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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第85話 コンプレックス

~音咲華多莉視点~


「テスト返却するぞー」


 うだるような生徒達の声。あいうえお順で呼ばれる生徒達は、返却された答案用紙に書かれた点数を見て思い思いに噛みしめ、間違えた問いを確かめる。


「音咲~」


 私の名前が呼ばれ、テスト用紙を受け取った。


 78点。


 フンと私は満足気に鼻をならして、隣にいる織原に自分の点数を見せつけた。織原も自分の点数を見せてくる。89点。流石は私の先生だ。あれから織原は私にテストに出る所の解説をラミンで送ってきた。私はそれをエドヴァルド様の音声で再生して勉強する。あれだけよく纏められているのだ、彼が私より点数が高いのは納得のいくことである。織原って頭良かったんだと思ったのは実際に彼の点数を見てからなのはここだけの話だ。


「華多莉ぃ~」

「どうだった?」


 私はニヤリとして近付いてきた美優と茉優に現代文だけでなく他の科目の答案用紙を見せびらかした。


 平均76点


「すごっ!」

「え~?勉強してたの?」 


「そうだよ~!これで暴露されても安心」


「ん?なんか言った?」


 何でもないと私は返した。そして続けて口にする。


「そんなことより2人は夏休みどうやって過ごすの?」


「ん~海行ったり、バイトしたり?」

「私もバイトかなぁ?華多莉はやっぱ仕事?」


「うん。結構面白そうな仕事入ってて今からワクワクしてるんだ」


「へぇ~」

「面白そうな仕事ってなに?まだ言えないやつ?」


「えっと、言えるやつだとゲーム大会のパーソナリティーとか……」


 2人はまたもへぇ~、と私の話に相槌を打ったがそれ以上は聞いてこなかった。ゲームにあまり興味のない2人だが、私の好きなことに対して嫌な感情などは示さない。


「それよりさ、夏休み前に三者面談あるらしいじゃん?」


 茉優が言った。すると美優が明らかな嫌悪感を抱きながら呟く。


「うそ!?最悪なんだけど……」


 美優の言葉を受けて茉優が言った。


「まぁ嫌なのはわかるけどそんなに?美優のママ美人じゃん。それに比べてうちのババァは……」


 美優は言った。


「ママ、夜から仕事だからあんまり昼とか夕方に負担かけさせたくないんだよね……」


 美優の家は両親が離婚して美優と美優ママの2人で暮らしている。離婚したからといって美優が何かに劣等感を抱くことなんて今までに一度も目の当たりにしたことはない。美優の母親想いのところが私は好きだ。


「華多莉のところもママが来る?」


「ん~たぶんそうかな?」


 私の家は両親はいるが、3人が集まって食事をすること等は滅多にない。私にあまり興味を示さないお父さんより、お母さんの方が三者面談は適任だろう。しかし私のお母さんはどこか抜けていて将来の進路相談には向いていない気もしないでもない。  


「華多莉のママもめちゃくちゃ美人だからなぁ……」


 茉優は母親の年齢にコンプレックスがあるようで、私と美優が家に遊びに行った時も挨拶だけで、茉優ママとはあまりコミュニケーションを取らせてくれなかった。両親が晩婚で、年の離れた兄もいるため、年頃の女子高生からしたらあまり同級生に見られたくないことなのかもしれない。


 ──私は全然気にしないんだけど……


 でも例えば私がお父さんとコミュニケーションを取ろうとして失敗してるところなんかを見られたらきっと恥ずかしくなってその場から逃げたくなっちゃうかもしれない。


 ここは茉優にあまり突っ込んだことは聞かないように、そして言わないようにしようと思った。


「でも良いなぁ~華多莉は……」


 茉優が私に羨望の眼差しを送る。


「何が?」


「だってテストの平均点良いじゃん。きっと三者面談の時に、親と担任に見られながら参考にされるんでしょ?」


「あぁ、確かにそうなりそうだけど、私の点数なんかより学年1位の──」


 美優が私のセリフを横取りした。


「一ノ瀬愛美ね。私、華多莉には悪いんだけどあんまり好きじゃないんだよなぁ……」


 私は驚いた拍子に、教室で語るにはあまりにセンシティブな内容を美優に訊いてしまった。


「ど、どうして!?」


「なんかさぁ、頭も良くて顔も良くて、おまけに性格も良いじゃん。悩みなんか1つもないんだろうなって思うと、無性に腹が立つんだよね」


 私は愛美ちゃんと友達になったばかりで彼女のことを庇う材料を持っていない。美優のような考えを持つ人もいるのだと私は納得させたが、どこか居心地の悪さを消すことができなかった。


