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第133話 勝敗の行方

~田中カナタ視点~


「ま、まさかの全員オールインによるショーダウン!!バカゲームと化してしまったぁぁぁ!!!」


 詩音が横で独りごちる。


「俺もあの場でオールインしたかったな……」


   パウラ  霧声   カミカ 

    ♣️Q   ♥️K   ♦️A

    ♠️6   ♦️9   ♣️8


   

     ♣️A ♠️7 ♦️10


   エドヴァルド   積飛

    ♦️J      ♣️9

    ♥️7      ♦️8


「カミカさんが強い!次にエド君か!?獏もストレートのチャンスだ!!」


 向こうの卓では悲鳴と期待の声で埋め尽くされていた。


『きゃぁぁぁ!!!』

『こい!!こい!!』

『来てぇぇぇぇ!!』

『ひぃぃぃぃぃ!!』

『あぁぁぁぁぁ!!』


 〉うぉぉぉぉぉ!!

 〉ひぇっ!!

 〉熱すぎる!!


    パウラ  霧声   カミカ 

    ♣️Q   ♥️K   ♦️A

    ♠️6   ♦️9   ♣️8


   

    ♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q


   エドヴァルド   積飛

    ♦️J      ♣️9

    ♥️7      ♦️8


「パウラちゃんがヒットした!!最後のカードは!!?勝敗の行方はどうなる!!?」

 

   パウラ  霧声   カミカ 

    ♣️Q   ♥️K   ♦️A

    ♠️6   ♦️9   ♣️8

   

   ♣️A ♠️7 ♦️10 ♦️Q ♥️Q


   エドヴァルド   積飛

    ♦️J      ♣️9

    ♥️7      ♦️8 


『ぐわぁぁぁぁ!!』

『いやぁぁぁぁ!!』

『おぉぉぉぉぉ!!』

『あぁぁぁぁぁ!!』

『わぁ~~~~!!』


「か、勝ったのはQのスリーカード!パウラ・クレイだぁぁぁ!!!Aブロックを制したのはパウラ・クレイ!!!!」


 〉わぁぁぁぁぁぁ!!!

 〉激熱

 〉さすが豪運天使……

 〉うぉぉぉぉぉぉ!!!


─────────────────────


~霧声麻未視点~


 負けた。またパウラに負けた。いつもは苦々しい悔しさが私を襲うのだが、今回はそうではない。


 負けたけど楽しかった。こんな感覚は初めてだった。


 パウラは運だけの女だ。私は彼女のその大いなる運によって負けたのだ。しかし私も運が良いのかもしれない。この大会に出れたことや『ブルーナイツ』に入れたこと、それだけで一生分の運を使い果たしたのかもしれない。だけど、運が良いというのは自分が行動した結果ついてくるものだと今日のポーカー大会で思い知った。賭け続けることや弱い手でも勝負すること。何もせずにチャンスを伺っているだけじゃ運なんかついてこない。


 私は今まで焦っていたのかもしれない。少額で勝負に参加しては降りたり、長期的に何かに賭け続けることはしていなかった。そのせいで勝手に敵を作るし、余裕もないし、良い結果なんて残せるわけもなかった。


 反省をしていると、グループチャット内に司会の田中カナタさんと神楽坂君が加わった。


「あ、あ、あ~。皆さん聞こえますでしょうか?」


「聞こえます」

「聞こえるよ」

「聞こえてます!」


「え~皆さん、最後のオールイン合戦には痺れました。しかしこのAブロックを制したのはパウラ・クレイさんです!!おめでとうございます!!」


「おめでと~!!」

「おめでとうございます!!」

「おめでとう!」

「おめでとう!!」


 私も小さな声で言う。


「おめでと……」


「ありがとうございますぅ~!!」


 カナタさんが言った。


「え~、順位なんですけど、オールイン前の皆さんのスコアで決めたいと思います。なので2位は獏!3位がエド君!4位がカミカさん!5位が麻未さんで6位のクソザコが詩音ってことで決まりました!」


