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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第86話 忘れ物

~音咲華多莉視点~


「ない!!」


 バッグの中を探しながら私はもう一度言った。


「ない!!」


 今度はポーチに入っていないか探した。しかし私は言う。


「ない~~!!!」


 運転しながらマネージャーの加賀美英子が言った。


「カバンの中、全部出して探した?」


 そう言って彼女は後部座席の私を見た。後部座席にいる私の周りには既にたくさんの物によって溢れていた。その様子を見て、加賀美は自分の提案を既に私が実行していたのを知る。そして次の提案をした。


「ホテルに電話したら?」


 私はそれだ、と思い藁をもつかむ想いで支配人である白州に電話をした。


 呼び出し音が焦れったい。するとその呼び出し音が途切れて、白州の声が聞こえる。


「もしもし、如何いたしました?」 


「問題発生よ!!私の部屋に小さい小箱が落ちてない?」


 小さいと小箱は同じ意味だが、この際気にしていられない。


「確認致します……」


 そういって保留音が流れた。私は足をバタバタとさせて、誰かの為、に作られた楽曲を聴いた。


 ──早く、早く、あれがないと仕事に支障が……

 

「もしもし」


 と白州の声が聞こえた。


「あった!?」


 私が訊くと、彼は答える。


「はい。仰っていたような小箱がありました」


「よかった……」


 私は安堵したが直ぐに切り替えて言う。


「それを直ぐに私のもとへ届けに来てちょうだい!!」


 テストも終わり、緊張から解放された気分だったが、早速今日から仕事だ。


 ──それなのにアレを忘れちゃうなんて。


─────────────────────


~織原朔真視点~


 ──どうして僕が……


 タクシーの後部座席に座りながら、僕は音咲さんの忘れ物を届けに行っている。テストも終わったことで開放的な気分だったが、支配人の白州さんから今日の業務はハウスキーパーではなく、音咲さんの忘れ物を届けてほしいとのことだった。勿論時給は出るとのことで請け負ったが、音咲さんは一体何を忘れたんだろうか。僕は後部座席にちょこんと置いたホテルのロゴの入った紙袋を見た。その紙袋の中には忘れ物の小箱が入っている。支配人曰く、これがないと仕事にならないそうだ。


 一体中に何が入っているのか、僕はそう尋ねると白州さんはわからないと答えた。そして僕にこうも言った。


『途中でその箱を開けたらその者に死が訪れるとお嬢様から言伝てを貰っております』


 パンドラの箱か?それとも玉手箱か?そんなことを思いながら僕は音咲さんの仕事現場に向かっていた。


 現場に到着した。


 港にある大きな倉庫だ。そこで椎名町45の新しいミュージックビデオの撮影をしているそうだ。しかし、僕は入り口でスタッフに止められる。


 ──それもそうだよな。


 僕は言った。


「音咲華多莉さんのマネージャー、加賀美英子さんはいらっしゃいますか?」


 僕を止めているスタッフは僕の全身を下から上へ舐めるようにして見た。僕はホテルマンの格好をしていて、容姿も幼い。椎名町45のおかしなファンが今日ここで撮影をしていることを聞き付けてやって来たのだと思われても仕方ない。


「どういったご用件で?」


「忘れ物を届けに来たんですけど……」


 僕はそう言って、小箱の入った袋を掲げる。


「な、中身を確認しても?」


 警戒されて当然だ。しかし小箱の中は音咲さんが見てほしくないと言っている。僕は躊躇ったが渡した。


 スタッフが袋から小箱を取り出し、開けようとしたその時、僕は思い直し彼の手を止めた。


「ほ、本人が中を見ないでと言っていたので開けないで貰っても良いですか?」


 スタッフの警戒度が増す。


「本人がですか?しかし、どうして……」


 僕は言った。


「開けたら死が訪れるって……」

 

 その瞬間、スタッフの警戒度がピークに達した。応援を呼ぼうと、他のスタッフに声をかける。その時、倉庫の中から椎名町のメンバー達がゾロゾロと出てきた。


 僕の前にいるスタッフさんは僕から彼女達を遠ざけようと僕を押す。音咲さんの小箱はスタッフが持ったままだ。それが彼の手から落ちてしまうのが心配な僕は、押してくるスタッフに対抗するようにその小箱を奪い取ろうと試みた。


 騒がしさに気付いたのかメンバーの何人かが僕の方を見る。音咲さんの姿は確認できない。メンバーの1人が僕に近付いてきた。


「さ、斎藤さん、危険です!来ないでください!!」


 小さい顔に、白い肌。キリッとした、それでいて妖艶な目、椎名町45のリーダー斎藤希さんがやって来た。希さんは小箱を指差して言った。


「それ、華多莉ちゃんの……」


 スタッフの押す力が弱まり、僕は彼から小箱を奪い取った。僕が大事そうに小箱を扱っていたのがわかったのか、希さんは言った。


「あなたが届けに来てくれたの?」


「は、はい。音咲さんに言われて……」


「へぇ~」


 とスタッフ同様、下から上へ舐めるように彼女は僕を見た。そして言った。


「あなたが……」


 希さんが何かを言い掛けた最中に、スタッフさんが言った。


「そ、その小箱を開けたら死ぬっていうのは……」


 スタッフはまだ危険視していた。それはどういうこと?と希さんは僕を見つめる。


「たぶん開けたら殺すってことだと思います」


 またしても希さんはへぇ~、と言った。そして続けて口にする。


「華多莉ちゃんは貴方には素を見せるみたいね……」


「はい?」


「ううん。何でもないの。それと、華多莉ちゃんはもうこの現場から離れたわ」


「え!?」


 そして僕のスマホに白州さんから連絡が入った。音咲さんが現場を移動したとのことだ。次の目的地を告げられる。


「次は…東京?」


「そうそう!そこでバラエティ番組で使う映像の撮影だって。頑張ってね。華多莉ちゃんは貴方を必要としているわ」


「音咲さんは僕じゃなくて、この小箱を必要としてるんですよ」


「フフフ、本当にそうかしら?」

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