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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第14話 握手会

~織原朔真視点~


 授業が始まり、2時間目・3時間目と過ぎていった。音咲さんからのプレッシャーを今日はよく感じる。きっと僕にホテルの件について何か言いたいのだろう。


 ──クビにされることはない筈だ……


 音咲さんのお父さんとは少しだけ知った仲だが、社長と従業員の関係性から抜け出す程ではない。つまり、クビにならないとは言い切れないのだ。それでもそうはならないと思っていなければ心が持たなかった。


 4時間目の英語の授業が始まって少ししてから僕に向かって手紙が投げられた。


『昼休みに体育館裏まで来てください。またこの手紙は私の目の前で燃やすこと』


 敬語なのが逆に怖い。

 

 僕は手紙を読み終えると音咲さんの方を向いた。彼女と目があった僕は了承の意を伝えるために頷く。彼女の大きな目がそれに応えてくれた気がした。


 もしクビを言い渡されたらどうしようか。


 ──その時は僕がエドヴァルドであることをカミングアウトして……ってムリムリ!!


 僕の声とエドヴァルドの声を認識できる人は極限られている。声というのはわかる人にはわかるが、わからない人、というか声や音にたいして意識してない人は本当に何も気付かない。目に見えないモノだから、その人の価値観や世界観によって左右されてしまうのだ。


 しかし音咲さんはエドヴァルドの最古参のファンであるララさんだ。もしかしたら僕がエドヴァルドだって言えば信じてくれるかもしれない。


 僕は想像した。


◇ ◇ ◇ ◇


「あんたクビだから」


「待てよ、俺に何の恨みがあってだな……」


「…え?その声ってもしかして……」


「わかるだろ?今まで応援してくれてありがとな、ララ」 


「え……か、華多莉って呼んでください……エドヴァルド様……」


「華多莉、良い子だからあんまり俺を困らせるなよ」


「は、はい。エドヴァルド様……結婚してください」


◇ ◇ ◇ ◇


 僕はララさん改め音咲さんの肩を組んで歩くのを想像し……


 ──無理だ…想像できない……  


─────────────────────


~音咲華多莉視点~


 私は一足先に体育館裏で待っている。


 手紙を書く時には、あまり高圧的にならないように心掛けた。


 ──来てくださいの方が良かったよね?来いとかだと偉そうだし、来てね♡だと軽いし……うん!絶対来てくださいで良かったはず!!


 雑草を踏み締める足音が聞こえてくると織原朔真は姿を現した。


 ──来たわね、織原朔真!!


 しかし彼の姿を見るとどうしてもアイドルとしての音咲華多莉でいられない。今までたくさんの私を演じてきたのだけれど、つんけんした嫌な私が出てきてしまう。


「…て、手紙は持ってきたんでしょうね?」 


 彼は私の書いた手紙を出して怯えたような声で言った。


「…は、はぃ……」


 どうしていつもおどおどしたような声なのだろうか?と私は疑問に思ったが、支配人の白州がその理由をこの前言っていたのを思い出す。私は湧いてきた疑問を打ち消して、うちのホテルのマッチを取り出し、織原に渡した。


 それで火をつけるように促す。


 以前テレビで坂本龍馬が誰かに宛てた手紙が重要文化財?とかになっていたのを見た気がする。それにマイケル・ジャクソンの手紙も高値で取引されていたことも私は知っていた。


 ──私が男の子を体育館裏に呼ぶ手紙なんかプレミアがつく可能性が……それにこの手紙が発端で炎上するかもしれないし…… 


 用心にこしたことはない。


 織原はマッチを擦り、手紙に火をつけた。手紙に火が燃え移ると火は大きくなり、紙との境目は黒ずむ。軈て直線に折られた紙はくるりとその身を歪めて火に包まれていった。昼間の陽光に照らされる火を眺めて、私は証拠が燃え尽きて安心した。火事にならないように私はvossと描かれたペットボトルを取り出して中の水を火元にかけた。


 消火を終えるといよいよ本題だ。


 ──感謝と謝罪!!まずは時系列的に感謝からしなきゃ……


 私は黒ずんだ手紙の燃えカスをじっと見つめる織原朔真に話し掛ける。


「…あ、あの!」


 織原朔真は私を見た。言葉が出てこない。


 ──あの時は助けてくれてありがとう!って言うだけなのに……


 いつもだったら何も意識せずに感謝を告げられるのだが、今はなんだかとっても恥ずかしい、というか感謝しづらい雰囲気というか、そんな気持ちが私の内部でごちゃ混ぜとなる。


 ──ステージの上とか握手会でなら簡単に感謝を告げられるのに……あ!そうだ!握手会!!


 私は思い付いた。


「手!手ぇ出して!!」


 織原朔真は珍妙なものを見るような表情で手を差し出す。


 私はその手を握った。いつもの握手会と同じように。


 ──よし!これで……


 彼の手を握った時、まず始めに思い浮かんだのは、この手で私をトラックから助けてくれたのだという想いだった。高鳴る鼓動に想いを乗せれば、


 ──自然に言えそう……


 私は感謝を告げようと織原朔真を見た。しかし彼は顔を赤くして俯いている。織原朔真の体温が手から伝わり、私の体温と調和していくのがわかった。すると私はこの状況に違和感を抱く。体育館裏で、男子と握手をする。いや、手を繋ぐ。私は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


 ──ダメだろこんなの!!


 直ぐに手を振りほどき、恥ずかしさのあまり後ろを振り向く。


 そして私は青い空と無機質な塀、乱雑に伸びきった雑草に向かって言う。


「ありがとう」


「へ?」


 呆けた言葉が織原朔真の口から出た。私は彼に向き直る。


「言ったからね!助けてくれてありがとうって!!でも勘違いしないでよね!私の胸を触ったことは許さないんだから!!」


 そう言い切ると私は次の言葉に詰まる。


 ──あぁ!!このあと謝んなきゃいけないのに!!私ったら謝りづらい状況に……


 その時、体育館裏に向かって誰かがやって来る足音が聞こえた。足音からして2人だとわかる。


 私と織原朔真はその足音を聞き付けると次に、話し声を耳にする。


「体育館裏から煙が出ているようで……」


 私と織原朔真はお互い顔を見合わせて、この状況がよくないことに陥っていると察し合う。


 慌てた私達は、大きく聳え立つ樹の裏へと身を寄せあって隠れた。

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