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第131話 なろう系

~織原朔真視点~


 僕は頭を悩ませていた。


 獏さんが僕の考えを全て読んでいる。


『コール』をしても『レイズ』をしても『フォールド』をしても僕の手が全て読まれているのではないかと思ってしまう。


 目の前に獏さんはいないのに、思考を読み取られる感覚を僕は味わっている。しかしこの感覚に似たモノを僕は経験したことがあった。


 ──どこで……? 


 獏さんはいないのに彼の視線が僕に刺さる。そのとき僕は激しい動悸に襲われた。


 ──そうか……


 胸を押さえながら僕は思った。


 ──リアルで僕が感じていることだ。他人の視線が気になり、発作を起こす。他人の考えを勝手に決めつけ、自分を勝手に追い込むこの感覚。僕は常にその視線に悩まされてきた。とても身勝手で自意識過剰な自分のせいで……


 獏さんだって、僕と同じ立場じゃないか。自分の選択の意図を他人に読まれるのではないかと内心では怯えている筈だ。だけど結局僕なんかでは他者の思考の領域を読み切れはしないんだ。


 そう思うと何故だか、心が軽くなった。そして動悸はおさまりつつも、激しく胸打ったその余韻が僕の心を鼓舞し始める。


 思考の罠から解放された瞬間、本日2度目のショーダウンが行われた。 



  パウラ   霧越    カミカ 

  ♥️8    ♣️6    ♦️K

  ♥️7    ♠️A    ♥️K


 

   ♣️8 ♠️8 ♦️A ♣️K ♦️8


 僕は見た。カミカさんのフルハウスをパウラちゃんが最後のリバーで8を引きフォーカードを完成させ、逆転するのを。


 そうだ。ゲームは最後まで何が起こるかわからない。しかしそれはゲームに最後まで参加していなきゃ引くことのできないカードだ。


 視聴者数が0人の時にVチューバー活動を辞めてしまったらこんなチャンスや経験は得られなかった。やり続けたから今の僕があるんだ。


 僕は静かに笑った。そして画面に写るエドヴァルドが笑いかけながら僕に言った。


『な、人生と一緒だろ?』


 ああ、どうやらそうみたいだ。

 

 アンティを支払い、スコアが変動する。


 Dパウラ・クレイ

  →27350


 SB霧声麻未

   →6250

 

 BB天久カミカ

   →5650 


 エドヴァルド

  →10250

  

 積飛獏

  →9400


 カードが配られる。


 ♠️2

 ♥️7


 テキサスホールデムで最も弱いハンドと言われるのが2と7だ。


 普段なら絶対に『フォールド』を選択したが、エドヴァルドが勝負をしたがっている。


 僕は宣言した。


「コール」


 エドヴァルド10250→9850

 →400


─────────────────────


~積飛獏視点~


 エドが『コール』を宣言した。


「なるほど……」


 今までの傾向から言って、女性陣は比較的自分の手札が強い時にしか『コール』や『レイズ』をしない。それを考慮に入れると、今のエドの『コール』は最小の掛け金で彼女達を誘い出し、勝負をしたがっているように俺は見える。


 ──俺の手札は……


 ♥️Q

 ♣️3


 勝負しても良い手札だ。俺は先程と同様に『レイズ』を宣言する。これでもう一度エド以外の奴等を『フォールド』させる。


 積飛獏9400→8600

 →800


 パウラは『フォールド』したがしかし、麻未さんが俺の『レイズ』に『コール』を選択して乗っかってきた。


 SB霧声麻未6250→5650

 →200+600=800


 ──麻未さんが強い手であることは明白……さっきのショーダウンで麻未さんはAを所持していた。そして今回は『レイズ』に乗っかってきた。ということはAを持っているか『レイズ』に『レイズ』を掛けなかったということは絵札以外のポケットである可能性もある。


 次のカミカさんは『フォールド』を選択し、エドのターンが回ってくる。


「コール」


 エドヴァルド9850→9450

 →400+400=800


 エドは自分の番が回ってきてからのほぼノータイムでのコール宣言。何か引っ掛かる。


 場の3枚のカードが捲られた。


  ♠️A ♥️3 ♠️J


 俺は3をヒットさせるが、場にAがあるのが気になる。俺の予想は的中しディーラーボタンの左隣である麻未さんは掛け金を吊り上げる『ベット』を選択した。


 霧越麻未5650→5250

 →400


 これはAのペアかそれ以上の役が揃った可能性が高い。次にエドの番だ。降りるか?


「コール」


 エドヴァルド9450→9050

 →400


 またもノータイムでの『コール』宣言。エドを早めに潰したい俺だが、流石に麻未さんの『ベット』には乗れなかった。『フォールド』を選択し、自分の出した答えがあっているのか答え合わせを待つことにする。


 ターンされ、場には4枚のカードが開かれた。


 ♠️A ♥️3 ♠️J ♠️8


 麻未さんは相変わらず強気の『ベット』だ。


 霧声麻未5250→4850

 →400


 そしてエドも相変わらずのノータイムでの『コール』。


 エドヴァルド9050→8650

 →400


 リバー。5枚全てのカードが顕となった。


 ♠️A ♥️3 ♠️J ♠️8 ♠️Q


 麻未さんはまたしても『ベット』を選択。


 霧声麻未4850→4450

 →400


「いきましょ、いきましょ!!」


「じゃあこっちも行きますよ?」


 エドはここで『レイズ』を選択。


 エドヴァルド8650→7850

 →800


 降ろすにはもう少し、高い金額をかけるべきだが、やはり俺の思った通りエドの手も強いようだ。


 ──俺が降りたのは正解みたいだな。


 この金額なら麻未さんも乗ってくるだろう。ここまでベットを仕掛けてきているとなかなか降りられないものだ。麻未さんは『コール』を選択する。


 霧声麻未4450→4050

 →400+400=800


 さぁ、ショーダウンだ。おそらく麻未さんの手はAのペアかAを伴った強い役だろう。


 霧声麻未

 ♣️A

 ♦️3


 ♠️A ♥️3 ♠️J ♠️8 ♠️Q


 ──やはりな…早めに降りて良かった……対してエドもAを所持している可能性が高い。最初から勝負したそうに誘っていたからな……ってなに!?


