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第119話 アート

~音咲華多莉視点~ 

 

 道に迷ってしまった。アパートからコンビニまでの道のりなのに何故迷ってしまうのか。街灯の少ない夜の田舎町を歩き続けると、目的地であるコンビニの灯りが見えた。


「やっと着いたぁ……」


 私はアルバイト先であるコンビニに入った。自動扉をくぐると、外とは違って店内は明るく、軽快なBGMが流れていて、夜道に怯えた私を快く迎え入れてくれた。


 しかし私は違和感を覚える。レジにはいつもいる先輩はおろか店長の姿も見えない。


「品出しかな?」


 私はその違和感を頭の片隅にしまいこみ、出勤のタイムカードを押そうとレジカウンターを通り、バックヤードへと入ると、


 ドンッと音を立ててロッカーからアルバイトの先輩が私を驚かそうと飛び出してきた。


「キャ~~~!!!!」


 私は叫んだ後、冷静に今の状況を分析する。


「…はぁ~!?何この人!?なんでこんなことすんの!?信じられないんだけど!!」


 コメント欄の奴等はというと。


 〉草

 〉頂きました

 〉最高です

 〉事件性のある悲鳴助かる


 私は新しく購入したゲーミングチェアに腰を預け、ふぅ~と息を吐き出す。


 現在、ホラーゲームをプレイ中だ。プレイヤーがコンビニのアルバイトをしていると奇怪な出来事に巻き込まれる、といったシナリオだが、その奇怪な出来事、ではなく登場人物による奇怪な行動によって私は大いに驚かされた。


 ホラー映画に出演したことのある私にとって、ホラーゲームなど子供だましに過ぎないと思っていたのだが、扉を開ける選択やひとりでに動き出すパソコンを覗き込もうとする時等、この後恐怖が襲ってくるであろう演出になるとどうしても尻込みしてしまう。


 私は動画投稿サイト上に自分の公式アカウントを作成し、雑談や主にゲーム実況など、マネージャーに確認をとりながらではあるが、配信活動を復活させた。別のSNSで生配信をしていたこともあるのだけれど、それはあくまで宣伝用で、その配信中に危うく事故を起こしかけたのはもう4ヶ月ほど前のことだ。


 毎日配信はなかなか出来ないけれど、多くの人に向かって発信し続けることの重要性と室内でしか配信しないことを約束すると事務所はすんなり許可を出してくれた。


「無理無理無理!!開けれないって!!絶対襲ってくるじゃん!!」


 〉可愛い

 〉ビビるかたりん可愛すぎ

 〉びびりん

 〉どうせ開けるんだから早く開けな


「無理だって!!やば、誰かに電話しよ……」


 〉誰にするんですか?

 〉のんちゃん?

 〉ふみか?

 〉俺にかけても良いよ


 私は椎名町45のメンバーの連絡先を眺めた。仲の良いふみかに電話してみようか。希さんは、また子供扱いされそうだからしない。


 ──誰かいないかな……あ!


 私は愛美ちゃんに電話をかける。


『もしもし?』


「あ!もしもし!愛美ちゃん?今配信してるんだけど少しだけ付き合ってくれない?」


 〉MANAMI!?

 〉シロナガックス!?

 〉きたぁぁぁぁぁ!!

