第76話 ラブラブ
~織原朔真視点~
僕と一ノ瀬さんは薙鬼流と喜びを分かち合う。
「本当にありがとうございまじだぁぁ~~わだじ本当に2人と戦がえでうれじがっだでず……」
僕は言った。
「こっちも一緒にプレイできてよかったよ」
一ノ瀬さんが僕に続いて言った。
「またコラボしましょう!」
僕と薙鬼流はそれに賛同する。
「そうだね」
「はい“!!」
消灯時間も迫っている、僕らは部屋をあとにしようと玄関に向かった。
「じゃあ申し訳ないけど、後は頼むよ」
「お願いします」
幾らか落ち着きを取り戻した薙鬼流は返事をする。
「まかせてください!!」
薙鬼流にPC等の梱包と配送を頼み、名残惜しみながら僕らは別れた。
えもいわれぬ達成感に包まれながら15階の廊下を歩く。
「本当に優勝したんだよね」
「うん!夢みたいだよね」
エレベーターホールに着き、ボタンを押した。上に向かって上昇してくるエレベーター。僕らはその扉の前に立つ。
ピンポン。と到着を知らせる音が聞こえると、扉がゆっくりと両開きで開く。
僕らはそこに乗り込もうとすると、中には音咲さんと日本史の宮台先生が乗っていた。
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~音咲華多莉視点~
酔っ払った宮台先生と一緒に本館と呼ばれるホテルに着いた。外観からして25階以上はあるホテルだ。22時を過ぎている為、豪華なフロントには人っ子一人いない。閑散としていて寂しい印象を持ったがそれでもホテルの顔とも言えるここのフロントはなかなかのものだった。
──私のお父さんのホテルを少し真似てる造りね……
宮台先生はひろ~~いと言ってはしゃいでいた。その声が吹き抜けとなっている館内に響く。
エレベーターに乗り込むと私は不意に、いつもの癖で15階を押してしまった。
「あっ!」
「どうひたの?」
呂律の回らない宮台先生に説明する。
「いつも15階の部屋に泊まってるんで、つい癖で15階のボタンを押してしまって……」
私は大浴場の20階を追加で押した。
一度15階に止まってしまうが、まぁ良い。
ピンポン。と15階に到着したことを告げるチャイムがなると扉が焦れったく両開きで開いた。私は閉まるボタンを連打する。しかし、開いた時に誰かがそこにいた気がした。
私は閉まるボタンから開くボタンを今度は連打して、扉を開く。
「どうひたの~?」
宮台先生がまたしても尋ねてきた。
「今、誰かいませんでした?」
「え~?」
宮台先生と私はエレベーターに乗りながら、首だけを扉の外へ出して左右を確認する。
誰もいない。
私は気のせいかと思い、首をエレベーター内に戻した。
「気のせいみたいでした」
「え~でも確かに誰かいたみたいだから先生ちょっと見てくるよ」
宮台先生は、15階に足を踏み入れる。
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~宮台カレン視点~
私、宮台カレンは地味な女性教師だ。黒髪にまん丸眼鏡、カレンという華やかな名前によってどれだけ恥ずかしい想いを今までしてきたことか。
え~カレンっぽくない~と何度も言われてきた。
そんな私は小さい頃からの夢である歴史の教師となり、今カレンという名前に相応しいような可愛らしい生徒にしてアイドルの音咲華多莉ちゃんといる。
酔いが回ってきたこともあり、音咲さんの可愛さが身に染みている。私もこんなに可愛く生まれていたらとつい夢想してしまう。
素敵な殿方からの交際の申し出も引く手あまた。あ~なんて素敵なんだろうか。
──ヤバい。酔いが回ってきた。
私は自分の酔いを覚ます為にも、15階に降りて音咲さんの見たという人影を捜索した。
エレベーターホールには誰もいない。しかし先ほど首だけを出して左右を確認したところ確かに人影が見えた。
その人影はエレベーターホールから廊下へ消えていった。私はその影を追う。音咲さんをエレベーターに置いて廊下へと向かう。
「あの~乗らないんですかぁ?」
廊下へと出ながら私は言うと、そこには男女の後ろ姿があった。
もう一度声をかけようとしたその時、女性が男性の腕を組み始めた。私に見せ付けるように。
酔いが冷めた。
私はエレベーターに戻ると音咲さんが心配そうな声で言った。
「だ、大丈夫ですか!?」
よっぽど私がげんなりとして戻ってきたことに心配をしたのだろうか。私は説明する。
「男女のカップルがイチャイチャしてたぁ……グスッ……」
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~一ノ瀬愛美視点~
エレベーターが開き、中に音咲さん達を視認すると、織原君はまるで射線から外れるように私の手を引っ張ってエレベーターからでは見えない死角へと一緒に隠れた。
扉が閉まっていくのを見て安堵したがしかし、再度扉が開き、エレベーター内から私達を探すように2つの頭が見えた。
私達はそのまま廊下へと姿を隠した。そのまま行ってほしいという願いも虚しく、宮台先生がこちらへ向かってくる。
──私達だってバレた?
