表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/185

第98話 嫉妬

~織原朔真視点~


『天久カミカでぇっす!!』


 〉神か!?

 〉紙か!?

 〉可愛い

 〉清楚風


 Vチューバーと聞いて誰を思い浮かべるのか、人によっては答えはバラバラになると思うが、より多くの人に聞けば大体4人に票が集まることだろう。1人は安堂あんどうりつき、もう1人は彪牙ひゅうがみさき、もう1人は『ブルーナイツ』の愛梨あいりネル、そして『LIVER・A・LIVE』の天久カミカだ。


 そんなカミカさんが目の前にいる。どこかで聞いたような声だと思っていたが、まさかその天久カミカ本人だとは気付きもしなかった。やはりマイクやスピーカーを通して聞く声と生の声には多少の差異がある。そうなると僕の生の声を聞いてエドヴァルドだとわかったカミカさんや薙鬼流、一ノ瀬さんは凄いのだと思った。


「ねぇ?ビックリした!?」


 僕の顔を覗き込むように尋ねてくるカミカさんに僕は頷く。


「でもまさかエドヴァルドさんがこんな可愛い顔してるなんて思わなかったな~」


 僕は何故だか少しだけ寒気を催して、黒髪ショート、毛先を赤く染めたカミカさんの連れであるもう1人のお姉さんに目を向けた。


 ──彼女もVチューバーなのだろうか。


 僕は『LIVER・A・LIVE』通称ラバラブに所属するVチューバーを頭の中で思い描く。それを察したのかカミカさんは言った。


「あ、この子は伊角恋いすみれんだよ」


 伊角いすみさんは手を振って小さく答えた。


「どうもぉ~」


 彼女のことも僕は勿論知っていた。2人は共に女子高生Vチューバーとしてデビューしていた。Vチューバー黎明期に於いては女子高生やアイドル、AIやメイドなどの設定のキャラクターが多い。


 2人とも配信で見るよりも大人びており、なんというか……


 ──普通のお姉さんだ……


 しかし配信となると2人は暴言やら奇声を上げ、視聴者を煽り立てる。


「今、思ったよりも普通だとか思ったでしょ?でしょ?」

「絶対思った」


 配信でリスナーにかける圧と同じようなモノを感じた。僕は答える。


「いえ、思っていたよりも美人だったので……」


「もうやだぁ!エド君たらぁ~!!相変わらずイケボなんだからぁ~!」


 カミカさんは照れながらドカッと背中を叩いてきた。そんなカミカさんとは対照的に伊角さんは冷静に言った。


「それよかホンマに声、かっこええな」


 僕は女性である伊角さんの低い声の方がカッコいいだろうと思った。


「ほんとそれ!今まで身バレしたことないの?」


 僕は今まで身バレしてしまったことを思い出す。薙鬼流や一ノ瀬さん、音咲さんにもバレそうになった。しかしこれを言えば僕の素性がわかってしまう。別にそれを彼女達に話したって構わないのだが、今までそんな経験がないものだから、どのようにして答えたら良いかわからない。


 僕が答えあぐねているとカミカさんは言った。


「あるんだね?それに今、私達にもバレちゃったし」

「ホンマ、気ぃつけやぁ~」


「は、はい!」


 僕が背筋を伸ばしながら答えるとカミカさんは口を開く。


「そんなかしこまらなくても大丈夫だよ?」


 ね?と言って伊角さんを見やる。

 

「なぁ」


 と伊角さんはカミカさんの言ったことを肯定した。


「いえ、お二人がいなければ僕みたいなのがこうやって活動することなんて出来ていないと思うので、やはり敬意を払わないと……」


「もぉ~礼儀正しいんだからぁ…それよりさっきの子、なかなか帰ってこないね。うんこかな?」


 配信の時のカミカさんのような発言だった。伊角さんがつっこむ。


「そんな言うたらアカン」


 2人のよく見る配信の空気になる。


「それよりあの子もライバーなの?」


「……」


 僕は黙った。言っても言いものなのだろうか。


 すると伊角さんが言う。


「言い辛いやん?てか声的にブルーナイツの子やろ?」


「えっ!?」


 カミカさんが割って入った。


「エドヴァルドさんの配信見てたらわかるよぉ、それで2人でこのテーマパークに来て……何やらただならぬ関係を妄想してしまう……」


 ジュルリと口元を拭うカミカさんに伊角さんが再びつっこんだ。


「ごめんなぁ~、この子こういうところあるから」


「知ってます」


 僕の即答にカミカさん達は笑った。そして僕も笑った。


 カミカさん達はこれから別のエリアに行くとのことで僕に別れを告げてきた。


「じゃあ今度のポーカー大会で会おうね」


 実際に会って配信をするわけではないのだが、僕は宜しくお願いしますと言って別れた。薙鬼流を待つ間、僕の中では音咲さんとダニーズ事務所の田山彰介が抱き合った光景が頭の片隅で常にちらついていた。


─────────────────────


~音咲華多莉視点~


 ──だ、誰あの女ぁぁぁ!!??????


