寛治、いいことだけじゃなくて。
久澄村エルフ奇譚、読んでくださってありがとうございます。
私が投稿するのを楽しみにしてくださっている方、ありがとうございます。
タイトルに興味を惹かれて見たけど、つまらんと思われた方、
もっと精進します。でも、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
翌日から、おらは早起きをして神社にお参りに行き、学校から帰ってきたらしろへび様の話をするという日が続いた。
おらの話を聞きに来る人は日に日に増えていった。
お菓子やお金を置いていく人も、その金額も、増えた。
おらは同じ話を何回もしたので、気がつくと、そんなに得意ではなかった人前で話すことも、上手くなっていた。
その人たちはおらが帰ってくる前か、おらの話を聞いた後に神社に拝みに行ったので、神主さんも嬉しそうだった。
週に一回ある豊穣祭りのための踊りの授業では、より一層力が入って、なんだか上手くなったような気がした。
先生(神主さん)も褒めてくれたし、級友も、
「なんか上手くなったっぺよ」
とおらに自信をつけてくれた。
面白くなさそうにしている三人も、いるにはいたのだけど。
「ねえ、寛治君。あれからしろへび様には、会った?」
踊りの授業が終わったときのことだった。
「うんにゃあ、会ってねえだ」
おらは正直に答えただ。
「しろへび様には、私なんて一度も会ったこともないんだよ。もう三十年も神主をやっているのに。だから寛治君は、たとえ一度だけだったとしても、会えたことはすごいことなんだよ」
神主さんは優しく諭した。
「ねえ、神主さん。おら、もう一回、いや、何回でも会いたいだ。どうしたらいいだ?」
「しろへび様に会う方法げ。私もそれを知ってたら、毎日でも会うのになあ」
みんな笑っただ。
思えば、神主さんはいつも微笑みを絶やさない人だ。
もちろん、神主さんとしての仕事のときや、踊りの稽古に熱が入っているときは真剣な顔をするけど。だからみんな、おらたち子どもだけでなく、大人たちからも信頼されて、相談だなんだと一目置かれる存在なのだ。
「しろへび様も、また逢えるかって訊いたら、可能性は低いって、言っただ。それでもおらは逢いに行くんだ、久澄神社に」
「もう一ヵ月を超えるね。寛治君が、朝、お参りに来るの」
「神主さん、知ってたのげ」
「うん」
とだけ答えた。
おらは驚いたのと、なんだか恥ずかしかったのとで、下を向いた。
視線を感じて顔を上げると、みんながおらのことを見ていたので、余計に恥ずかしくなった。
神主さんが職員室に引っこんで、おらたちは教室に戻って、銘々話をしていた。
とても賑やかで、至って平和だ。
決して目立つほうではなかったおらだけど、あれ以来新しい友達もできて、おらも教室を賑やかにしていた。
「でもかんちゃん、毎日神社に行ってたんだな」
声がぴたりとやんで、注目が集まっているのがわかった。
「うん。でもしろへび様には会えてねえんだ。でも、神主さんだって会ったことねえんだから、そう簡単には会えなくて当然だっペ」
「ねえ、またしろへび様に会ったときの話してくんちぇ」
「いいよ」
そう請け合って、おらは話そうとした。
すると、
「ううん」
と聞こえよがしに咳払いをした人がいた。
三津男君だ。
でもおらは話そうとした。
すると二度目の咳払いが聞こえた。
三津男君の隣にいる剛君と大吉君が嗤っていた。
「何?」
おらは訊いた。
「別に。何でもねえよ」
三津男君が言った。
だからおらは話し出した。
すると、
「ううん」
と三度目の咳払いだ。
これはもう、嫌味以外の何物でもない。
おらは三津男君を見た。
「何だよ。ただ咳払いしただけだっペ。何か文句でもあんのか。なに人の顔じろじろ見てんだよ」
一躍人気者になった寛治。
でも、いいことばかり続かないのが人生。
さあ、寛治、どうする?
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、また。