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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第75話 キアロスクーロ

~織原朔真視点~


『はい!ということで、お呼びしましょう!第1回田中カナタ杯優勝チーム!キアロスクーロです!!おめでとうございます!!』

『おめでとうございまぁ~す!!』


「ありがとうございまぁす!!」

『ありがとうございます!!』

『ぁりが…ぅ…とうごじゃいまず』


『この目でしかと見させて頂きました!!本当に素晴らしいプレイの数々でした!!』

『本当に凄かったです!もう既に泣いてる人がいますが、さっそく1人ずつお話を伺いたいと思います!薙鬼流ひなみさん!』


『ん"、はい"……ぇぐ……本当に、本当に上手くいかないことばかりで……』


 少しがあいた為、田中カナタさんが相槌を打ちながらそのを埋めた。


『本当に苦しかったと思います。マジで16歳が感じて良いプレッシャーじゃないんよな……』


『セカンドゲームで私……動けなくなっちゃって、ここでキルされたら……もっと炎上するんじゃないかって考えたら、震えが止まらなくて……そんな状態でラストゲームにも入っちゃって、最後の坑道での戦闘で……』


『あれは凄かった』


『エド先輩とシロさんに支えてもらって……本当に2人のおかげで震えが止まって……本当に、本当にありがどうございまじだ!"!"』


『そのようなコメントを受けてエドヴァルドさんどうですか?』


「ここでそんなパスします?」


『フフフ、お願いします』


「いや、その薙鬼流さんに起きていたことはわかっていて、その被弾をすると動きが鈍っちゃうとか、あとはその、少し話題になっていたりとか……」


 僕は炎上の件を濁して表現した。


「そんな状況でも彼女は、配信を辞めなかったんですよ。それが僕にはかなり刺さったというか、勇気を貰ったというか。年下の薙鬼流さんがこんなにも頑張っているんだから自分もやらなきゃって思えて……だからお礼を言うのは寧ろこっちというか……」


『私もそう思います』


 シロナガックスさんも僕に同調したその時、薙鬼流ひなみの叫びにも似た嗚咽混じりの鳴き声が僕と主催者、視聴者達に響いた。


 〉そりゃ泣くわ

 〉よくやった

 〉頑張った

 〉まだ16かよ……


『こっちも泣きそうになっちゃいますよ……彼女はこの大会のチーム決めの時に、色々と相談をしていたんですよ。あ、ヤバい目から涙が……この年になるとちょっと脆くなりますね……』


『……え~大変感動的な場面なんですが、どうしても聞きたいことがあるんですけれどもエドヴァルドさん?1つ宜しいですか?』


「はい」


『新界雅人さんを倒したあれは、最初からあの作戦を立てて実行したんですか?』

『それ聞きたかった!!』


「…いや、なんか普通に戦っても勝てないと思ったんで、理想と運が上手く噛み合えばっていう感じでやってみました」


『うぅわ、それが噛み合ったっていうことなんですね?凄い。こーれは優勝しますよ』

『流石というところですね。では最後にシロナガックスさん』


『はい。エドヴァルドさんと被ってしまうんですが、年下である薙鬼流さんや自分の力でここまで切り開いたエドヴァルドさんに比べると私なんてまだまだ全然で、この2人の強さを少しでも皆さんに見せつけられるようなプレイができたらと思っていたんですけど、それができたんじゃないかなぁと思っています』


「いやいや、シロナガックスさんのプレイングに比べたら」


 薙鬼流もうんうんと泣きながら言っている。僕は続けた。


「でもオープニングゲームで僕と薙鬼流さんの2人が早々に殺られちゃったんですけど、最後の試合でその僕らが生き残って2位になれたのは熱かったです」


『エモいなぁ~!いやぁもっとお話を聞いていたかったんですけど、そろそろ22時になってしまうということなので、ここまでとさせて頂きます!総合優勝チーム、キアロスクーロの皆さんでした!!』