 〉JK同士、助かる 


『え?いいよ、何してるの?』


「今実は配信中で、声乗っけても良い?」


『うん、いいよぉ』


 私は愛美ちゃんの声を配信を観ている視聴者にも聞こえるように設定した。そして現在何をしているかの説明をする。


「今ホラーゲームしてて……なめてたんだけどめちゃくちゃ怖くて……その……」


『…か、かわいい……』


「あ!今子供扱いしたでしょ!?」


『し、してないよ!』


 〉子供じゃん

 〉JKはまだ子供

 〉ホラーゲーム怖くて、友達に電話は子供だよ


「うるさいなぁ!もう!あ、愛美ちゃんに言ったんじゃなくてコメント欄の人達に言ったんだよ!?」


 愛美ちゃんは、私の配信をパソコンで見ながら通話してくれることとなった。


「あ、開けるよ……」


 私はお札が乱雑に貼られている木製の扉を開けた。たて付けが悪いのかギィィと不快な音が聞こえる。


 扉を開けると、ロード画面となり強制的に室内に入室させられる運びとなった。


「ひっ!!」


 室内には、椅子に腰掛けた男の人がいた。両目から黒く変色した血のようなものを流して座っている。その彼の前にはテレビのモニターがあり、画面には赤文字で『4』と写っている。


「なにこれ……し、死んでるんだよね?」


『死んでるかわからないから、頸動脈調べてみて?』 


「そんなのできるわけないじゃん!!」


 〉MANAMIのパワープレイワロタ

 〉ガンガンいく奴やったか

 〉ホラー耐性ありありだったか

 

 すると、私がさきほど勇気を出して開けた扉が閉まっていることに気が付く。


「え、閉じ込められてない?」


 その時、ドンドンドンと扉を乱暴に叩く音が聞こえる。


「やばい!ごめんなさいごめんなさい!!」


『フフフフ……』


「ちょっと!笑わないでよ!!」


『……』


「黙るのもやめて!!」


 まだ扉を叩く音が聞こえる。しかしよく聴くと何かが絞り出されるような音が聞こえる。肉をミンチにしているような。その音は外からではなく室内から聞こえる。扉を叩く音が一段と大きくなった。私は部屋の中を見渡すと、椅子に腰掛けていた男性の首がゆっくりと動き、私の方を向き始めるのを目撃した。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 画面は暗転して、THE ENDの文字が赤く光る。そしてエンドクレジットが流れ始めた。


「おわった……」


 愛美ちゃんは拍手をしながらゲームクリアを祝福してくれた。


『おめでとう!』


「…あ、ありがとう……」


 映画と比べて短いエンドクレジットの最後の方にはクラウドファンディングで支援した人の名前が表示されている。


 鷲見カンナ

 カンナスキー

 カミカ様

 積飛獏


 Vチューバーやそのファン達が推しを宣伝しようとこのようなゲームに投資をすることがよくある。


 すると画面にはエドヴァルド様のファンネームであるエドの民の文字が表示された。


「あ……」


『どうしたの?』


 思わず声を出してしまった私だが、何でもないとその場を濁し、コメント欄を見る。


 〉クリアおめでとう

 〉おめです

 〉Vチューバー……

 〉ここにもVチューバーが……


 私は、FMS歌謡祭のリハーサルを終えて廊下で出会った女性を思い出す。一度目はディスティニーシーで出会った女性。彼女が現在ネット上で物議を醸している天久カミカだとFMSの本番で知った。


 今日、ゲームを始める前からFMS歌謡祭についてよ質問と共演した天久カミカについての質問が多数あったことを私は思い出す。敢えてそれには触れずにゲーム実況を開始したが、エンドクレジットに出てきたのを機に私は言った。


「愛美ちゃんは知ってると思うけど、私よくVチューバー見るんだよね」


『う、うん。そうだよね』


 愛美ちゃんに少しだけ緊張が走るのが窺えた。現在、Vチューバー全体がうっすらと炎上している。そこに斬り込むのだから無理もない。


 〉誰を見るんですか!?

 〉マジで!?

 〉え……

 〉そうなの?


「この前FMSに一緒に出た天久カミカちゃんとか今エンドクレジットに出てた鷲見カンナさんとか。だからこの前カミカちゃんのパフォーマンスを実際に見れて凄く感動しちゃって……」


 〉他は!?

