第64話 アンチグラビティ
~織原朔真視点~
セカンドゲーム。現在、残存チーム数8。僕らキアロスクーロは少なくとも8位を獲れたということだ。
最終ラウンド。鳴り響く発砲音と迫る炎の壁、敵の使う何らかのアビリティエフェクトが僕らの画面を彩った。周りを囲む炎のカーテンが迫ってくる、最終的にはステージの全てが炎に包まれるラウンドに入った。
『ここに1人ハイドがいて、向こ──』
シロナガックスさんがピンを刺して知らせてくれたが、もう1つのピンはその前に僕が刺す。
「ここにもいます!」
僕のせいでシロナガックスさんの言葉がワンテンポ遅れてしまった。
『……なので、前の岩場まで行きたいんですけど薙鬼流さん?』
遮ってしまったことに謝罪をしたかったが、その謝罪がノイズになってしまう危険性があるため僕は黙る。
最終安地はシロナガックスさんの予想通り前の岩場辺りだ。
『はい!ワープゲートを使って、ここから向こうまで繋ぐんですね!?』
僕らは開始早々に陣取っていたバスを名残惜しくも捨てて、前の岩場に鞍替えする。シロナガックスさんが前もって岩場に向かってスキャンを焚き、敵が1人しかいないことがわかっていた。薙鬼流ひなみの使うルーのもう1つのアビリティ、ワープゲートを使って、バスから岩場までの遮蔽のない導線をノーダメージで直進したいのだ。
薙切流はスゥーっと息を吸ってから言った。
『ワープゲート開きます!』
彼女はバスの中からワープの入り口を作り、目標である岩影までのルートを作りながら外へ出ていく。彼女目掛けて、発砲してきた者達がいたが、僕とシロナガックスさんでバスの中から発砲し援護した。
無事、薙鬼流は目的の岩影に到達し、ワープゲートを開通させたが、直後彼女の悲鳴が聞こえる。
『きゃー!!い、います!!さっきスキャンで見つけた人がこっちに移動してきてま──』
彼女の声が途切れる。
「どうした!!?」
返事はない。僕の画面左下にある薙切流の防具耐久値が削られているのがわかった。僕は一向に言葉を発さないこのホテルの一室の一番奥にいる薙鬼流に首を回してどうしたのか訊きたかった。しかしここで画面から目を離せば、タイムロスになる。
「シロナガックスさん!!」
ワープゲートの出口の様子がどうなっているのかわからないが、僕は一か八かの賭けに出る。シロナガックスさんの名前を呼んで、僕はゲートに入るのだと意思表示をしたのだ。
『はい!!』
シロナガックスさんは僕の意を汲み取り、それに応えてくれた。僕は意を決してワープゲートに入った。ゲート内に入るとアーペックスの鮮やかな景色から色を抜いたような青白い世界となる。ストレンジャーシ○グスのような、もう一つの裏の世界。僕は薙鬼流の敷いたワープの流れに従い、出口へと押し出された。
青白い世界から元の色彩豊かな表の世界に出てきた僕だが、正面。距離にして15メートルに銃を構えた虹色のスタイリッシュな宇宙服を着たキャラクター、グラビティがいた。僕はすぐに悟った。
──あれは、新界雅人だ。
ワープゲートの隣には空虚──4秒間無敵のアビリティ、攻撃は勿論回復もできない──を使っている薙鬼流がただそこに立っていた。
練習配信でもあった薙鬼流の一種のパニック的な発作による空虚の使い方が百戦錬磨の新界雅人には奇異に写っていたのが功を奏していた。僕がワープゲートから出た瞬間、新界雅人は一瞬だけトリガーを引くのが遅かった。
それでも僕に1発命中させたのは流石としか言いようがない。しかし僕は、自分と薙鬼流、そしてワープゲートを守るようにして半透明の青白いドームを出現させ、追随して迫る銃弾を消滅させた。僕が使っているキャラクター、ゼブラルターのアビリティ、シェルタードームだ。
「ゲート前に新界さんがいます!ゲート付近にドームを張りました!直ぐに──」