「ありがとうございました!」

『ありがとうございます!』

『ありがどうございまじだ!!』


 田中カナタさんと武藤さんの声が聞こえなくなり、僕と薙鬼流とシロナガックスさんはそれぞれの自分達の枠を見てくれている視聴者に向けて挨拶をした。


「優勝できたのは皆さんが応援してくれたからです!」


 コメント欄にはおめでとうの文字とスパチャで溢れていた。


「本当はもっと皆と優勝の喜びを分かち合いたいんですけど、薙鬼流さんが抜けてしまうので僕らの配信もここで終えたいと思います」


『き、気を使わないでください!私が未成年なのが悪いんです!!』


 薙鬼流の言葉にシロナガックスさんが返した。


『やっぱり3人で優勝したんだから、今度のコラボ配信にとっておきましょう』


「うん。そうしよう!ということで僕らの配信もここで切ろうと思います!それでは応援してくださった皆様!!本当にありがとうございました!!」


 僕らはそれぞれの配信を切り終えるのを見るやいなや、立ち上がり優勝の喜びを3人で噛み締めた。


「いよっしゃーー!!!」

「やったー!!!」

「…ひぐっ……」


 僕は部屋の中央で配信をしていたシロナガックスさんこと一ノ瀬さんの元へ行き、喜びのあまり抱き合おうかと思ったが、僕の中の織原朔真がそれをやめるように止めてきた。しかし僕の中のエドヴァルドがそれを押し退けた。


 僕は一ノ瀬さんを抱き締める。


 一ノ瀬さんも少し戸惑いを見せつつも、意を決したのか力強く僕を抱き締め返した。しかしいつまでこのハグを続けて良いのか、それともいつになったらハグをやめれば良いのかわからない。僕の中のエドヴァルドが急に退いていくのがわかる。


「……」

「……」


 ゴホッ、と薙鬼流が嗚咽のせいで咳き込んだ。僕らはその音で離れた。離された僕は一ノ瀬さんを見る。目が合った。ブンと音が出る程の速度で僕らは顔をそらした。


 咳き込んだ薙鬼流が僕らの輪にいつまでも入ってこないので僕らは彼女を見る。


 彼女は、目を擦り、涙で袖を濡らしていた。パソコンの前でへたり込み、そこから動けないでいる。僕は彼女の方へ歩み寄ると、とあることに気が付いた。


 脚の低いテーブルの上にパソコンを置き、ソファとそのテーブルの間の床に座って配信をしていた、ただそれだけなのに。


「何でこんなに散らかってんだよ!!」


 涙と一緒に出てくる鼻水を拭ったティッシュはまだわかるが、靴下に上着、お菓子の食べ残しやエナジードリンクの空き缶が散乱していた。


 薙鬼流ひなみは腫らした目をこちらに向けながら言った。


「は、配信してたら……ご、ごうなるでじょ?」


「なんねぇよ!!」


 僕は同意を求めようと一ノ瀬さんの方を振り返ると、彼女は僕のポケットに500円玉の大量に入ったケースをいれようとしていた。


「いや、直接スパチャしようとすな!!」


─────────────────────


~音咲華多莉視点~


 私は高揚していた。実際に画面に向かって叫びながら応援していた。熱くなった目頭を指で抑える。アーペックスのルールは未だによくわかっていない。ましてや大会ルールなんかも全然理解していない。しかし推しのいるチームが優勝したことによりなんとも言えぬ達成感が私を包んでいる。


『このライブ配信は終了しました。』


 そんな文字が写ったエドヴァルド様の配信画面をまだ閉じきれないでいる。閉じてしまうとこの達成感が幾らか減少してしまうのではないかと思ったからだ。 


 ──美優と茉優がいなくて良かった。もし彼女達が部屋に帰ってきてたら……


◇ ◇ ◇ ◇


「あれ?華多莉何見てんのぉ?」


 私に興味を抱きながら茉優が近付いてくる。


「…そ、それはぁ……」


 私は焦ってスマホを隠そうとするが、勢い余って床に落としてしまう。


「あっ!」


 運が悪いことに私のスマホが美優の方へ滑るようにして転がると、美優がそれを拾い上げる。


「何を見てんのかなぁ~?」

 

 私はベッドから起き上がり、彼女達からスマホを取り返そうと右手を前へ出すが、私のスマホ画面を見る前の2人の興味津々な表情がみるみる内に、薄暗いモノに変わっていくのが見える。


「うわぁ…Vチューバー……見てるの?」

「…まぁ、人それぞれ好きなものはあるよね……でもそのVチューバーはちょっとオタクっぽいというか……ただの絵じゃん」


 私はあからさまにショックを受け、一歩後ずさる。


「……」


 何か言い返したいけど何も言えない。その代わりに言い訳の言葉が浮かんでくる。たまたまおすすめにあがった動画を間違えて押しちゃって、本当はさっきまでダンスの動画を見てたんだよ。そう言おうとしたが、私の肩に優しく手が置かれる。


