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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第23話 ジョン・ハンター

~音咲華多莉視点~


 昨日のエドヴァルド様のコラボ配信で、とうとう彼がメジャーデビューを果たしたのだと私は思った。今までがインディーズなのかといえば違う気もするが、大手事務所『LIVER・A・LIVE』通称『ラバラブ』に所属するVチューバー2人の配信に出たのだからそう言っても差し障りないだろう。


 私がエドヴァルド様が好きだからと言って、他の男性ライバーも好きだということではない。しかし彼がどういう道を辿れば有名になるのか、どういうVチューバーが今後彼の前に立ちはだかるのか色々と調べたことならあった。


 その内の2人が榊くんと神楽坂くんだ。特に神楽坂くんとは一緒にコラボ配信をすればもっとエドヴァルド様が有名になるのではないかと思った内の1人だ。


 昨日の配信は私が思い描いたまさに理想のコラボとなった。同接数も悪くなかった。内容も申し分ない。朝になると切り抜き動画が幾つも上げられている。

 

 自分の推しが有名になっていく様を観て、私も当てられた。


 ──私ももっと有名になってお父さんに認めてもらうんだ!!


 そう意気込んだ私は、目の前にあるミッションに挑む。それは現在私の隣に座っている織原朔真に謝罪することだ。昨日は感謝しかできていない。


 ──途中で先生達が乱入して、あんなことに……


 昨日の体育館裏でのあんなことを思い出した私は顔を少し赤らめた。


 そんな時、織原と目があった。

 

 ──ぁ…ぇと……謝らなきゃ!!


 私は唇をムズムズと動かしたが声はおろか口を開くことすらできなかった。他者に謝る。それは多くの現場、収録の際にやってきたことだ。しかしそれはアイドルとしての私が謝るのだ。ララになった時は謝るようなことをまずしないし。つまり、等身大の自分、だらしなくてプライドの高い本当の自分が謝罪をするのだ。なかなかできないのは当然なのかもしれない。


 ──そ、そうだ!周りに人がいるから、こんな状況で謝るのは変だよね!?だとしたらまた体育館裏に呼び出して……


 また先送りにしていることに自分を卑下しそうになるが、私のこの考えには少しだけ正当性がある。しかしその時美優が私と織原の間に入って声を発する。


「何見てんだよ陰キャ!!」


 私は心の中で嘆いた。


 ──あぁぁぁぁ!!!謝りづらくなるからやめてぇぇぇ!!!


 美優と茉優は私を守ろうとしている。決して悪い子達ではないのだけれど、もしかしたら私を守ろうとするせいで敵を作ってしまう恐れもあるのではないかとも思った。

 

 私は肩を落とすと、美優と茉優の間から織原朔真が机に突っ伏すのが見えた。


 始業のチャイムが鳴り、1時間目の日本史の授業が始まる。


 教壇に立つ先生が喋っているのに、織原はまだ机に突っ伏したままだ。


 ──寝てるのかな?


『謝るのは早ければ早いほど良い』


 エドヴァルド様の言葉が頭に過ると、私は行動に移す決心をした。


 私はまた体育館裏に呼び出そうと手紙を書こうとしたがしかし、昨日の一件で自分の筆跡を残す手紙はよくない手段なのではないかと思った。


 ──だとしたら……あ!!


 私は閃いた。この前のイタコ探偵の撮影で怪文書を読むシーンを思い出す。


 怪文書に記されている文字は定規を使って誰が書いたモノなのかわからないようになっていた。直線が多く、曲線が少ないカタカナで書かれてたっけ?


 よし!と私は意気込むと、ペンケースから定規を取り出して文字を記す。


『ゴメンナサイ』


 ──できた!!なんだか犯行予告みたいな雰囲気だけどきっとこれで伝わる!!


 私は謝罪を記した紙を綺麗に折り畳み、机に突っ伏したまま寝ている織原朔真に向かって投げた。


 見事彼の頭部に命中する。


 彼は起き上がり、授業が既に始まっていることに少しだけ驚いて、私の投げた手紙を手にした。こちらに視線を向けてきたので、私はドキドキし始める。まるでエドヴァルド様の配信にコメントをするようなドキドキだった。失礼に当たらないように、言葉を選びながら書くコメント。手紙を開くよう──授業中なので──声を出さないように口の形だけで伝える。


『ひ・ら・い・て』


 伝わったのか彼は手紙を丁寧な手付きで開いた。


 ──こ、これでミッション達成だ……


 しかし私の予想を裏切るように彼は私に向かって首を傾げ始めた。


 血の気が引いていくような感覚に陥る。


 ──もしかしてコイツ、私が何に対して謝ってるかわかってない!?


 織原は手紙を私に向かって開き、指差してもう一度首を傾げる。


 ──はぁ!?私がこんなに苦心してるっていうのにコイツはぁぁぁぁ!!?


 私は自分の机に向き直り、定規を使ってまた文字を書いた。


『ホテルノケン』


 書き終えた私は、その内容を客観的に見るとヤバい気がしてきた。


 ──なんかいかがわしさが際立つ……


 もしこれを投げるところを日本史の先生に見られて、皆の前で読み上げられたら私はパパ活をしてるんじゃないかと疑われるかもしれない。


 私は『ホテルノケン』と書かれた手紙をその場で開いて織原朔真に読ませようとしたがその瞬間、教室の電気が落とされる。


「えぇ~、今から杉田玄白についてよくまとめられた動画を流すから、電気消すよ~」


 先生のその言葉に生徒達は色めき立つ。


「おい!寝るんじゃないぞ!既に寝てる奴もいるから起こしてね~!全員起きたら動画を流すよ~~!!」


 生徒達は寝ている者を起こす。その間に日本史の先生は動画の説明をする。


「杉田玄白はターヘル・アナトミアという……あぁ、杉田玄白で思い出したけどその時世界ではジョン・ハンターっていう面白い医者がいて……」

 

 話がよく脱線するのがこの先生、宮台先生の特徴だが、そんな悠長なことを思っている暇はない。


 ──織原朔真にちゃんと説明しないと……


 電気を消され手紙を封じられた。残るはジェスチャーしかない。

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