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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第13話 勘違い

~織原朔真視点~


 シロナガックスさんと部隊を組めたことで配信を終えた僕にたくさんのスパチャが送られた。その中にはスターバックスさんもいる。スパチャが解禁されてからスターバックスさんからめちゃくちゃスパチャがくる。またもこんなことでお金を貰ってしまう罪悪感みたいなものが過った。


 それはさておき、シロナガックスさんのおかげで僕の中の闘争本能に火が付いた。自分がプレイしているゲーム、アーペックスの中でも最高峰と言えるプレイングを目の当たりにしたのだ、火が付かない方がおかしい。


 僕は配信を終えてから今までバイトの時間や、その休憩時間、貪るようにしてシロナガックスさんのプレイ動画や世界で活躍するプロゲーマー達のプレイ動画を観た。


 今も彼らのプレイ動画を見たい欲にかられているが、この前の音咲さんのようにスマホに夢中になって事故を起こしかねない。


 ──通学中、歩きながらスマホを見るのはやめよう。


 僕は学校までの道のりを歩いた。


 SNSの通知も相変わらず99+のままだ。授業中に確認したいがしかし、隣の席の音咲さんに──この前の僕が彼女の正体に気付いたみたいに──見られる恐れがあるため、トイレ等誰もいないところで確認しようと考えながら学校の校門をくぐる。


 教室へ向かう途中、廊下を歩いていると向かい側から一ノ瀬愛美さんがやって来た。音咲さんとは違うタイプの美人だ。茶髪のショートボブ、スタイルも良ければ、頭も良い。彼女は確か生徒会に入っている筈だ。才色兼備とは彼女の為にあるような言葉だろう。そんな一ノ瀬さんは僕を視認したせいなのか、歩みを不自然に止めた。


 僕は違和感を抱く。彼女が足を止めただけでなく何か恐ろしいモノから目をそらすようにして俯いたからだ。僕は念のため首だけを回して自分の背後に誰かいないかを確認した。そこには誰もいない。つまり一ノ瀬さんは僕を見て、俯き歩みを止めたことになる。僕は歩くのを止めて彼女に何かしたのか記憶を辿るが何も思い付かない。


 ──休日はバイトと配信しかしていない


 僕が思考に沈んでいる間に一ノ瀬さんは僕に近付いてきた。精気の宿っていない表情、虚ろな焦点、顔色はどこか青白く見えた。


 一ノ瀬さんは僕から視線をそらしながら声を絞り出すように発する。


「…ぉ、ぉはよぉ……」


 学校にいる時の僕のような、今にも消え入りそうな声だった。僕は一ノ瀬さんに何か重大な出来事が起きたのではないかと心配になる。それが何なのかわからないが、彼女にとって良くないことが起こったのはわかった。


 僕は彼女に声をかける。


「どうしたの?一体何が……」


 彼女を心配するあまりエドヴァルドのような口調がついて出たことに僕は驚いた。それには一ノ瀬さんも驚いた様子だった。虚ろな目を見開き、僕の顔を覗く。


「お、怒ってないの?」


 何に対して?僕は一ノ瀬さんに何かされたのか、今一度思考に沈んだが、答えは得られない。僕は首を傾げる。


 それを見て彼女は言った。


「この前の……ぁ、ぃや何でもない!怒ってないんだよね?休日に、なにか嫌なことも何もなかったんだよね?」


 僕はあっけらかんとして頷くと彼女の表情がパアッと明るくなった。表情とはかようにも変わるものかとついみとれてしまった。


 一ノ瀬さんは先程までとは別人のようになって、軽くステップを踏みながら教室の扉をくぐる。彼女の後ろ髪が楽しげに揺れ、一ノ瀬さんを追うように教室に入っていった。


 僕は女の子というものがよくわからない。妹の萌のことだってよくわかっていない。機嫌が良いかと思えば、急に怒り出したり、怒り出したかと思えば、優しくなったり、嫌なことがあって死にそうな表情をしていた割には次の日ケロッとしていたりと様々だ。


 そんなことを考えながら教室に入ると僕を待っていたのは音咲さんだった。といっても隣の席に座っているだけだったが、彼女は僕を一瞥すると、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。


 僕は思い出した。彼女のお父さんが経営するホテルの清掃のアルバイトがクビになるのではないかということに。


 僕は直立していると、彼女の取り巻きであるギャルの2人が僕に告げる。


「何つっ立ってんの?キモいんだけど」

「早く座りなよ」


 僕は俯き、滑り込むようにイスに座った。そして彼女達にバレないように溜め息をつく。すると取り巻きの金髪にピンク色の差し色が入ったギャルの1人が僕に聞こえるように言った。


「あぁ言うのがストーカーになったりするんだから華多莉も気を付けなよ?」


 僕はビクリと身体を跳ねさせた。しかし同時に音咲さんもビクリと反応したのがわかった。おそらくこの前の出来事を音咲さんも思い出したのだろう。


 ──ストーカーは勘違いだってわかってくれてたら良いんだけど……


──────────────────────


~音咲華多莉視点~

  

 教室には徐々に生徒が集まり始めた。新しい教室と、この席から眺める景色にはまだ慣れないが、晴れやかな清々しい朝が私を優しく包む。


 美優と茉優がいつものように私の席の周りを固めてくれている。そしていつものように世間話に花を咲かせていた。


 しかし私は心ここに在らずといった具合だった。織原朔真に感謝と謝罪をしなければならないからだ。


 私を助けてくれたことに感謝し、私がストーカーだと暴言を吐いたことに謝罪をする。


 ──ビンタしたことは…ア、アイツも悪いところがあったから……謝らなくても大丈夫な筈!!


 今日のミッションを頭の中で思い描く。


 どのように感謝し謝罪すれば良いのかを考えていると、教室に当の本人が入ってきた。


 私は彼を見つめる。


 ──感謝と謝罪!感謝と謝罪!感謝と謝罪!感謝と……謝罪……


 喉が詰まって声がでない。


 ──こ、この私が緊張しているとでも……


 そう思うと余計に緊張が高まる。胸と顔の温度が高まるのがわかった私は、彼から視線を逸らして高まった熱を冷ました。その時安堵からか鼻をフンと鳴らしてしまう。


 ──ダ、ダメだぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 織原朔真はまだその場で立ったままだ。もう一度視線を向ければ不自然に思う筈だ。しかしそんなことも言ってられない。


 ──自分で伝えるって言ったのだからやらなきゃダメよ!!


 私は意を決して再び織原朔真のことを見ようとしたその時、


「何つっ立ってんの?キモいんだけど」

「早く座りなよ」


 美優と茉優が悪態をつく。


 ──やめてぇぇぇぇぇぇ!!!


 余計声をかけにくくなってしまった。更に美優が言った。


「あぁ言うのがストーカーになったりするんだから華多莉も気を付けなよ?」


 ビクリと私の身体が跳ねた。


 ──はい!すみません!!そう思ってました!!でも彼は、彼は違うんです!!


 心の中の私は涙を流して言っていた。

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