 何故だか怒りが沸いてくる。一緒に勉強会をしてから織原との距離が近付いていたのだが、やはり私は彼のことをあまりよく知らないのだと悟った。


 仲の良い友達が知らない友達と歩いているとなんだか寂しい気持ちになるような感覚だ。


 ──は!?誰が仲良いって!!?これは、あれだよあれ。織原の交遊関係を把握するのが、織原を雇っているお父さんの娘としての責務なの。きっとそう!!


 織原を雇っていても問題ではない。勉強会以降、織原が何か粗相をしてしまった場合、私が彼を庇って解雇されないように取り計らっても良いとまで考えていた。


 ──それなのに私の知らない、それも年上の綺麗(私よりは綺麗じゃないけど)なお姉さんと一緒にこのディスティニーシーに来てるなんて!!あれ?クビにしちゃう?いっそのことクビにしちゃうか?そうしないと怒りが、私の優しさを無碍むげにした織原に対するこの怒りがおさまらない!! 


「音咲さん?大丈夫?」


 田山さんから声をかけられた。現在、シー内の個室のあるレストランでの昼食のリポートをし終えて、そのままカメラのテープチェンジと休憩をしていた。


「…あ、はい!すみません。少しぼ~っとしてて……」


「さっきつまずいた辺りからなんか変だよ?」


 私よりも8つも年上の田山さんは私をいつも気遣ってくれた。


「…その……」


「なんかあったの?話し聞くよ?」


 私は田山さんの言葉に甘えて、話すことにした。


「えっと、さっきここに来る途中、私の知り合いがいて……」


「それで?」


「その人、私の知らない女の人と一緒に並んでて……」


 田山さんは狭い目と眉毛の間を大きく開けながら驚きの表情を見せて言った。


「え!?男!?」


 一瞬、はい、と答えてしまいそうになった。しかし私は田山さんの意味する男とは恋人のことであると察して慌てて否定する。


「ち、違います!!その、私の父のホテルの従業員で……」


「へぇ~その従業員さんが音咲さんの知らない女の人とここにいるのがどうして気になるのかな?音咲さんにとっては特別な従業員だからかな?」


 悪戯好きの子供のような顔をする田山さん。どこかリーダーの希さんを見ているようだった。


「違いますってば!ただ、少しだけ彼の素性を知っていて、何か良くないことに足を突っ込んでるんじゃないかって…心配になって……」


「心配してた?なんか凄い不機嫌な顔に見えたけど」


「ぅっ……しょ、正直に言うと私と一緒にいる時には見せないような顔をしていたのでなんだか腹が立ちました」


「へぇ~」


 田山さんが喋りだす時に必ず嫌らしい感じのへぇ~、が枕詞のように入る。


「その人のことが好きなんだね」


 先程食べた昼食が口から出てきそうだった。


「そ!そんなわけないじゃないですか!!」


 私達のいる個室に声が反響する。私の叫びにより店内で休憩をしていたスタッフさんが慌てて駆け付けてきた。乱暴な足音と共に勢いよく個室の扉が開く。


「ど、どうしました!!?」


 黒いズボンと黒いTシャツを着た女性スタッフがノックをせずに扉を開けて顔を覗かせる。


 私は下を向いて言った。


「な、なんでもないです」


 スタッフの女性は少し思案するも、不躾に扉を開けてしまったのを謝るようにソッと閉めて私達の個室から離れた。


「ごめん、ごめん。まさかあんな大声出すとは思わなかったよ」


「私も大声だしてすみません…自分でもビックリしてます……」


「でもあれだね、それは独占欲の表れかもね」


「独占欲……」


 私は消化しやすいように田山さんの言った言葉をただ復唱した。


「そうそう。まぁ嫉妬とも似てるんだけどさ……」


 私は田山さんを見た。いや睨んだかもしれない。田山さんは自分には敵意がないことを表現しようとまるでピストルを突き付けられた人のように両手を挙げてみせた。しかし私にも思うところがある。今度は先程の大声ではなく、冷静に返した。


「わかる…ような気がします……」


 田山さんは少しホッとした様子で、これ以上私には何も言わなかった。


 ──嫉妬……


 今までで何度も嫉妬を経験したことがある。それはお父さんが芸術家や一流のスポーツ選手に見せる眼差しと私に向ける眼差しの差異から生ずる。


 私がアイドルを始めた理由。何万人、何十万人の視線を釘付けにしても意味がない。たった1人。


 ──お父さんに見てもらえれば私はそれで良いのに……


 しかし、その嫉妬がまさか織原にまで及んでいたことに私は驚いていた。


 この日、仕事は何事もなく終えることができたが、織原とその隣にいた女の人が常に私の頭の片隅にちらついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