「クソザコってわざわざ言わなくても良いじゃないですか!!」 


「黙れ雑魚!ってことで罰ゲームを決めるルーレットをパウラちゃん。回してください!」


 あ、忘れてた。罰ゲームがあるんだった。


「はぁ~い!それではぁ、スタートッ!」


 ルーレットが回る。別に罰ゲームになってしまっても構わない。寧ろ目立てるしチャンネル登録者数にも繋がる。


「決まりました!罰ゲームをして頂くのは~~、霧声麻未さんです!!」


「え~!!やなんですけどぉ!!」


 敢えて大袈裟に嫌がってみた。続けて言う。


「ていうか、罰ゲームって何するんですか?」


「はい。それでは視聴者さん!麻未さんにして貰いたい罰ゲームをコメントに流してください!!どうぞ!!」


 〉わさびシュークリーム

 〉足ツボマッサージ

 〉一発ギャグ

 〉モノマネ

 〉セクシーボイス


 ──ワサビや足ツボマッサージなんかは、事前に用意しなければできない。だとすればモノマネとかセクシーボイスとかになるか……


 先程まで罰ゲームは逆においしいからやっても構わないと思っていたが、やりたくなくなってきた。


「え~、辛いやつと苦い系の食べ物はオフコラボじゃないので難しそうですね……おっ、これなんか良いんじゃないですか?」


「な、何ですか?」


「これこれ、初配信同時視聴」


「は?」


 時が止まった。その後鳥肌がたった。


「ちょっ!ちょっと待ってください!!」


「あぁ、それ良いじゃん」


 獏さんがニヤニヤした口調で言ったので、つい大きな声をだしてしまう。


「黙りなさい!ほ、本当にそれ以外ならなんでも良いんで…それだけは……本当にご勘弁ください……」


 初配信。昔はVチューバーという業界も手探りであり、自分のキャラ設定をしっかりと守り、ロールプレイを行ってきた。当時は配信主体ではなく動画主体であった為に、自然な喋り方よりかは演技がかった喋り方をしていたりもする。


 つまり、今の私と昔の私は全く別物で、その差が本当に黒歴史になるくらい恥ずかしいモノなのだ。


「ええ?でも皆求めてるよ?」


 〉麻未さんの初配信w

 〉見たい見たい!

 〉初期声麻未w


「ルールにも書いてあるようにリスナーさんが決めることになってるから、初配信の同時視聴で決定!!」


「いやだぁぁぁぁぁぁ!!!お願いします!!パウラちゃぁぁぁん、1位の権限で違う罰ゲームにしてもらえませんかぁ?」


 私は気付けば、自分の嫌いなパウラに助けを求めていた。


「えぇ~?寧ろこれ罰ゲームになりますかぁ?」


「ん?」


「だってぇ~、麻未先輩の初配信ってとっても初々しくて可愛いから罰ゲームにならないと思うんですよぉ。パウラ、麻未先輩の配信好きで全部のアーカイブ見てますから知ってるんです!」


 恥ずかしさとパウラの意外な返答が私をカオスへと誘う。


 ──私の、配信が…好き?


 獏さんがパウラに質問する。


「へぇ~、麻未さんの配信のどこら辺が好きなの?」


「なんだろう、初めの方が特に好きでぇ、Vチューバーになれたのが本当に嬉しいんだなっていうのが伝わってきてぇ、楽しそうにお話ししたりとかぁ、楽しそうにゲームをしているところがとっても可愛くて好きなんですよぉ」


「だってさ!麻未先輩」


「だ、だまりなさい!」


 敵対していた私がバカみたいだった。それにとっても嬉しかった。自分の行いを悔い改め、パウラにお礼を言おうとしたが、カナタさんが口を開く。


「よし、これで画面共有して……」


 忘れてた。これからおぞましい映像が流れる。同時視聴者数はなんと12万人。


 ──あぁ、12万人の前で私は……


 長い黒髪に毛先をピンク色に染めて、パッチリと目を見開いた霧声麻未が画面に写って、停止している。


 ──あ……あぁ……


「んじゃ、罰ゲームを執行します!」


 カチッとクリック音が聞こえると、画面中央に停止していた私が動き出す。瞳の動きを確かめ、口の動きを確かめてからとうとう喋りだす。


『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ──』


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ちょっと待って!!一旦待って!!」


 カナタさんは私の初配信動画を停止してから言った。


「ちょっと!聞こえないよ!!」


 カミカさんが言った。


「今のって誰ですか?」 


「私ですよ!!」


 〉草

 〉最高におもろい

 〉別人やろ?