直ぐに来てください、とシロナガックスさんに伝えようとしたが、既に僕の通ったワープゲートからシロナガックスさんが出てくる。しかし出てきた直後、新界さんがダークスターを僕が出したドームに2つ投げ付けてきた。
『ドームから出てください!!』
来て早々シロナガックスさんはそう言ってドームから出た。僕もその言葉に従い、ドームから出る。先にドームから出たシロナガックスさんは新界さんと撃ち合う。2人とも同じくらいのダメージを負ったことだろう。ドームから出た僕もシロナガックスさんに加勢して新界さんを撃った。
しかし新界さんはグラビティの持つアビリティ、アンチグラビティを設置して宙に浮き上がる。落下する敵にエイムを合わせることはアーペックスにおいてよくあることだが、宙へ浮く敵に対してエイムを下から上へ合わせるのはなかなかに難しい。
宙へ浮きながら僕達の攻撃を躱し、そして浮きながら攻撃を仕掛けてくる新界さんは、岩の中腹へ着地を決めようとする。その時、先程新界さんの放ったダークスターが爆発し、僕の出したドームが破壊される。そしてドーム内で固まっていた薙鬼流──無敵状態の切れた──に新界さんの放ったもう1つのダークスターが炸裂する。
ダウンをとられた薙鬼流を見てとった新界さんは岩場の中腹に着地する直前、グラビティのもう一つのアビリティを使う。ミニブラックホール──ミニブラックホールを中心に半径7メートル以内のモノ、全てを吸い込む効果がある──。無論、走ってそこから逃れることは可能だが、スライディング等の動きが制限される。ブラックホールに向かって銃弾を幾らか放てば破壊することも可能だ。
そのミニブラックホールが薙鬼流のいる場所に投げ込まれ、発動する。薙鬼流は勿論、僕もそれに向かって吸い寄せられる。それと同時に新界さんはグレネードを無造作に投げ込んだ。無造作に投げられたグレネードだが、ミニブラックホールの効果で吸い寄せられ、フリーズ状態の薙鬼流に向かう。
僕はその光景を見て手が止まる。
『新界さんを撃って!!』
シロナガックスさんの言葉に僕はハッとした。直ぐにミニブラックホールの範囲外へと出て、岩の中腹に着地をした新界さんにエイムを合わせた。
激しい撃ち合いの末、シロナガックスさんと新界さんはほぼ同時にダウンする。新界さんはダウンすると直ぐにデスボックスに変化した。つまり新界さんのチームは全滅したということだ。そして先程新界さんに投げられたグレネードが爆発して薙鬼流が殺られた。
僕は、ダウンしたシロナガックスさんを起こそうとするが、岩の頂上より飛んでくる銃弾によって遮られる。もうこのセカンドゲームも終盤。現在残存チーム数は4チームだ。
「私のことは起こさなくて良いです!ゼブラルターのアビ──」
シロナガックスさんの言葉を最後まで聞く前に、僕はゼブラルターのもう一つのアビリティ、ボンバーディメンションを使って、指定した位置に6秒間爆撃を落とす。指定場所は勿論岩の頂上。画面が揺れる程の激しい爆撃から逃れ、岩に沿ってこちらに向かって来る敵を僕は発見した。銃を構えるがしかし向かってきた敵は2名。1v2の撃ち合いとなり僕は倒された。
幸いにも3位。岩の中腹にハイドしていた1人を僕のアビリティにより撃破していたようだ。
『ナイスです!』
シロナガックスさんの称賛の言葉に僕は、反省の弁を述べる。
「すみません。あの新界さんの場面で僕が撃ち続けていればシロナガックスさんはダウンせずにすんでいたかもしれません……」
しかし僕は、その自分の言葉によって薙鬼流ひなみを無意識の内に責めていたことを悟った。彼女がいつものように動けていれば、シロナガックスさんをダウンさせずに、新界さんを撃ち破ることができたかもしれないからだ。
僕はしまったと思い、黙る。気まずい空気が流れるが、その空気を薙鬼流ひなみが破った。
『…すみません……私のせいです……』




