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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第19話 コラボ配信

~音咲華多莉視点~


 ボイストレーニングを終えた私は、ホテルの自室に帰ってきた。あのあと結局、織原朔真に謝罪できないでいた。


 私は織原朔真ではない清掃員さんがメイキングした皺1つないベッドに横たわる。大きめの枕を抱えると、今日の出来事がフラッシュバックした。


 樹の裏で織原と身を寄せあって隠れていた映像と感触が過る。体育館裏のジメジメとした、土の匂いが強い空間。先生達にバレないかとドキドキしたあの一時。


 私は思わず枕を強く抱き締める。


 ──あぁ、明日ちゃんと謝れるかな?ホテルの仕事についても伝えなきゃ……アイツの前ではどうも調子が狂う……


 私は明日の目標を掲げると、デスクに置いたスマートフォンを横になりながら手探りで取ると、とある配信を見た。


 画面には『準備中~』という文字が右から左へとゆっくり流れていく。ポップなBGMが申し訳程度に流れていた。その間に最近お気に入りの胡桃(くるみ)のお菓子をつまむ。すると画面は、水溜まりの上に一粒の雫が落ちたように波紋が広がり始め『あ、あ、あ~』とマイクが入っているかを確かめるような声が聞こえる。


榊恭平(さかききょうへい)と!』

神楽坂詩音(かぐらざかしおん)の!』


『『平音(へいおん)ラジオ~!!』』


 ポップなBGMからこの2人の男性Vチューバーが歌うオリジナルソングへと移行した。


 あ、よいしょ!!との掛け声と共に乾いた拍手で変に場を盛り上げる、束感豊かな金髪の神楽坂詩音の声を私は聞いた。


 今日は『ラバラブ』に所属する2人の男性Vチューバーのやっている配信にエドヴァルド様がゲスト出演するのだ。因みに2人はチャンネル登録者数100万人を超えた男性Vチューバーだ。


『え~毎週やっておりますこの平音ラジオでは素敵なゲストをお呼びしてリスナーさんからの質問に答えて頂いたり、ゲーム等をしておもしろおかしく、え~そして楽しくですね、リスナーの皆さんと過ごすラジオとなっております』


 進行役の淡い紫色の髪をした榊恭平というVチューバーの優しい声が響く。



『ラジオなのに、ゲームをするってね……』


 少し自虐的に神楽坂というVチューバーが合いの手を入れた。


『なんですか?ケチつけるんですか?』


 榊君が喧嘩越しで尋ねる。


『まぁただのコラボによるゲーム実況だけだと、ゲストの方を深く掘り下げられなかったりするからね』


『そうそう!ゲームだとその時の流れとかで話が中断したりしますから!…それではゲストをお呼びしましょう!今、女性ライバーと女性リスナーの間で話題になっているこの方!エドヴァルド・ブレインさんで~す!!』


 よっ!とまたも神楽坂君が盛り上げる。そして愛しのエドヴァルド様の声が聞こえた。


『どうも~、いつもみんなに~……ぇ~エドヴァルド・ブレインです!!』


 歯切れの悪い自己紹介をしたエドヴァルド様に私は笑った。そして、すかさずその歯切れの悪さにツッコミを入れる2人。


『え!?どうしたんですか!?』

『そんなんやってたっけ!?』


 私は笑った。エドヴァルド様が続けて言う。


『いや~なんかキャラがまだ定まってないというか、何かこうキャッチフレーズ的なヤツをつけたかったんですけど失敗しました』


『いや無理につけようとしなくてもいいと思いますよ?』


『でもその気持ちはわかるな~。一種のリズムネタみたいな感じでさ、ファンに覚えやすくしてるんでしょ?たぶんアイドルの方達がその起源なんじゃね?』


 アイドルか~、とエドヴァルド様が呟くとその次の言葉に私の胸が盛大に高鳴った。


『酷い言葉なんて吐きません♪皆のエドちゃん!エドヴァルド・ブレインです!!』


 私のキャッチフレーズを言った。


 ──え!!!!?


 私は寝転がっていた姿勢から正座をして画面に穴が空くかっつうくらい画面を凝視する。


 ──私の推しが私のキャッチフレーズを引用した!!!!


 正座しながら天井を仰ぎ悶絶する私をよそに司会の2人がつっこむ。


『それ椎名町のかたりんのやつ!!』

『エドちゃんって!2時50分的な!?』


『…ちょっとやってみようかなって……もしかして炎上しますかね?』


『…たぶん大丈夫だと思いますけど……』


『でもなんでかたりんの口上に、酷い言葉ってフレーズが入ってんのかな?』


『そこ掘り下げんのかよ!?』


 私の話題になっていることに驚きと歓喜が脳内に渦巻く。


 ──え?嘘!?どうして!?エドヴァルド様はなんで私の口上を知ってるの!?


 するとエドヴァルド様が言った。


『たぶん、ナポリ民謡にカタリ・カタリっていう唄があってその歌詞に、どうして酷い言葉を言うのですか?みたいなフレーズがあったと思うんですよね……』


 ──なんでそんなことも知ってるの!?もしかして、エドヴァルド様……私のこと……


『え?それ本当ですか?ちょっと調べてみますね』


 キーボードを弾く軽快な音が聞こえた後にその音を出した榊君が声を出す。


『本当だ!!wikiに書いてありますね!ぇ、エドヴァルドさんてかたりんのファンなんですか?』


 ──私のファンなのですか!!?