もしバレたのなら私達を捕まえようと走って追ってくる筈だ。薙鬼流さんのいる部屋まではそこそこ距離がある。幸い私達は生徒だとわからないように服装には気を遣っていた。私と織原君は示しを合わせてカップルの振りをして廊下を歩くことにする。
「あの~乗らないんですかぁ?」
宮台先生の声が聞こえる。彼女が廊下へと躍り出たのがわかる。しかし私達が先生の生徒だとはわかっていないようだ。それでも良く見れば私達が年端もいかない学生だとわかってしまうかもしれない。
私は思いきった行動に出る。
織原君の腕をぎゅっと抱き締めた。なるべくラブラブに見えるように。片足もあげちゃったり……
織原君は私の行動に驚き、暗い廊下でもわかるほど顔を赤くさせていた。それを見て私も顔を赤くする。
──さっき思いっきりハグをしたばかりなんだよね……
少しして廊下からエレベーターホールへと宮台先生が戻っていくのがわかった。
ホッとした私と織原君はその場で立ち止まる。すると先程まで熱戦を繰り広げていた私達の部屋から薙鬼流さんが出てきた。
おそらくお風呂へと向かう予定なのだろう。化粧水などが入ったお風呂セットを持っている。
目を腫らした薙鬼流さんは私達を見ると、叫んだ。
「あ~~!!なんで腕組んでんですかぁぁぁぁぁ!?」
織原君と私はシーっと静かにしてほしいというジェスチャーをして、恐る恐る後ろを振り返る。そこには宮台先生の姿はなかった。
そして私は慌てて織原君の腕を離し、距離をとった。
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~音咲華多莉視点~
大浴場から上がり、火照った身体を冷ましながら私と宮台先生は私達生徒の宿泊する施設に戻った。良い湯加減だった。
施設の入り口で宮台先生と別れる。
「早く寝なよぉ~?」
私は、はいと了承の返事をして自室へ向かった。部屋の扉を開けると美優と茉優が迎えてくれた。しかし、部屋は散らかったままだった。2人とも掃除は苦手らしい。
──早くエドヴァルド様のアーカイブを観たいのに……
鱗粉の付着した寝具等は部屋の隅に丸めて置いてある。手分けして散らかった小物類等をある程度整理するが、ベッドはぐちゃぐちゃのままだ。
シーツにデュベカバー、羽毛インナーが別々の状態で渡され、私達は各自で羽毛インナーをデュベカバーに入れてベッドメイキングするのだが、上手くできない。
「ねぇ、なんで宿泊代払った林間学校でこんなことしなきゃいけないわけ?」
美優がそう溢すと、茉優が言った。
「てか華多莉、ベッドメイキングできないの?」
「そうじゃん!ホテルの令嬢じゃん!」
「私は泊まる専門だから…あっ……」
私はベッドメイキングできる人を知っていた。
「どうしたの?」
「どうした?」
「…あ、あのさ、ベッドメイキングできる人、クラスにいるんだけど……」
「え!?誰々!!?」
「その人呼んでやってもらおうよ~」
「……」




