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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第31話 鶴の恩返し

~織原朔真視点~


 青い空に眩しい太陽。学校の屋上はいつも見慣れた景色を違う角度で見せてくれる。


「……」

「……」


 教室にいた僕に突然抱きついてきた女子生徒と僕は屋上でしばらく見つめ合う。抱き付く彼女を無理矢理引き剥がし、屋上まで連れてきたのだ。


 相対する彼女は、金髪を肩まで伸ばし、珠のように丸くて大きな目を僕に向けている。頭にはウサギの耳のような赤色のリボンカチューシャを着けていた。そのリボンカチューシャを僕はどこかで見た覚えがあった。


「それで貴方は誰?……とか聞いてくださいよせんぱ~い♡」


 僕は会話を促されるままに聞いた。


「だ、だれ?」


 その問いに満足したのか女子生徒、上履きの色が赤なのでおそらく1年生である後輩が、笑いながら口を開く。


「ふっふっふっ……何をかくそう私はあの時助けていただいた──」


「鶴?」


「そうです鶴です……って、んなわけないでしょっ!!本当に覚えてないんですか?」


 僕は頷くと、彼女はがっかりした表情になり、自己紹介を始めた。


「私は鶴見慶子」


 ──やっぱり鶴じゃん


「この前電車の中で痴漢されていた私を貴方が助けてくれました。その節は本当にありがとうございました」  

 

 僕は、あっと声を出して思い出す。


「思い出しました!?」


 僕は頷くと、それで?っといった表情を浮かべる。


「え?反応それだけ?」


 僕はうんと頷く。


「てか何で配信の時みたいに声だしてくれないんですか?」


「それは……身バレが恐いから……」


 彼女はそうか、といった具合の表情になるが、それと同時に僕は違和感を抱く。すんなりと会話に出てきた聞きなれない単語が彼女の薄ピンク色の唇から出てきたのだ。


 ──配信……


 その違和感が何か判明した瞬間。僕の全身を巡る血液が冷めていくのがわかった。


「ま、待って!配信?何言ってんの?僕が配信してるわけないじゃん」


「え?してるじゃないですか?Vチューバー、エドヴァルド・ブレイン。それが先輩でしょ?」

 

 どうしてそれを知っている?


 誤魔化すことはできない。鶴見慶子は何故だか僕の正体に気付いていた。


 ──どうする?ころ…す?


「ちょっと何恐いこと考えてるんですか?」


 彼女は僕の心を読んだかのように話す。


「…ど、どうして僕だってわかった?」


「そりゃあ私を助けてくれた王子様ですし……」


「僕は真面目に聞いてるんだ!」


「そんなに大声ださなくっても…王子様であることは事実だし……てか生で聞いたらめちゃくちゃイケボなんですけど……」


 彼女はいじけるようにして呟くが直ぐに悪戯好きの子供のような表情に変わる。


「だってV界隈ならエド先輩が今一番熱いじゃないですかぁ?」


 ──エド先輩?僕のことか……


「声聞いたら一発でわかりましたよ?」


「そんなわけないだろ?電車で一言発しただけで普通気付くか!?」

 

「私もVだから気付いたんですよ」


「え?」


薙鬼流なきるひなみって知ってますか?」


 僕はそのVチューバーを知っている。神楽坂さんと榊さんが言っていたVチューバーだ。大手事務所『ブルーナイツ』の新人Vチューバー。どこかで聞いたことのある声だと思ったが、僕はようやくそれに気が付いた。


「知ってる……炎上してた……新人Vチューバー……」


「ひど~い!!」


 僕は榊さんと神楽坂さんとコラボ配信を終えた後の彼等との会話を思い出す。


◆ ◆ ◆ ◆


『マジでめっちゃ楽しかった!』


 榊さんは配信中の少しだけ畏まった声ではなく、無邪気さを出した声で言った。おそらくオフの榊さんはもっとフレンドリーな性格なのではないかと僕は思った。


『そうそう!グラウンドカートも上手いしまたコラボしよーぜ!!』


 神楽坂さんは配信中とあまり変わらないテンションで僕に言った。


「あ、ありがとうございます!ずっと配信で見ていたお2人にそう言っていただけるなんて、とても嬉しいです!!」


 嘘ではない。そんな言葉、オフラインで会ったらきっと言えない。今は配信中ではないが、面と向かって会うよりもオンラインなら本音で語れる気がしていた。


『ずっと見てたんだ!?なんだ、今のはコラボ中に言ってほしかったんだけど!?』 


 神楽坂さんがそう言うと、僕は謝罪した。


「す、すみません!」


『じゃあ今度のコラボ配信で言ってよ♪︎今度って言ってもいつになるか……あぁ、今度開催されるアペの大会出る?』

 

 アーペックスは時々アペと略されることがある。


「アペの大会?」


『そう!うちのナカタが企画してるやつ!』


「ナカタ?」


『あっ!田中カナタのことだよ!』

『わかりづらいだろ!』 


 神楽坂さんに榊さんがつっこむ。田中カナタとは神楽坂さん達と同じ『ラバラブ』に所属するVチューバーだ。


「田中さん、そう呼ばれてるんですね……ていうかそのアペの大会全く知りませんでした」


『あれ?まだアイツ送ってないのかな?確かリストにエドの名前があったから、連絡くると思うよ』


「えっ、今確認してみます……」


 僕はDMや仕事用に設けてあるメールを確認した。『はじめまして、田中カナタと申します』という件名がついたメールがきているのを確認した。


「あ、本当だ。きてる」


『出る?』


 神楽坂さんの質問に榊さんが再度つっこむ。


『いや、断りづらいだろ!日程とか仕事とかあんだから──』


 僕は榊さんに被せるようにして言った。   


「いや、その日は特に何も予定がないので参加しますよ」


『っしゃあ~!!』

『マジ!?』


 2人が喜びの声をあげる。僕はそれだけで嬉しくなった。僕が参加するだけで喜んでくれる人がいる。エドヴァルドではなく織原朔真の僕なら絶対に有り得ないことだろう。

 

 めちゃくちゃ嬉しいんだけど、と前置きを入れて神楽坂さんは言った。


『その、アペの大会はちょっとキツイ部分があるから気を付けろよ?』


 陽気な神楽坂さんにしては少し重めな口調で僕に告げる。


「キツイ部分?」


 ん~確かに、と同意する榊さんを尻目に神楽坂さんは説明する。


『例えば、大会出場者は皆がその大会に向けて練習配信をしたりするんだけど、自分だけ違うゲーム配信とかしてるとリスナーからなんで練習しないんですか?とか訊かれたり、足を引っ張るプレイングすると直接暴言吐かれたりとか、それに……』


「それに?」


『今回参加する人で1人だけ現在進行形で炎上してるVチューバーがいて、その子と組むとなると……ちょっと、難しいのよ』


 確かにそうだ。炎上していることをいじってもいいのか、それともそれに触れるとよくないのか。或いは自分に飛び火するか。


『それにその子まだデビューして間もないからさ、どんな感じで接して良いのかまだわかんないし……』


「え、何て言う子ですか?」


『ブルーナイツの薙鬼流ひなみっていう子』


◆ ◆ ◆ ◆

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