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久澄村エルフ奇譚   作者: 小町 翔平
3/39

寛治、ほっとして。

この話に興味を持ってくださってありがとうございます。

なんか、毎回おんなじことを言っている結果になって

しまうかもしれませんが、やっぱりうれしいです。


では、どうぞ。



「ううん。なんでもない」


 りっちゃんはすっと立ち上がった。

 そして言った。


「じゃあ、あたしは行くわ」

「また逢えるか? 神社の御神木にいるんだろ。おら、逢いに行くだ」

「変に期待させるのも悪いからはっきりと言うけど、可能性は低いわよ」

「それでもいいだ。おら、逢いに行く。必ずだ。約束する」


 りっちゃんは少し驚いて、少し困った顔をして、笑ったんだ。

 軽く手を振ってから、りっちゃんはふわりと舞い上がった。

 高い高い木の枝に乗って、夜の森の闇の中に消えていっただ。


 エルフで妖精か。


 おらはつぶやいただ。

 ひとりになったおらはしばらく呆けていたのだけど、ここにいつまでも座っているわけにはいかないからと立ち上がろうとして、やっぱり膝から崩れ落ちただ。

 こりゃ困ったと思ったのだけど、折れていたと思っていた左腕の痛みも消えていることに気づいて、あらためてりっちゃんを


 「本当は神様なんでねえか?」


 と思った。

 少なくとも、天狗でも妖怪でも、狸や狐に化かされているわけでもないと、思った。


 と、遠くのほうで誰かの声が聞こえたような気がして、声のほうを見た。

 その道は村のあるほうに続いている道だった。

 耳を澄ますと、

「おーい」

 とか

「寛治―」

 とかと叫ぶ大人の声がした。

 気のせいなんかではなかった。

 おらは立つことができないので、精一杯の声で、


「おらはこっちだー」

 

 と叫んだ。まず松明の灯りが、そして何人もの村の男衆が走ってくるのが見えた。

 一番前にいるのはおっ父だった。


「寛治―」


 泣きそうになった。

 おらの帰りが遅いからと、みんなで探しに来てくれたのだ。

 でも泣き顔を見せるわけにはいかなかったので、涙をこらえて笑っただ。


「だぁいじょぶが? 怪我してねえが? いでえとこ、ねえが?」

 おっ父はおらの肩をつかんで訊いてきた。

 松明に照らされたおらの着物を見て、

「血、こんなに出てんでねえが」

 と息をのんだ。おらは答えた。

「だぁいじょぶだ。血はいっぱい出てっけど、痛くはねえんだ。なんでだと思う?」

「わがんね」

「しろへび様だ。しろへび様が、いたんだ。ほんとについさっきまで」


 村の男衆は頑丈な大人なのに、白くなった顔を見合わせて、おらに

「本当か?」

 と確認を取った。

 おらは肯いた。

 肯いて、言った。

「おら、足滑らして崖の下に転がり落ちただ。体中、痛えなんてもんじゃなかった。特に頭と足。左足。血が出て血が出て、痛くて痛くて、おら、助かんねえんでねえかって、思っただ。そう思ってるうちに気絶して、次に目を覚ましたら、おらを守るように、しろへび様がとぐろ巻いて、そばにいてくれただ。ケガを治してくれたのも、しろへび様だ」


 にわかには信じられはしないだろうが、着物に付着した大量の血痕と、にもかかわらず怪我らしい怪我などしていないという事実を目の当たりにして、大人たちは信じた。


「おら、しろへび様と話をしただ」

「しろへび様は、なんて言っただ」食い入る表情で、訊いてきた。

「御神木を大切にしてくれている礼だって。親孝行しているご褒美だって。しろへび様はおらたちのこと、ちゃんと見てくれているんだな」

「……明日、神社にお祈りに行くべ」


 村の男衆は神妙な顔で肯きあった。

 おらが立てないと言うと、おっ父がおらをおんぶして、訊いてきた。


「いでえとこは、ねえんだべ?」

「痛くはねえけど……」

「なんだ?」

「腹、減っただ」


 みんなが笑った。

 そんだけ言えりゃだぁいじょぶだ。

 おっ母がまんまの支度して待ってるから、たらふく食ったらいい。

風呂も沸かしてっから、ゆっくり休め。

 足取りも軽やかに、おらたちは山を下りて村に帰った。

 兄弟らは笑って、おっ母は涙ぐんで、ほっとした顔で、おらを迎えてくれただ。

 おっ父はおらを探すのを手伝ってくれた村の仲間に礼を言った。

 みんなは、気にすっことねえ、とか、無事でよかったべ、んだんだ、なんて笑いあって帰っていった。

 晩ご飯を食べたおらは、兄弟らにしろへび様に会った話を、面白おかしく語って聞かせた。

 みんな微塵も疑わずに、いいなあ、おらもしろへび様に会いてえなあ、と目を輝かせた。

 これだけのことがあった一日だったので当たり前かもしれないが、布団に入ったすぐに眠りに落ちた。


どうでしたか? 面白いと思っていただけたら嬉しいです。

つまらないと思われた方には、面白いと思っていただけるように

努力します。


また明日も投稿する予定です。楽しみにしていただけたらうれしいです。


では、またお会いしましょう。

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