 私は全神経を耳に集中させた。


『いや…と、特別にファンと言うわけではないんですけど。む、昔ボイトレに通っていた時にこの唄を歌ったことがあって……』


『あ~やっぱりボイトレ通ってたんですね。そのイケボが天然にできるわけないと思ってましたよ』


 特別にファンではないと聞いて少しガッカリした。


 ──そ、そうだよね……そんな都合の良いことそう起きないよね……


 それよりもエドヴァルド様の新情報に驚いた。いや納得した。さっそく私の脳内にあるエドヴァルド様メモに新しい情報「ボイトレに通っていた」を書き込む。そして私は期待した。


 私の期待を予期したのか神楽坂君が発言する。


『ボイトレってことはやっぱり歌をやりたくて習ったんすか?エドヴァルドさんて歌枠今までやってないっすよね?今後やる予定ありますぅ?』


『いや、歌をやりたいっていうよりは…その……』


 エドヴァルド様が言い淀む。MCの2人はエドヴァルド様の続きの言葉を待った。


『ちょっと重い話をしても良いですか?』


『良いですよ』

『どうぞ』


 囃し立てていたMCの2人は、少しだけ声のトーンを落とした。


『一時期ストレスで声が出なくなった事がありまして、それを治すためにボイトレに通っていたんですよ』


 今まで浮かれていた自分の気持ちを一旦落ち着かせる。


 ──エドヴァルド様にそんな過去があったなんて……


 私は彼の初期の配信を思い出した。なるほど、彼の苦労があの発言に繋がったのだろうと納得する。私を勇気づけてくれたあの言葉。


『へぇ~そのぉ…ボイトレで声が出るようになるんですか?ストレスってことは心の問題のような気がするんですが……』


 感傷に浸っている私だが、榊君が質問した。話しはどんどん先へ進んでいく。


『まぁ、ボイトレっていうか結構カウンセリングに近くて、歌の先生が声のでない僕に首を横か縦に振るだけで答えられるような質問を投げ掛けたり、腹式呼吸を使って喉の声帯が自然に振るえるような状況にするレッスンをしてました。僕の場合、発声する瞬間肩や首、あとは喉に力が入ってしまって上手く声が出ないって言われてて、とりあえずリラックスすること重視で教わってきました』


 私もボイトレには通っている。今日も学校が終わるとボイトレをしに行った。私の場合、腹式呼吸はそこまで重要ではないと教わっていた。しかし私の好きなエドヴァルド様の声が腹式呼吸から来るものなのではないかと思い始めた。


 神楽坂君が納得したように言う。


『なるほど!その声の良さにはちゃんとした理由があったんすね!俺も昔、芝居とかやってて腹式呼吸を習ったことがあるんすけど、いまいちピンと来なくて……あれってやっぱり難しいっすよね?』


『そうなんですよね。腹式呼吸って自分ではこれでいいの?みたいな感じで、ちゃんと出来てるかどうかわからないんですよ。先生の言うことを聞くしかなくて』


『それって信頼できる先生じゃないとヤバいってことっすよね?』


『運しだいだと思いますね。でもこうやってお2人とお話ができるまでになったので、ちゃんとした先生だったんだと思います』


 神楽坂君と榊君は謙遜由来の照れ笑いをした。


『え~ここまでパ~っと喋ってきましたが、実はですねリスナーさんから来ていた質問と被る内容がいくつかあったのでそれらは割愛させて頂きます。それではこれからリスナーさんからの他の質問読んでいきますね!その後はエドヴァルドさんと一緒にレーシーングゲームのグラウンドカートをやっていきたいと思います!!』 


『はい、それではリスナーさんからの質問を読ませて頂きやす』


 どうぞ、と榊君が相槌を打つ。


『平音のお二人、エドヴァルドさん、こんばんは』


 神楽坂君がリスナーからのお便りを読む。


『こんばんは~』

『今晩は!』 


『私は友達と喧嘩をした時に、中々自分から謝ることができません。お三方は自分に非がある場合の喧嘩をした場合、どのようにして相手に謝罪をしますか?ということですが、榊はどんな感じ?』


 私は自分の知りたいことを視聴者が質問していて驚いた。これは織原に謝るための良い勉強になりそうだ。私は集中して3人の声に耳を澄ます。


『いや、どんな感じ?って言われても詩音より謝罪すること少ないからな』


『は!?ふざけんなよ』


『やっぱり、神楽坂さんの方がやらかしてる印象ありますからね』


『おい!?やんのか、エド?』


 まぁまぁと榊君が諌めながら尋ねる。


『どんな感じで謝るのか、謝罪の達人として教えてくれませんか?』


『達人ってマジで、お前覚えとけよ?……ん~基本的に自分が悪いって思ったらタイミングはいつでも良いっていうか、あの時こう言ったけどゴメンみたいな感じで謝ればいんじゃね?』


『じゃああの時、反省文書いた時もそんな感じだったのww?』


『え?なんすか反省文って?』


『お前さw良くないよそういうの』


『ちょっとエドヴァルドさんにも教えてあげなよ』


『知りたいです。ラバラブってやらかしたら反省文書くシステムでもあるんですか?今後、ラバラブに入りたいって人の為にもここで教えてほしいです』


 神楽坂君は言葉を選びながら説明する。


『…あの……昔のラバラブってその、なんていうか学校みたいな体質があって』


『そうそうそうwwwww僕、謝られたもん詩音に、何にもされてないのにwwww』


『マジで只の恥辱以外の何物でもない仕打ち。もう一回同じことやれって言われたら辞めてたわ!てかエドはどうなんだよ?』


『…自分は、神楽坂さんと同じで、謝る意志があればいつだって良いと思いますよ?だけど早ければ早いほど良いかな?謝り辛くなるし、喧嘩した相手にも悪いしで……』


 ──早ければ早いほど良い、か……


 私は横になって3人の配信を見続けた。

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[一言] 全く同じ話、にじで聞いたな
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