長男のおら、寛治だ。
男、女、男、女、男と、うまいこと生み分けたおっ母は、自分の分の服はまた今度と言っていたのだけど、おっ父が買ったらいいって、今までも我慢してきたんだから、たまに贅沢しても罰は当たんねえべ、とおっ母にもきれいな着物を勧めた。
おっ母はそれならと、買うことに決めた。
おらもおっ母が綺麗な着物を着るのはいい気分だった。
だから賛成した。
順番を待っている間、おらは店の外に出た。
おらの噂を聞いてついてきた人たちに、しろへび様の話をするためだ。
何回聞いても同じ話だけど、いいげ?
と前置きをすると、待ってましたの声が上がった。
おらは話した。
声を大小させたり、間を取ったりする話術も、もう慣れたものだ。
信心深い人たちなのだろう、おそらく複数回聞いている人もいるだろうに、これでおしまい、と結ぶと拍手をした。
しろへび様を拝みに行かねばな、なんて口々に言った。
お礼を受け取って、おらが、じゃあ服の採寸するから、と店の中に戻ろうとすると、
「おらはそこで団子屋やってんだ。ただにするから食べでってけろ」
と、団子屋の主人が声をかけてきた。
もちろん、おっ母は悪いからと断ったのだけど、盛彦なんかはもう食べる気満々で、やったあ、なんて飛び跳ねた。
着物の採寸が終わると、お言葉に甘えて、団子をご馳走になった。
団子屋の主人は、
「しろへび様の使いの御子も食べた団子だよ」
と、おらたちにただにした分の元を取ってさらに利益を上げた。
兄弟たちには、特に盛彦の足では、町に来るのは年に二度あるかどうかという特別な催し事で、これから冬になって雪が降ると、来年の春が来るまではとても無理、つまりは今年最後の遠出ということになるのだ。
いろいろな店を見て回って、村にはないものをたくさん見てはしゃぐ兄弟の姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
おっ父とおっ母もおらたちを見て楽しそうに笑っていた。
暗くなる前に村に着くように時間を計算して、おらたちは町を後にしただ。
盛彦なんかは遊び疲れて、おっ父におんぶされながら眠った。
どうでしたか? タイトルにエルフと表記しているのに
なかなか出てこねえじゃん、と不満を持つ人もいるかと思います。
でも、これも寛治が生きた時代の、必要な描写であると、
理解していただけたら嬉しいです。
しろへび様に助けられたと噂の寛治。
彼にどんな出来事がやってくるのか、期待していただけたら嬉しいです。
では、また。