第20話 緊張して
~織原朔真視点~
榊さんと神楽坂さんとのコラボ中、僕の心臓が音を立てて鳴っているのがわかった。榊さんも神楽坂さんも100万人を超える男性Vチューバーだ。初のコラボ相手がこのようなビッグネームなら緊張していてもおかしくない。緊張しているのもそうだが、よりにもよって何故音咲さんのキャッチフレーズを使ってしまったのか、その驚きと戸惑いによって僕は混乱していた。
今日音咲さんに体育館裏で助けられたことや緊張を紛らわそうとコラボ配信前にララさんのコメントを読んだことにより、音咲さんのことがどうしても頭の中に残っていたようだ。
気を付けなければならないとわかっていたが、やはり僕はこのコラボ配信にどう足掻いても緊張していたのだ。本番はどうしても場を盛り上げ、間を持たせようとしていらぬことを口走ってしまう。しばしば配信で炎上してしまうのはこういった緊張から来るのではないかと僕は悟る。
──音咲さん、この配信聴いてるのかな……
リスナーさんからの質問に答えていった僕だが、上手く話せているのかわからない。
『週末のアーペックスの耐久配信でプロ並の実力を持つシロナガックスさんとマッチングしましたが、あの時の気持ちなどを教えてください、とのことですが……僕もあの配信の切り抜き見ましたよ!』
榊さんはそう言った。僕はドキリとする。
「え、ちょっと炎上したの知ってます?」
榊さんは言いづらそうにしながら述べた。
『…え、えぇまぁ……』
『え?どういうこと?』
反対に神楽坂さんはその一件について知らないようだったので僕は説明した。
『──そんなことがあったんすね!?』
僕は神楽坂さんの相づちに間髪いれずに答えた。
「そうなんですけど、僕もシロナガックスさんも全くそんなこと思ってなくて、あのあとSNSで釈明というか誤解を2人で解いたって感じです」
それはよかったと神楽坂さんが言うと、進行の榊さんが次なる企画を銘打つ。そう、榊さん達とグラウンドカートをする時間となったのだ。
グラウンドカートとは子供から大人まで楽しめるレーシングゲームだ。僕もよくこのゲームの配信をしている。榊さんと神楽坂さんは所属する『ラバラブ』が主催するグラウンドカートラバラブ杯なるモノを企画して、Vチューバー業界とグラウンドカート界を盛り上げていた。
ラバラブ杯は同接にして15万人程の人が視聴している大会だ。年に一回催されるその大会は毎年視聴者数が増加していて、注目度も高い。僕もその大会を見て、いつしか自分もVチューバー達の集まるグラウンドカート杯に出てみたいものだと思ったものだ。
そして今、過去のラバラブ杯で1位と3位を獲ったことのある榊さんと神楽坂さんとグラウンドカートをしようとしている。
『え~と部屋たてますね』
榊さんから送られてきた12桁の部屋番号を入力して、榊さんと神楽坂さんの待機する場所まで移動した。
僕が部屋に入ったを機に神楽坂さんが口を開いた。
『視聴者参加型の配信なんで、参加されたい方はこの番号を記憶してください。一瞬しか見せないんで、いきますよぉ……』
『いや、ちゃんと見せないと皆わかんないでしょ!もしよかったら皆さん参加してください!……あと、参加された方は一回交代でお願いします!』
『お願いしま~す』
「宜しくお願いします!」
つっこまれた神楽坂さんに習って僕も挨拶をした。続々と僕らの部屋にリスナーの皆さんが集まってきた。
さて、グラウンドカートは最大12人でやるレーシングゲームだ。キャラクターがマシンに股がり、或いは乗り込み、コースを駆け回る。コース上には加速や対戦相手を邪魔するアイテムが散りばめられており、例えコーナリングをミスしたりコース外へ落下してしまい下位に落ちてしまっても、そのアイテムを上手く駆使すれば巻き返すことのできるゲームとなっている。
視聴者さんが集まり、コース選択画面となった。
このコラボ配信で僕が成すべきことは、自分の腕前と邪魔された時のリアクションを盛大なものにすることだ。グラウンドカートは別の動画投稿サイト、ニカニカ動画でも人気を博しており、ニカニカ動画で活動している配信者にもアピールできる筈だ。
そうと決まればどのレースも上位に食い込む必要がある。
カウントダウンに伴ってコース選択画面が終了し、いよいよレース開始となる。
僕のマシンはこのゲームで最も使用者の多い黄色いバギーだ。初級者から上級者まで利用するこのバギーは性能も含めて操作しやすい。スタート地点に集まった僕や榊さんとリスナーさん達数人がこのバギーにまたがっている。
レースの開始を告げるキャラクターが現れると、画面中央に3の数字が出現し、次に2。
『はい!ここぉ!!』
神楽坂さんが叫んだ。
それはスタートダッシュと呼ばれる技で、勿論僕もそのタイミングでアクセルを踏んでいた。
1、go!!!
12人のプレイヤーが一斉にスタートした。