 エドヴァルド

 ♠️2

 ♥️7


 ♠️A ♥️3 ♠️J ♠️8 ♠️Q


 ──フラッシュ!?しかもリバーで引き当てたのか?そんでもって2と7だと!!?


 俺は酷く動揺した。エドの今までの練習配信でこのような勝負の仕方を奴がしたことなどないからだ。俺はゴクリと唾を飲み込み、この状況を分析しようとしたが、エドの雄叫びによって遮られる。


「っしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そして麻未さんは崩れ落ちる。実際にその光景が見えるわけではないが、彼女のえぇぇぇ!という悲鳴が俺にそう連想させた。


 整理が付かぬまま、次のゲームに入る。上昇したアンティを200ずつ支払い、スコアは以下の通りだ。


 パウラ・クレイ

  →27150   


 D霧声麻未

   →3850   

 

 SB天久カミカ

   →5050  


  BBエドヴァルド

  →13350    

  

 積飛獏

  →8400     


 そろそろ何人かが脱落する。おっと、既に神楽坂詩音の奴が落ちていたのだ。


 カードが配られる。


 ♦️K

 ♣️10


 俺は『コール』を選択した。


 積飛獏8400→7600

 →800 


 次にパウラも『コール』を宣言。


 パウラ・クレイ27150→26350

 →800


 俺は内心で舌打ちをした。パウラの手はおそらく強い。


 ──豪運天使め!


 次に麻未さんが『フォールド』した。そのチップ数なら次かその次のゲームで勝負をしなきゃならない。しかし、今回の手札は良くなかったのだろう。そして次にカミカさんの番だが、彼女も『フォールド』を選択。


 ──エドは……


 俺は額に汗を垂らす。


「フォールド」


 エドのその宣言で俺は安堵した。


 ──何故安堵したのかわからない。エドのことを考えなくて済むからか?


 奴の心理を掌握したつもりだったが、いつの間にかこっちが喰われていたようだ。それよりも今はこの豪運天使との一騎討ちに集中しよう。


 パウラと俺の掛け金が揃ったことにより3枚のカードがオープンされる。


 ♥️Q ♦️A ♠️5


 ──重いカード達…しかしJがくれば俺はストレートを揃えることができる……


 アンダーザガンの俺から始まった。


「ベット」


 積飛獏7600→6800

 →800


 前々回のゲームではベットにレイズをかけることをパウラはしなかった。基本的に他者のレイズにコールをするプレイング。初心者は強い手を作りたがり、場のカードを最後までオープンさせる傾向にある。エドと違って相手の手を掛け方で予想しない。いや、できないのだ。つまりは、高い金額でレイズしたとしても途中でフォールドする可能性は低い。ましてや、現在1位のチップ数なのだ。さっきのようにリバーで逆転できることだってある。そう考えると、ストレート待ちの俺と利害が一致している。4枚目、5枚目までオープンさせたい。


「コール」


 パウラ・クレイ26350→25550

 →800


 案の定、俺の思惑通りになった。


 4枚目のカードが捲られる


 ♥️Q ♦️A ♠️5 ♦️J


 ──きた!!ストレート!!


 俺は再度『ベット』を宣言する。


 積飛獏6800→6000

 →800

 

 またしてもパウラは『コール』。


 パウラ・クレイ25550→24750

 →800

 

 そして最後のカードが捲られる。


 ♥️Q ♦️A ♠️5 ♦️J ♦️6


 俺の恐れていたことが起きた。もしパウラの持つ2枚のカードのマークが♦️ならストレートよりも強い役、フラッシュがリバー(5枚目)で成立してしまった。


 ここへきて俺の負けのパーセンテージが上昇した。


 ──クソ……


 しかし、なろう系じゃねぇんだ。


 ──必ず勝つとわかっていて何が楽しい!?負ける可能性があるからこの世は楽しいんだろ?胸をときめかすんだろ?約束された成功で一体何が得られるんだ!?


 俺は最終ベッティングラウンドで勝負に出た。


「オールインだ!!」


 このポーカー大会Aブロックが始まった最初のゲームで見た稲妻のエフェクトが発せられる。


 積飛獏6000→0

 →6000


 ターンの時にオールインしても良かった。リバーでフラッシュが成立する前に勝負に出れば勝率も高い。しかしパウラがフォールドする可能性を捨てきれなかった。だから最終ベッティングラウンドで仕掛けた。初心者がここまで掛けた時間と金を勘案して引くに引けない状況を作り出したのだ。


 おおぉぉぉ!!っとエドやカミカさんが唸った。それに呼応するようにパウラまでもが唸りながら宣言する。


「おおぉぉぉ!!コールです!!」


 パウラ・クレイ24750→18750

 →6000


 ショーダウンだ。


  積飛獏     パウラ・クレイ

   ♦️K      ♥️A

   ♣️10      ♠️A



 ♥️Q ♦️A ♠️5 ♦️J ♦️6


 パウラはAのスリーカード。俺の勝ちだ。

 

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」

「あ~~~~ん」


 まだまだ負けられん。

 

 パウラ・クレイ

  →18750


 D霧越真美

   →3850

 

 SB天久カミカ

   →5050 


  BBエドヴァルド

  →13350 

  

 積飛獏

  →19000

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