第72話 死なせねぇ
~ルブタン視点~
現在総合ランキング4位の俺達、プラハを着た天使たちのこのラストゲームにかける想いは強い。てかそれよりもアドレナリンが出っぱなしだった。もうドバドバですわ。既にキルポイントを10pt獲得した。そして正面にいる敵が2チーム。ここで更に6ptが稼げる。そしてそして、恐らく前方にいるのは因縁のシロナガックスの率いるチームだ。アイツが有名になればなるほど俺の、ルブタンの評判が下がる。
山本"KID"徳郁が開始4秒で宮田和幸からKOを取ったみたいに。もう亡くなってしまったが山本KIDが表舞台に立てば立つ程、宮田が膝蹴りで気絶する映像が何度も流れる。
──そんな感じで俺がアイツに殺られる映像が何度も流されてんのじゃ!!絶対潰す!!
鳴り止むことのない銃声が聞こえる中、キルパクされないように、いや俺が仕留める為に、坑道出入り口にあるコンテナから前方にある遮蔽物、アイテムボックスまで前進した。
その間、敵の操るルーが俺を狙おうとボット立ちになったのを俺は見逃さなかった。恐ろしく早いエイムによって、俺は敵のルーにダメージを負わせることに成功した。
──今のは俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
漫画のセリフを引用した。何てったってアドレナリンがドバドバっすから。
俺がダメージを与えたルーは、何故だかアビリティの空虚を使用した。
「ん?」
このまま空虚という無敵状態で俺達の包囲網を抜けてくる算段か?そうなれば残された2人を俺達3人で詰めてぶっ殺すだけだが、空虚を使用した状態でルーは少しの間、その場にとどまっていた。
──ちっ!動きが読めねぇ……
逆にこっちも狙いがつけられない。向こうの動き次第でこちらの動きも変わってくる。ルーの空虚で俺達の背後を取ると見せかけて、俺達が詰めてこようとして来るのを待っているのか?
様々な思考が俺の脳内に駆け巡ると、その時敵のルーがようやく動き出した。やはり俺達の包囲網を突破し、坑道から出ようとしている。初心者ならば、ルーの動きに気を取られて背後にポジショニングされるのを嫌うが、俺のような手練れならここは冷静に人数の減ったところから攻め落とす。
ていうかそう仲間たちに指示をした。
しかし、空虚を使ったルーの動きを確認させることがそもそもの相手の狙いだったことに俺は気付かなかった。
プシュンと弾丸が命中する音と共に画面が一瞬赤く変色した。そして俺の操るキャラクターの両腕が前へと投げ出される。
俺はダウンした。
少しの気の緩み。シロナガックスというプレイヤーから少しでも気を反らすことによって俺は奴の持つ一撃必殺のスナイパーライフル、キャリバーの餌食となる。
「はぁ~~~!!!?構えてなかったやん。俺らが遠くにいる時からアサルトライフルで撃ってましたやん。普通気付かんやん。それが狙いだって」
俺がダウンしたことにより、一気に2v3となっただけでなく、俺の画面はダウンした自分の視界しか写さない。戦況がどうなってるのかわからない為、上手くオーダーができない。
そして思った。
──この戦闘シーン…また使われるやん……
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~一ノ瀬愛美視点~
『前だ!ひなみ!!前に逃げろ!!』
エドヴァルドさんの声が聞こえて、薙鬼流さんは前へ走った。
私はここぞという時にしか使わないと決め込んだ武器──皇さんのデスボックスから回収した──キャリバーに持ち変えて、敵のルブタンさんと思しきプレイヤーが薙鬼流さんの動きに一瞬視線を向けたところを撃ち抜いた。
そして薙鬼流さんの震える声が聞こえる。
『ヘイトはいつもみたいに私が買うんで!!皆さん今のうちにお願いします!!』
私とエドヴァルドさんはほぼ同時に返した。
『笑えないっつうの!!』
「笑えないです!!」
そして私は直ぐ様、戦況を伝える。
「前方の敵を1人ダウンさせました!前の残る2人は皆さんに任せます!!」
『了解!』
『了解!』
2人の返事を聞いた私は、息をゆっくりと吐き出して背後に集中する。
迫る炎の壁と3人の人影。
思ったよりも距離が近い。このまま私含め残るライフポイントの低い3人で前方へ進めば背後の新界さんチームに詰められ漁夫られる。流石に彼ら相手に回復もしないで連戦するのは厳しい。かといって逃がしてくれるほど甘いチームではない筈だ。
──それに……
悩み苦しんでいた薙鬼流さんが前を向き出したのだ。ここで水を差される訳にはいかない。彼女が苦しんでいたのは私も知っている。しかし私自身、何か助言できるような生き方や経験をしているわけではない。薙鬼流さんやエドヴァルドさんとは比べられない程小さな事で悩んでいるのだから。
──この大会が終わったら2人と肩を並べられるような生き方をしたい!!
だからせめてこの試合だけでも格好をつけさせてほしい。私はかつてない程の集中力で背後の敵3人の姿を見据えながら口ずさんだ。
「後ろは私に任せてください」
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~薙鬼流ひなみ視点~
私の行動は、本来空虚のみではなく、ワープゲートを開きながら行うべきだった。所謂攻めワープというよく知られた戦法の1つだ。しかし、今はそんな贅沢を言っていられない。寧ろあの状態から動けたことを誉めてやりたいくらいだ。
モノクロの世界から一変して坑道の薄暗い灯りと出口から差し込む陽光が私を迎えた。空虚の世界から現実に帰ってきたのだ。色のない世界から希望の光がさした。坑道にあるコンテナを通り過ぎた私は振り返り、目の前の敵2名に向かって武器を乱射した。
1人はコンテナに並ぶようにしてこちらにエイムを合わせており、もう1人はコンテナの前にいる。いずれも私の元いた場所からは姿を隠すことのできる位置である。
敵の2人が私に気を取られている隙にどうかあの2人には生き延びて欲しい。私はここで死ぬつもりだった。
見様見真似のレレレ撃ちをしているが、被弾しまくる。2人に狙われているのだから当然だ。だけど私は動くことを止めない。
──だって決めたんだ!!動けなくなるその日まで前に進み続けるって!!
しかしそんな想いとは裏腹にどんどんとライフが減っていく。画面はその都度赤く明滅し、死に向かっていくのを告げる。しかし次の瞬間、私を青いドームが包み込んだ。
そして私を何度も救ってくれた声が聞こえる。
『死なせねぇよ!!……』
その言葉で死にそうだった。
エド先輩はコンテナの上に立ち、私を守るようにシェルタードームを展開させてから近くにいた敵の1人クリムトを撃った。クリムトはスライディングをしながら動き回るがエド先輩はコンテナから飛び降りながら発砲し、見事クリムトを撃破すると、次に残る1人レヴェナントに照準を合わせて仕留めた。
この危機を脱し、安心した私は言葉に詰まる。
「ェ…エド先輩……ヒッグ……」
泣きそうな、いやもう泣いてる私にエド先輩は、まだ緊張の糸を切っていなかった。
『まだだ!!』
すると、シロさんの悔しがるような声が聞こえてきた。
『すみません…止めきれませんでした……』
私の画面左下にあるシロさんのライフがゼロとなり、新界さんの操るレインボーのグラビティが坑道から姿を見せた。