───────────────────────


~一ノ瀬愛美視点~


 テストが返却された。点数アベレージは98点。学年で1位を獲った。これでお母さんからは何も言われない筈だ。


 私が裏で何をしているのか、お母さんは全く知らないだろう。今はエントリーした全国高校eスポーツ選手権大会の練習をしている。


 エントリーしているのはバトルロイヤルゲーム、フォートトゥナイトのソロ部門だ。他にも同じくフォートトゥナイトのデュオ部門がある。一瞬薙鬼流さんかエドヴァルドさんと一緒に出てみたいという欲もあったが、eスポーツ大会は顔出しが基本なのでVチューバーである2人と出る夢は叶わない。


 フォートトゥナイト以外にもRTS(リアルタイムストラテジー)ゲームであるイリーガルオブレジェンズなんかもあるが、こちらは5~6人でのエントリーとなるため、これにも出れない。


 フォートトゥナイトはTPSゲームで操るキャラクターの全身が写っている三人称視点のゲームだ。最後の1人、或いは1パーティーが生き残りをかけて戦う。TPSというのはサードパーソン・シューティングゲームの略である。ファーストパーソン・シューティングゲームのアーペックスとは視点の違いだけでなく、キャラクター特有のアビリティ技がない。しかしマップに設置された木や建物を破壊し、素材を手に入れ、それらを使って足場や遮蔽物、要塞なんかを建築することができる仕様となっている。


 私はカチカチとマウスとキーボードを叩きながらプレイ画面を凝視した。


 私の操るキャラクターが空に足場を建てながらどんどん上空へと移動した。敵も同じ様に忙しなく空に向かって建築をし続ける。私と相手2人で作った天にも昇る迷路のような要塞でとうとう決着がついた。建築に夢中になれば次第に攻撃の手数が減る。遮蔽を建築中に相手は私を見失った。そんな中、私はショットガンタイプの武器を使い、ジャンプをしながら相手の作る木材でできた壁が建築される途中にそれを破壊し、相手に弾を命中させた。


 victoryの文字が画面上に表示された。


 私はゲーミングチェアに思いっきり寄りかかり、熱戦の緊張を解く。しかし直ぐにモヤモヤとした不快感が押し寄せた。


 それはベッドの上に投げ出されたプリントのせいだ。


『三者面談のお知らせ』


 おそらくお母さんと受けることとなるだろう。いつものように大人しくして置物のように振る舞えば問題はない筈だ。しかし必ず自分の意に反することを言われるに違いない。それを想像するだけでも内臓が締め付けられるような不快感を抱く。


 はぁ、と深呼吸のような溜め息をついて、大会に向けてのモチベーションを上げるために高校eスポーツ選手権大会のホームページを覗き見た。


 司会にはお笑い芸人のポケットジャングルの2人と実況には田中カナタ杯のときの武藤さんとルブタンさんと新界さん。


 大会にはシロナガックスで出場するつもりはない。本名であるMANAMIで出場するつもりだ。エントリーするのに本名でなくても構わないのだが、これは新しい自分として出場する意味合いを持っている。だから私がシロナガックスであるということはバレないだろう。


 私は他の出演者情報をマウスホイールを回してページを下にスクロールした。そして大会アンバサダーに就任した人物を見て私は驚いた。


「え!?華多莉ちゃん?」


 学校にいる時とはまた少し違う笑顔をこちらに向けて写っている華多莉ちゃんの写真が載っていた。


 シロナガックスとしてではなく、『私』のことを知っている人がいた。


 流行り病のせいで大会はリモートで行われていた前回とは違って、今大会はリアルイベントである。観客を入れ、決勝は名だたるパーソナリティーの直ぐ側でプレイをすることとなる。


 私が会場でプレイしてたら驚くだろうな。


「っとダメダメ!決勝に出られるつもりで考えてた!!しっかり予選を通るところから頑張らなきゃ!!」


 私は気合いを入れ直し、再び生き残りをかけたゲームを開始する。

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