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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第32話 炎上商法

~織原朔真視点~


 屋上で薙鬼流ひなみというVチューバーに不本意ながら身バレしてしまった。あの後すぐにチャイムが鳴ってしまい、僕はこれからどうしようかと悩みながら帰途につく。


『エド先輩!これから同じVチューバーとして宜しくお願いします♪また会いに行きますからね♡』


 そう言って彼女は片目を瞑ってウインクをしていたのを思い出す。ウインクと同時に彼女のトレードマークであるウサギの耳のようなリボンカチューシャの一つが折れて一礼したように見えた。


『ブルーナイツ』からデビューした薙鬼流ひなみというVチューバーを僕はもう一度調べ直した。炎上直後にはトレンドにも入っていたのを覚えている。同じ界隈で活動している僕にとってはチェックすべき事柄であった。


 SNSやまとめ動画からわかるように新学期と同時期に華々しくデビューを果たした薙鬼流ひなみだが、彼女はその前に僕と同じように個人勢Vチューバーとしてデビューしていた。それがバレてしまったようだ。所謂、前世バレだ。過去にただデビューしていただけならまだ良いのだが、彼女が個人勢Vチューバーを引退した理由に問題があった。


 当時人気だったスマホアプリのゲーム実況配信で、ゲーム内に出てくるキャラクターやその設定を貶めるような発言をして炎上したのが彼女の前世の引退理由だったのだ。


 人気ゲームの人気キャラクターを貶める発言は決して許されない。ましてや実況配信させて貰っている側が製作者さん達に恩を仇で返すような真似はしてはいけない。


 しかし、情状酌量の余地はあると僕は思っている。彼女の問題となった前世の動画を見たが、同じVチューバーとしては彼女が一生懸命、面白おかしい発言をしようと努力していたのがわかるからだ。


 配信を盛り上げようとしてしばしばいつもだったら言わないことをつい言ってしまう。神楽坂さん達とのコラボ配信の時、僕が音咲さんの話題に触れる発言をしてしまったように、それがよくないとわかっていてもついやってしまうものなのだ。


 攻撃的な言葉が面白い時と、嫌悪感を抱かせる時、それを見極めて発言しないといけない。てっきりそれが政治家や芸能人達だけの問題だと思っていたが、僕のような弱小Vチューバーも、いやSNSを使う全ての人にとっても、とても近しい問題となってしまったようだ。

 

 薙鬼流ひなみの前世の発言が再び問題視されると、それは瞬く間に広がった。『ブルーナイツ』は海外のリスナーも多いため、この炎上した内容が英語やら韓国語やらに翻訳されて世界中にしれ渡る。


 〉過去の発言を蒸し返す奴多くて草

 〉炎上する可能性を孕んでるってだけでかなりリスクあるだろ?

 〉犯罪者は犯罪者のまま

 〉他のブルメンに迷惑かけるのだけはやめろ

 〉運営は何してんの?なんで調べないの?

 〉どうせまた逃げるように引退する


 勿論、過去に起きたことなので薙鬼流ひなみを擁護する者もいたが、僕の目の前にいた僕より1つ年下の女の子にとって多くの人から叩かれれば精神的にかなりキツイ筈だ。

 

 ──僕なんて攻撃的な目ではなく他人の哀れむような目で声が出なくなってしまったというのに……


 しかし当の薙鬼流ひなみ、本名鶴見慶子は屋上であった時、そんな炎上をしているなんて微塵も感じられなかった。とても快活で元気だったのを覚えている。


 ──よくよく思い出してみれば、かなり可愛い女の子だったな……


 しかし僕は、電車の中で痴漢されている彼女のことも知っていた。俯いて人生に悲観している表情を僕は覚えている。屋上にいた彼女とはまるで別人だった。


 家に着きPCを起動させ、薙鬼流ひなみのチャンネルへと飛んだ。彼女のチャンネル登録者は52万人もいた。これは『ブルーナイツ』からデビューしたVチューバーで最も早くチャンネル登録者数50万人に到達したこととなる。


 この驚異的な早さはやはり炎上したからだろう。炎上した分注目度が上がったのだと予測される。僕は炎上というまさに火遊びのような、ギャンブル商法に目移りしてしまった。一瞬でこれだけの登録者が増えるのかとゴクリと唾を飲み込む。


 ふと時計を見ると、僕は慌てて彼女のチャンネルから田中カナタさんのチャンネルへと移動した。


 これから田中カナタさんのチャンネルによって田中さん主催のアーペックス大会に出場するVチューバーやストリーマーが発表されるのだ。


 そしてその参加メンバーがルーレットによりチームを組み分けられる。


 僕は一体、誰と組むことになるのだろうか。


 田中さんの配信画面にcoming soonの文字が脈打つように表示され始めた。それは僕の鼓動と同調し、期待と不安を募らせる。


 ──あ、そういえば昼休みから戻ってから音咲さんが何やら物凄い剣幕で僕を見ていたけれど、あれは一体なんだったんだろう……


 薙鬼流からの身バレにより音咲さんから身バレしてしまうのではないかという懸念をこの時の僕は忘れていた。

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