 次にエドヴァルド君が言った。


「マジですか?途中で中の人代わったとかじゃないんですか?アニメの2期で声優代わる的な……」


「Vチューバーにそんなシステムねぇよ!!ちょっと待ってください!一旦気持ち落ち着かせてください……」


 私は手を仰ぎ自分の紅潮した頬を冷ます。カナタさんは答えた。


「良いけど、次のBブロックも早くやりたいから──」


「わかってます!ちょっと待ってください……」


 私はそう言うと深呼吸をした。


「……はい。どうぞ」


「じゃあちょっと巻き戻して……」


 カチッ、と再びクリック音がした。


『…ぁ……ぇっと。は、はじめましてぇ。未来から来たバーチャル女子高生の霧声麻未ですぅッ……アハッ』


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドンドンと両手で机を叩き、床を両足で踏み鳴らした。


「パウラちゃんの言う通り、可愛いですね」


 カミカさんがそう言うと、神楽坂くんが言った。


「今じゃ見る影も──」


「オイ!!」


 私がつっこむと過去の私がまた喋り出した。


『私、アイドルが大好きでぇ…、特に同じブルーナイツの先輩の愛梨あいりネル先輩!自分もいつかネル先輩のようになって、皆を笑顔にしていきたいって思ってます!』


 甘えるような声が皆を笑顔にしていきたいと言った。そんな素敵な目標がいつの間にかチャンネル登録者の数に変わっていた。


 ──忘れていたんだ…とっても大切なその気持ちを……


 昔の私は満面の笑みで、視聴者と今の私に語りかける。私は画面に写る昔の自分と、これまた画面に写る今の自分を見比べた。なんだか今の私は昔の私に比べて笑顔が少ない気がする。


 ──それもその筈、昔の私はVチューバーになれて本当に嬉しかったんだ。毎日が楽しくて、やること全てが新鮮で、本当に楽しかった。今は……


 眩しい笑顔の昔の私から視線を逸らし、俯くと画面に写る今の私も俯いた。


 それで私はハッとする。画面に写るもう1人の私もハッとした表情になった。


 私は画面に写る私に触れた。


 ──私が俯けばこの子も俯く……

 

 そして今度は笑ってみせた。すると画面に写る今の私も笑った。


 ──私が笑えばこの子も笑うんだ……


 私は忘れていた。私はネル先輩のように皆を笑顔にする配信がしたかったのに。そんな想いがいつしか誰かと競い、争うことを目的としていたのだ。確かに長くVチューバー活動をするためには多くの人に求められていなければならない。それを私はチャンネル登録者の数だけで物語るようになってしまったのだ。


 ──誰かを楽しませるにはまず自分が、もう1人の私が楽しまなきゃいけないのに。ごめんね…もう1人の私……


 その時、画面に写る霧声麻未の顔がはにかんだように見えた。


 初期の霧声麻未は続ける。


『実は私、精神的に病んでしまったことが少し前にあって、薄暗い部屋でずっとうずくまっていたこともあったんです。でもですね!ネル先輩の配信を見て、私、とっても元気になれたんです!私も先輩みたいに誰かに笑顔を届ける、そんなVチューバーになりたいって思ったんです!!』


 私の心に今まで居座っていた暗い闇に大きな光が射したような気がした。それはネル先輩の配信を見ていた時のように。私は今、もう1人の私によって笑顔がもたらされた。それは私の夢が私によって叶った瞬間だった。

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