 それはエドヴァルド様だった。


『前だ、華多莉、前に逃げろ』


◇ ◇ ◇ ◇


 あぁ、エドヴァルド様。本当に素敵なお方だ。試合中のプレイも凄かった。らしい?コメント欄の盛り上がりが異常だったのはわかる。薙鬼流ひなみという女と一緒に協力してこの大会で最も強い人を倒したのだ。


 エドヴァルド様が作戦を伝えた際、コメント欄では2つの意見に別れた。ゲーム実況ではよくあること。どちらを選んでも不満の声があがる。幸い大会中はコメント欄をエドヴァルド様は見ていない。そして結果は良い方に転がった。いや、実力で掴み獲ったのだ。


 ──私もエドヴァルド様のように…いや、あの炎上していた薙鬼流ひなみのように……


 私の前に立ちはだかるお父さんと、そしてVチューバーが好きなことを美優や茉優に否定されるのではないかと言う恐怖に立ち向かう時が来たのだと自分を鼓舞する。


 その時、ガチャりと私の泊まってる部屋の扉が開いた。


「あっ!起こしちゃった?」

「華多莉ぃ~!!」


 美優と茉優が部屋に帰ってきたのだ。私は彼女達に話しかけた。


「ねぇ、2人はゲーム実況とかVチューバーとか見たりする?」


 彼女達2人は、私の話を聞くなりゾッとするような表情を見せる。


 私は後悔した。


 Vチューバーというのはこんなにも市民権がないものかと思った。しかし美優と茉優は腰を少し落として、私にゆっくり近付いてくる、そして美優が口を開いた。


「華多莉?落ち着いて聞いてね……」


 なんだか物々しい言い方だ。何かVチューバーがよくない事件を起こしたのだろうか?それとも何か嫌いになるような出来事でも起きたのだろうか?


「なに?」


「髪にでっかい蛾がついてるよ」


「え?」


 その瞬間、頭に違和感を覚えた。確かに重みを感じる。そして恐る恐る目をゆっくりと動かして前髪を見上げた。羽を羽ばたかせている影が見えた瞬間、私は頭を振って蛾を落とす。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 私の掌くらいある大きな蛾は私達の部屋を鱗粉を撒き散らしながら飛んだ。それを見て美優も茉優も騒ぐ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 2人はこの為に腰を落としていた。逃げ足が早い。私達が散々騒いだ後、追い出すために開けた窓の外へと蛾は出ていった。


 蝶と比べて随分とグロテスクな模様だった。あれが私の頭にとまっていたと思うと鳥肌が止まらない。


 私達は息を整えて、部屋の惨状を目の当たりにした。


 荷物やベッドのシーツ、毛布に掛け布団がぐちゃぐちゃになっている。元に戻そうと掃除をするとシーツや毛布に鱗粉のあとがついていて、またも鳥肌が立った。


 ──ここに鱗粉が残っていると言うことは……


 私は頭を触ると手に鱗粉が付着した。


「あぁぁぁ!!もう最悪!!」


 私は引率の先生の部屋へお風呂にもう一度入らせてほしいと懇願しに行く。


 ──折角、エドヴァルド様のチームが優勝したのに……しかも美優と茉優にもVチューバーのこと、私の趣味のこと話したかったのに……


 部屋から出てきた日本史の宮台先生は顔が少し赤かった。おそらくお酒を飲んでいたのだろう。


「どうしたの音咲さん?こんな時間に、もう少しで消灯の時間だよ?」


「それが──」


 私は説明した。もう一度お風呂に入らせてほしいこととシーツ等の寝具を新しく代えてほしいことを。


「ん~お風呂はもう閉まっちゃってる時間だし……とりあえず、ここの施設の人のところへ一緒に行きましょうか」


 先生は一緒にフロント、この施設の係の人のところまでついて来てくれることとなった。  


 1回のフロントに着くと係の人が言った。


「わかりました。シーツ等は取り替えさせて頂きます。替えのシーツは此方に用意しておきますので後で取りに来てください。しかし入浴場はもう閉めてしまったので…どうしましょうか……少し距離はありますが本館の大浴場を利用しますか?あそこなら夜中の12時まで利用できますので」


 私と宮台先生は本館、あの塔のように聳えるホテルの大浴場に向かった。

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