寛治、友達のおかげで。
みなさん、頑張るのはいいことですけど、
頑張りすぎるのはいずれ無理が来るので、
ときどきはのんびり行くのもひとつの手じゃないでしょうか。
では、どうぞ。
おらは答えられなかった。
確かにその通りだ。
けれど、おらだっておらなりに一生懸命に踊りの稽古をしている。
おらだってあの舞台に立てるもんなら、立ちたい。
辞退するとは、言いたくはない。
おらが黙っていると、三津男君はおらの頭を殴ってもう一回言った。
おらは辞退するって言うって言っちゃおうかと、思った。
思っている間に、もう一発、殴られた。
顔を見ると、三人とも嗤っていた。
悔しくて、情けなくて、涙が出てきた。
また嗤われた。
「泣き虫、弱虫、意気地なし。それ泣き虫、弱虫、意気地なし」
手を叩いて歌い出した。
おらが何も言い返せずに地面を見ていると、
「弱虫、泣き虫、意気地なし」
の歌に合いの手を入れるように、おらの頭を叩いたり、足や背中や尻を蹴っ飛ばしたりしだした。
おらは尻もちをついて、怖くて痛くて、頭を抱えてうずくまっただ。
「お、寛治が亀になった。寛治のかーは、亀のかーだ」
何が面白いのか、ゲラゲラと嗤いだした。
ここは学校からの帰り道だ。
当然、同じ方向に帰る生徒は、おらたちだけじゃない。
遠くから小さく声がした。
嗤っている三人は気がついていない様子だったが、おらは顔を上げた。
誰かが何かを言いながら走ってくる。
だんだんと声が明瞭になってきて、近づくにつれて姿形もわかるようになってきた。
走ってきたのは、今年の豊穣祭りで久澄丸を演じた、おらたち子ども軍団の隊長さんだった。
「逃げろ」
三津男君が言って、三人は泡を食って走り出した。
逃げる三人をなおも追って、隊長さんは走った。
おらは安心した。
隊長さんが追いかけるのをやめて戻ってくるのを見て、おらはやっと立ち上がれた。
礼を言いに隊長さんのそばに行こうと歩こうとして、蹴られた足が痛むので、痛てっとけんけんをした。
「だぁいじょぶが?」
背後から声がして、驚いた。
おらんちのご近所さんの、だいちゃんと鈴がいた。
おらがいじめられてるのを見ただいちゃんが、隊長さんを呼んでくれたという顛末だ。
おらは礼を言った。
そのうちに隊長さんが来て、隊長さんにも礼を言った。
隊長さんは、おらが豊穣祭りの踊り手に選ばれるのを面白いと思わない連中が、またおらをいじめてくるだろうから、これからはなるべくひとりにならないようにしたほうがいいと、助言をしてくれた。
だいちゃんはすぐにその役を買って出てくれただ。
隊長さんとは途中で別れて、おらはだいちゃんと鈴と、三人で歩いて帰った。
歩きながら、三人で話すのは久しぶりだと気がついた。
前に三人で話したのは、だいちゃんとこのおっ母の葬式が終わった何日か後だ。
だから半年以上も前になる。
目に見えて落ち込んでいるふたりに、果たしてなんと声を掛けたらよいものかと考えても答えは出ず、ふたりが元気を出さないと、おっ母が心配するだと言ったら、それは失敗で、鈴をわんわんと泣かせてしまったんだ。
だいちゃんは気の優しい、おっとりとした人柄で、おらとは気が合うほうだった。
組が離れて一緒に遊ぶ回数は減ったが、友達だ。
鈴は千代と同級で、よく笑う女の子だったのだけど、おっ母が死んでからは暗い顔をしていることが多くなった。
でも、おらがしろへび様の話をするときは、目を輝かせてかぶりついて聞いていて、だからおらは帰り道、しろへび様の話をした。
だってふたりとも、おらよりも痛そうな顔をしているんだもの。
「しろへび様は、蛍みたいにぼんやりと光ってただ。その辺に生えてる木なんかよりずっとずっと太かっただ。おらが両手を広げても、まだ足りねえ」
「なあ、寛治兄ちゃん。わたしずっと気になってたんだけど、しろへび様ってどんな声をしてたの?」
「声か、しろへび様の声……。頭の中に直接響くような声だったな。そうだ、大人の男の太い声っていうよりは、女性っぽい高い感じの声だった気がする」
「しろへび様って女性だったの?」
鈴は食いついた。
「女性……だったのかなあ? 男性といえば男性だった気がするし、女性といえば女性だった気がする。でもおら、そんなに長話をしたわけでもねえし、夢見てるみえてにぼんやりしてたから、確信を持っては言えねえだ」
いいなあ、おらもしろへび様と話をしてみてえだ。
鈴は心からの笑顔をした。
そのうちにだいちゃんの家に着いて、おらも家まで行こうか? と言うだいちゃんに、ここまでくればだぁいじょぶだっぺと安請け合いをした。
でもおらはひとりになった途端に心細くなって、家まで全力で走って帰りたかったのだけど、足が痛くて走れず、何度も周囲や背後を確認した。
家がこんなにも遠く感じたのは、きっと初めてだったのではないだろうか。
家の前でおらを待っていた人たちを見てほっとしたのも、きっと初めてだ。
寛治には心配してくれる友達がいました。
でも、世の中のほとんどのいじめられっ子は独りぼっちです。
いじめのない世界って無理でしょうか?
では、また。




