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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第55話 本当は弱い

~織原朔真視点~


「どこにいくつもり?」


 アーチェリー場で絡んできた金髪ギャル、松本美優さんが、鐘巻先生に注意された部屋着姿で僕を呼び止める。他には誰もいない。僕は首だけでなく身体全体を背後にいる彼女に向けた。


 ──どうする?ここで捕まって、大会に遅れるわけにはいかない。


「…そ、外の空気を、す、吸いに……」


 僕の言葉に彼女は少しだけ驚いた様子だった。


「喋れるんじゃないアンタ」


 アーチェリー場にはたくさんの人がいたから声が出なかった、と言ってもきっとこの人は理解してくれない。一対一なら喋れるんだ。それでも大分たどたどしいけれど。


 僕は沈黙し、背後にある外へ通ずるドアを背中で感じながらどうすべきかと思考を巡らしていた。すると、ギャルは舌打ちをして僕に告げる。


「…チッ、アンタはそうやって黙ってれば誰かが解決してくれると思ってるんでしょ?」


 そんなことは思っていない。黙っていればこんな風に誤解されることばかりだ。喋りたくても喋れない。彼女はそう言う人もいることを理解すべきだろう。しかし彼女のこの怒りは彼女が過去に黙っていたことで何かしらの後悔をしたことが原因なのかもしれない。それとも言いたいことを今まで言ってきたお陰で成功してきた経験があるのか?それが僕がいるせいでその成功体験が否定されていることに危機感を覚えているのか?いやそれは違うだろう。おそらく当てはまっているのは前者だ。


 彼女はまたも舌打ちをしてから口を開く。


「…チッ、もう良い。それより今日言ったこと、アンタが華多莉に何をしたか白状しなさい」


 音咲さんに聞いていたんじゃないのか?アーチェリー場で僕に『アンタが華多莉に何かしたの知ってるんだからね!!』と言ったことは嘘だったのか?そうか、彼女は音咲さんの様子がいつもと違うから僕にカマをかけたってわけか。僕は何故だかホッとした。


「…な、何も──」


 何もしてない、そう言おうとしたが彼女に遮られた。


「嘘つくな!華多莉は…いつもああやってアイドルを演じてるけど本当は……」


 僕は首を傾げて彼女の言葉を待った。


「…チッ、アンタが華多莉に何かしたに決まってんだ!」


 枕詞のように付く舌打ちは、今まで僕に向けられたものだったが今回は自分に対してのもモノだろう。彼女が僕を指差して糾弾したその時、一ノ瀬さんがやってきた。


「どうしたの!?」


 チッ、と今度は一ノ瀬さんに向かって舌打ちをした。ばつの悪くなった彼女は僕の前から去った。黙っていれば解決する。それはあながち間違っていないのではないかと僕は思う。


 一ノ瀬さんは学校指定のジャージを脱ぎ、元ぷろげ~ま~と白い文字で刻まれた黒のTシャツを着ている。これは万が一誰かにここを抜け出したことを見られても、すぐに学校の生徒であることを悟らせないためだろう。かくいう僕も学校指定のジャージを脱いでいる。


 そんな一ノ瀬さんが僕の元へやって来た。


「だ、大丈夫だった?」


 僕は首を立てに振ると、彼女と一緒に薙鬼流の待つホテルへ向かった。アーチェリー場へと向かった時に使用した電動キックボードに乗って。


 その道中僕は思った。あのギャルが言っていたことを。


『華多莉は…いつもああやってアイドルを演じてるけど本当は……』


 本当は弱い。きっとこう言いたかったのだ。僕は音咲さんが初めて自己紹介をした時や、先輩達に悪口を言われている場面を思い出した。どちらも拳を強く握り締め何かに耐えている様子だった。あれを僕は強さだと評価していたが、実際は弱さが溢れ出ないように必死に堪えていただけなのかもしれない。


 そして、キックボードの緩やかな速度によってもたらされた心地よい風を受けながら、僕はもう一人似た様な評価を下した女の子に想いを馳せる。これから一緒に戦う。同じチームの薙鬼流ひなみだ。



「せんぱ~い!!」


 ホテルに到着し、1505号室の玄関を開けると薙鬼流ひなみが抱きつきながら迎えてくれた。先程センチメンタルな感情を抱いた為に、複雑な気持ちになった。いつもならすぐに離れるように首を絞めるのだが、僕は戸惑うだけだった。


 そんな僕らを見かねた一ノ瀬さんが慌てるようにして言った。


「早く練習しましょう!」


 僕は薙鬼流の背後にある部屋の様子を見て驚いた。僕達生徒の泊まる部屋とは大分違って豪華な造りになっているからだ。


 僕はそのまま、廊下を抜けて左右に広がる部屋を見た。全体的にモノクロな造りになっており、薙鬼流ひなみがセッティングしたPC3台が部屋の内装とマッチしているように見えた。


「ありがとう、薙鬼流」


 僕がお礼を言うと、一ノ瀬さんも続いて言った。


「ありがとうございます」 


 薙鬼流は少し照れると、口を開いた。


「こ、こんなことしか役に立てないんで……ってそれよりも早く練習しましょう!!」


 各自PCを起動して、早速アーペックスを始めた。射撃訓練場にてマウス感度等の動作確認をする。僕と薙鬼流ひなみはLIVE2Dを起動させ、キャラクターと自分を同期させた。


 既に、運営である田中カナタさんより点呼が行われており僕らのチーム、キアロスクーロは最終でそれに応じた。前もってシロナガックスとエドヴァルドである僕が遅れることを連絡しておいて良かったと実感した。


 少しだけエイムの練習をした僕らだが直ぐに、運営よりコードが送られ、今大会に参加する者達のアカウント名が羅列された待機所へと画面が移行する。全20チーム、合計60人よる生き残りを賭けたゲームが行われる。


「配信の準備できました」


 一ノ瀬さんの声が聞こえる。彼女は僕の背後にある机に陣取り、僕は彼女の正面の壁に掛かったテレビの近くで配信を行う。薙鬼流ひなみは一ノ瀬さんの更に後ろ、ソファの前にある背の低いテーブルの上でパソコンを起動していた。


「こっちもできましたぁ~!」


 薙鬼流ひなみも準備完了のようだ。僕はスマホの画面を操作していつものルーティーン。ララさんのコメントを読んだ。いつもとは違う配信環境に、いつもとは違う大会の雰囲気、それに飲まれないよう祈りながらララさんのコメントに目を通し、心拍数を一定にした。そして言う。


「じゃあ行きますか!」


 僕はライブ配信を開始、という文字をクリックした。

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