寛治、人気者になって。
二話連続投稿は初めてなので、ちょっとドキドキです。
嫌ではありますが、現実、どんな人にでも、アンチはいます。
自分が間違っているのに人を傷つける人は、いるのです。
寛治にそんな災いの種が生まれてしまうのです。
(これ、書かないほうがよかったでしょうか?)
では、どうぞ。
2
おらがしろへび様に助けられ、話をしたという話は、あっという間に村中に、そして近隣の町々に広がった。
朝の早くに村人のほぼ全員で久澄村神社に行き、お社と御神木に思い思いに手を合わせて祈った。
どこかでりっちゃんが見ているかもと思い木々の上のほう、枝の辺りを探してみたのだけど、いなかった。
可能性は低いと言われたことを忘れたわけではなかったが、少し残念だった。
昨日の帰りにいなかった、おらを探しに来られなかった大人たちや、親から伝え聞いた村の子どもらが、おらに話を聞かせてくれと周りを囲んでせがんだ。
神社からの帰り道でも、学校の教室でも、おらの周りには押し合いになって危険に思われるくらいの人だかりができた。
同じ話を何度もして、そのたびにみんな、すごいと感嘆しやんややんやとおらを羨ましがった。
おらがこんなふうに人に囲まれるのなんて生まれて初めてのことで、おらは嬉しかっただ。
だって今までは、勉強は真ん中より少し上だけど、字も下手絵も下手、運動に至ってはなにやってもびりっけつから数えたほうが圧倒的に早くて、泣き虫で、いじめられることだって、あったんだ。
それが一躍、人気者、と言ってもいいくらいのこの状況に気をよくして、昼休みに弁当を食べながらも、食べ終わってからも、同じ話を何度もした。
そんなおらをしかめっ面で遠巻きに見ている三人がいることを、目の端で捉えてはいたけれど、おら、人に文句を言われるようなことはしてはいないのだからと、かまわずに話し続けただ。
授業が終わって帰るときにも、もう一回聞きたい、僕は私はまだ一度も聞いていない、と恐らく学校の生徒全員に話すことになった。
人の輪が何重にもできていて、本当に生徒が全員いたかもしれない。
しかめっ面の三人も、少し離れたところでおらをにらみながら帰宅の途についていた。
おらのことをみんなキラキラとした目で見て、おらも少し浮かれていたのかもしれない。
神社の神主さんと村長さんが校門前に立っていて、おらが挨拶をする前に、村長さんがにこやかな目で、褒めちぎるような口調で話しかけてきた。
「寛治君、こんにちは」
悪い話を持ってきたわけではなさそうだけど、いったい何なのかと、おらは少しだけ身構えただ。
こういうとき、見上げる大人の大きさは子どものおらにとっては、少なからず圧力があるのだ。
「寛治君。せっかくみんなが揃ってるんだ、みんなにも聞いてほしい。来年の村の豊穣祭りに、寛治君に出てもらおうと思うんだが、どうかな」
みんなわっと湧いた。
豊穣祭りとは、この久澄村で毎年の農作物の豊穣を祈願するため、今年の農作物の豊穣を感謝するために、神社で十月に行われる、しろへび様に捧げる踊りを奉納するための祭りで、村で十二歳になる子どもがひとり主役に選ばれる、村の、千年以上続いていると言われている、とても大事な、厳かな、伝統のある祭りなのだ。
子どもの役も当然限りがあって、出られるだけでも格好のいい、村のみんなの憧れなのだ。
「おらでいいだか?」
今年の主役は、おらのひとつ年上の、学校で一番運動も勉強もできる、子ども軍団の隊長さんがやると決まっていた。
おらとは正反対だ。
村長さんは、出てもらおうと思う、と言っただけで、主役だとは言ってはいない。
でも、ひとりが
「すごい。寛治君、豊穣祭りに出られるなんて。きっと主役だっぺよ」
と言うと、まるで主役が決まったかのように高揚が伝染した。
早くも尾ひれがついて、みんなが口々に、主役だ、すごい、と確定のように盛り上がっていた。
おらは
「おらには無理だ。あんなに上手くなんて、踊れねえだ」
とみんなの興奮を鎮めようとしたけど、焼け石に水で、なんの根拠があるのか、だぁいじょぶだ、とか、しろへび様と話したんだからもうこれ以上ないくらいぴったりだっぺ、と楽観的に肯きあったりしていた。
村長さんはそんなおらたち子どもらを前にして、微笑みを絶やさずにいたけど、
「寛治君。大切なのは踊りの上手い下手ではねえよ。気持ちがこもっていたら、それが一番。しろへび様に感謝の気持ちを込めて、精一杯に心を込めて踊ったらいいんだ」
とおらが主役をやることが、久澄丸を演じることが決まっているかのような言い方をした。
そんな言い方したものだから、拍手をする人まで出る始末だった。
でも、好意的に受け止めた人だけではなかった。
話を聞いていたしかめっ面の三人のひとり、三津男君がみんなをかき分けて前に出て、不満を言った。
「ちょっと待ってけろ、村長さん。おらは、久澄丸ではねえけど、去年も、今年だって豊穣祭りの踊り手に選ばれてるだ。順番で言ったら、おらが選ばれるんじゃねえのげ?」
「いや、寛治君にだってちゃんと稽古を受けてもらって、やっぱり駄目だってなることだってあるよ。寛治君が主役って決めたわけじゃないよ。みんなにちゃんと平等に、機会はあるんだよ」
やっぱり納得はいってはいないようだったが、それで三津男君は何も反論できなきくなった。
「寛治君だって、やりたくないわけじゃないでしょ?」
「それは、もちろん、やりたいけれど、でも、おらでいいのげ?」
「うん。しろへび様だって、助けた寛治君が元気に心を込めて踊ってくれたら、きっと喜ぶと、嬉しいと思うよ」
じゃあ、今度改めて、家に行ってお父さんとお母さんに話をするからね、と言い残して神主さんと村長さんは帰っていった。
おらが豊穣祭りで踊れるかもしれない。
おっ父とおっ母と兄弟らに言ったら、どんなによろこんでもらえるだろう。
りっちゃんにも知らせたいだ。
つい昨晩のことなのに、もう遠い過去に別れた人であるかのように思えた。
少しだけ寂しかったが、夢や幻ではないという確信があった。
だから、同様に希望も少しだけだが、あったのだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
それとも、一応読むのは読んだけど、つまらないから
スクロールさせただけ、でしょうか?
それは悲しいですけど、私の力不足と思って、次、頑張ります。
でも、もしも面白いと思っていただけたのなら、嬉しいです。
これからまだまだ続きます。よろしくです。
では、また。