表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
久澄村エルフ奇譚   作者: 小町 翔平
1/39

寛治、崖から転げ落ちて。

ほとんどの人が初めましてだと思います。

小町翔平です。よろしくお願いします。

タイトルに「エルフ」とありますが、あんまり出てきません。

魔法らしい魔法も使いません。(一応魔法の描写はありますけど)

期待した方、裏切る形になってすみません。


時代は明治の中期くらいをイメージしています。

読んでいただけて、面白いって思っていただけたら、幸いです。

では、どうぞ。

                  1




 幸か不幸か、雨はざあざあ土砂降りで、それが原因かはわからないが、おらは目を覚ましたんだ。

 状況を理解しようと試みるまでに数秒かかり、体中の痛みにくぐもった声を上げたときに、自分が転げ落ちた崖の端っこが目に入った。

 

 ああ、おら、足、滑らしたんだ。

 

 続けて、懐の財布を落とさないようにかばいながら転がったせいで、出っ張った岩にしたたかに頭を打ちつける直前の記憶が脳裏によぎった。

 すると頭がズキズキと痛み、次いで足が痛みだした。痛いと思うほどに痛みは増し、おらは「痛い、痛い」って情けない声を上げたんだ。

 

 だって、足が明後日の方向に曲がっていて、脛から骨が見えていたんだもの。

 

 足だけでなくて、どうやら左腕も折れているようだった。

 足を真っ直ぐにしようと伸ばそうとしても、痛みが走るだけで動きもしなかったから。

 血もたくさん出ていただ。

 腕や頭からも出血はしているようだったが、特に足が酷そうに見えた。


 涙が出てきて、垂れてくる鼻水をずるずる啜りながら、財布があるのを確認した。

 こんな状況でも、人間はほっとするのだ。

 四人いる兄弟のためにと買ったお菓子は、転がったはずみで潰れてはいなかったとしても、この雨だ、食べられはしないだろう。

 そう思うと、悪いことをしたなあと思っただ。


 もう一度足を見た。

 血は止まってはいないように見える。

 着物に染み込んだ黒ずんだ赤が、おらの悲愴感をより強くした。

 幾重もの大きな雨粒が、おらの顔で体でバチバチと音を立てて、目に映る景色がだんだんと白くなってきただ。

 盛りを少し過ぎたといってもまだ夏の(おそらく)午後なのに、なんだか寒くなってきたので身をよじって、おらは動くほうの手で涙を拭った。

 

 痛みはそんなには感じなくなってきたが、その代わりに眠たくなってきただ。

 目を開けているのが億劫になってきて、おらは


 でも夏でよかったな、これが冬だったら凍死してたっぺな。


 と思った。

 思っているうちに、目の前が真っ白になってから真っ黒になって、あ、と思った次には、気を失ってしまったようだった。


 おっ母、おっ母。

 どしたんだ、寛治。

 あれ、なしておら、うちさ居るだ?

 何言ってんの、寛治?

 まあ、なんでもいいが。おら、おら……何言おうとしてたんだっけ?

 兄ちゃん、おっかしい。

 へへへ。

 もういいから、布団に入って寝なさい。明日も早起きでしょう。

 うん。……そうだ、冬に囲炉裏にあたってるみたいに温かいって言おうとしたんだ。


「あら、あたしは囲炉裏じゃないわよ」

 

 その声で、おらは目を覚ましただ。

 でも、夢の続きなんじゃないかって、思っただ。

 その声の主は、金に白を混ぜたような艶やかな髪をしていただ。

 その声の主は、雪みたいに真っ白な肌をしていただ。

 その声の主は、おらに膝枕をしていただ。

 そして、その声の主は、今まで見たほかのどんな人や絵や景色よりも、きれいな顔をしていただ。

 

 おらは見惚れていた。

 そんなおらを見てその女の子は面白がるように微笑んでいただ。

 くりくりとした瞳で。

 つまり、おらたちは長い時間(もしくは長い時間に感じられるほどの短い時間)、見つめ合っていただ。

 

 はっと息をのんだ。

 顔が熱くなるのがわかった。

 しかも膝枕だ。

 おらはバネ仕掛けの絡繰りみたいに飛び起きた。

 何かを言わなければいけないのはわかっていたけど、でも何を言ったらいいのかわからなくて、ただおたおたとしていただ。

 

 そんなおらを見て、その女の子はにっこりと、笑ったんだ。つられておらも笑った。

 笑っていると、そこが、その場所が、崖下ではないことに気がついた。


「あたしがここまで運んだのよ」

 

 キョロキョロとしているおらの考えを察知して、女の子が言った。

 

 ああ、そうなんだ。

 

 そう思った。

 おらは昏睡状態から醒めたばっかりで、心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた直後だ。

 理路整然と考えられるわけがないじゃないか。


「そうなんだ」

 

 と言ったっきり、二の句が出なかった。

 女の子は肯いた。

 あんまりにも屈託のない笑顔なので、またつられておらも笑った。

 おらは、ああ、雨が上がってる、と思った。


 

どうでしたか? もし面白いと思ってくださる方がいらっしゃったら、

次回を楽しみにしていただけたら、とてもうれしいです。

以前に投稿したときは、一週間に一回のペースだったんですけど、

今回は頑張って週に4~6,7回は投稿しようと思っています。

でも私のことだから、挫折するかもしれません。

そのときはご容赦ください。


では、またお会いしましょう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