 〉ちょっとショックかも

 〉めちゃくちゃ好感度上がったわ

 〉もうちょっと発言に対して時と場所を選ぼう


「色んな表現方法があって私は楽しいし、好き。勿論苦手なモノもあったりするけど、それは別に敢えて言わなくても良いかな?でも好きなモノがハッキリしていればいるほど、その影もハッキリとしていて、嫌いなモノがより色濃く現れるのも理解できるんだよね。映画の製作に携わる人達なんてそれで死ぬ程揉めてたりするからさ、あと舞台もそう。お前の演技はダメだとか、本心で言ってない!嘘ついてる!!とかね……でもコンテンツをよくしようとしてのことなんだよね。ただ信頼できる監督とか演出家さん、ボイトレやダンスの先生とかってちゃんと何がダメで、それをどうそれば解決できるのかちゃんと具体例と一緒に提示してくれるんだよね。しかも面と向かってお互いを信頼しながら、何回も何回も意見を重ねてようやく納得できるものに仕上がると思うの。反対に文字って簡単に想いは伝えられると思うんだけど140字以内のコメントやそれ以上の文章で何かを教えるってかなり難しくて、お互いの読解力や文章力、理解力や心情に依存しがちだから誤解に誤解が重なっちゃう気がしてるんだよね。嫌なら見なければ良いって思う人もいるけど、自分の好きをハッキリさせるために嫌いな人を敢えて見続ける人もいるし、自分を肯定するためにわざと嫌いな人を貶めようとする人も中にはいて、でもそういう人のコメントとかはこれからガンガンブロックしていこうと思うので宜しくお願いします」

 

 〉はーい!

 〉よく言った!!

 〉ストレス発散する為だけに叩く奴もいる

 〉それで良い


「じゃあ今日の配信はここまで!ごめんね愛美ちゃん、最後、いや最後だけじゃなくて終始巻き込んじゃって……」


『ううん、全然大丈夫。それよりも華多莉ちゃんが今までアイドルとして色んな経験を積んできてここまで頑張ってきたんだなぁ、て納得しちゃった!』


 〉それな!

 〉わかる

 〉かたりん大好き!!

 〉俺もこれからも好きを伝えるよ!


「…あ、ありがとう……愛美ちゃんも、みんなも……」


 〉照れてる

 〉可愛い

 〉かわいい


「じゃあ、みんなバイバーイ!!」


 私は照れを隠しながらウェブカメラに向かって手を振った。


 配信を終えると、私は愛美ちゃんにお礼を言った。


「愛美ちゃんがいなかったらたぶんクリアできなかったよ!!ありがとう!!」


『私も途中からだけど一緒に出来て楽しかった!ありがとう!』


「あのさ……」


『ん?』


「いや何でもない、今度また今みたいにいきなり電話しても良い?」


『いいよ!』


 愛美ちゃんとの通話をきった私は、深呼吸した。現在、21時手前。予定より少しだけ早いが準備をする。今こそ勇気を出す時だ。愛美ちゃんも言っていた。eスポーツの大会に出るにあたって母親と揉めたって。


 黒木監督の映画の撮影が終わり、その試写会に私のお父さんを誘うのだ。 


 実は意外と自信がある。


 監督に演技のことで褒められたからだ。eスポーツの全国大会後に撮ったシーン。私の演技がいまいちだった為に滞っていたあのシーンにOKが出たのだ。


 私は立ち上がり、部屋から出る。


 今日しかない。日頃色々なホテルの視察や新しいホテルの建設に携わっている為、なかなか日本にいないお父さんだが、今日は私の泊まっているホテルにいるのだ。


 お父さんのいる部屋へ向かう。


 その部屋に近づく度に、足がすくみ、心臓の鼓動が強くなる。


 扉の前に着いた私は息をゆっくりと吐き出してからノックした。


「どうぞ……」


 お父さんの低く響く声が扉越しから聞こえた。


 私はゆっくりと扉を開けた。さっきまでやっていたホラーゲームのように扉をゆっくりと開けた。

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