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第115話 忘れ物 part3

~音咲華多莉視点~


「フンフンフ~~ン♪︎」


 今日の仕事はうまく行った。私はルンルン気分でホテルのロビーに入った。そしてこれからエドヴァルド様の配信だ。


 ホテルのランドリーサービスで出していた私服をベルキャプテンデスクで受け取ったその時、声が聞こえた。


「どうしよう織原君帰っちゃったみたい」


 私は振り返り、清掃スタッフのユニフォームを着た人達に話し掛けた。


「あのぉ、何か……」


 すると自分達の溢した声をお客さんである私に聞かれたことにスタッフ達は慌て始める。そしてその清掃スタッフ達は直ぐに訂正の言葉を述べた。


「申し訳ございません。こちらの不手際でして……」


 私は言った。


「えっと、ここの従業員の織原朔真は私と同じ高校に通うとも──」


 友達と言おうとしたが、何か違和感を拭いきれず私は同級生と言い直した。


「高校の同級生です」


「え?」


 私は続ける。


「それに私はここのホテルのオーナーの娘でもあるので、彼に何かあったのなら教えて頂けませんか?」


 その言葉で彼女達は、私のことをお客さんではなく音咲華多莉であると認識した。


「あ、えっと、織原君がスマホを忘れたまま帰ってしまっていて……」


 私は思う。

 

 ──この前、私にエドヴァルド様のロザリオを届けてくれたのだから、今度は……


 私は言った。


「それなら私が彼に届け──」


 届ける。そう言いきろうとしたが、思い出した。これからエドヴァルド様の配信があるのだ。


 ──リアタイ出来なければ、不敬に値する。いや、イヤホンで聴きながら行けば良い?でもそしたらエドヴァルド様のご尊顔が……


 織原とエドヴァルド様を私は天秤にかける。


「む~……」


 どのくらい時が経ったかわからないが、結局私は受けた恩を返すことにした。恩を返すならエドヴァルド様もきっとわかってくれる筈だ。


 私は清掃スタッフから織原のスマホを受け取り、支配人の白州に織原の住んでいる家を尋ねた。


─────────────────────


~織原朔真視点~


 スマホを忘れた。


 きっとホテルのスタッフルームに置き忘れたのだ。


 しかし、もう配信の時間だ。萌に取りに行って貰おうかと考えたが、夜ももう遅い。


 ──明日、学校が終わった後取りに行くか…… 


 配信前にはいつもララさんのコメントを読むのが僕のルーティーンなのだが、この日はそれを省こう。しかしそれがないとわかるとなんだか心許ない。


「私お風呂入ってくるね」


 萌はそう言って、風呂場へ行った。


 僕は返事をして配信をスタートした。


─────────────────────


~音咲華多莉視点~


 タクシーに乗り込み、教えて貰った住所をドライバーに告げた。


 ──もう配信してるのだろうか……


 幸いエドヴァルド様の配信は、コラボ配信以外はDVR、つまり巻き戻し機能がついており、ライブ配信中だけれども最初から観れるようになっている。


 そんなことを考えているとふと、手元にある織原朔真のスマホに目がいった。


 ──さ、流石に中を覗くのは違うよね……


 しかし私は思い出した。


 ──この前、箱の中が何なのか加賀美がバラしちゃったんだよね?


 エドヴァルド様のロザリオが入っていたことを織原は知っている。


 ──だ、だとしたら少しくらい覗いても……


 私は恐る恐る織原のスマホの電源ボタンを押した。するとロック画面となり、4桁のパスワードを打ち込むようにと促される。


 ──こ、こしゃくな……


 私はその画面を見て、一度諦めた。しかしまだ目的地の織原の家まで着きそうにない。


 私はもう一度電源を入れてロック画面を見た。


 ──……ま、まあまあ、有り得ないよね?

 

 私は何を思ったか自分の誕生日を打ち込んだ。


 0405、と打ち込むと、ロックは解除された。


 ──うそ……


 解除されたことに驚く私は、様々なアプリが羅列された画面、その背景にある画像に目がいった。


 その画像は制服に身を包んだ、女の子とその母親が中学校の校門の前でピースをしている画像だった。校門には立看板で入学式の文字が刻まれていた。


 ──これ、織原の妹さんとお母さん?


 私は罪悪感から直ぐに電源ボタンを押し、offにした。暗い画面が鏡のようにして私を写す。何とも言えない気まずい顔をしていた。いや、画面に写った私が、生身の私を糾弾しているようにも見えた。


 そうこうしていると、タクシーは停止し、目的地へと着いたことを告げる。


 私は直ぐ戻るのでここで待機していてほしいと言って、織原の家であるボロボロの木造アパートへ向かった。


 都内にまだこのような、アパートがあるのかと不思議に思った。織原の住む部屋は2階だ。


 錆びて今にも崩れ落ちそうな階段を昇る。手摺てすりはあるにはあるのだが、手が汚れそうだったので触れたくなかった。


 そして織原の住む玄関の扉をノックした。


─────────────────────


~織原朔真視点~


 配信して数分後、物音が聞こえる。それは何かの聞き間違いか、それか萌が何かをしてるのだろうと当たりをつけたが、徐々にその物音が大きくなった。


「ごめん、ちょっと外が騒がしいというか……ちょっと様子見てきて良い?」


 〉いいよー

 〉親フラ?

 〉ウーバーか?

 〉宅配?


 僕はヘッドホンをおいて、配信部屋を出た。配信部屋と言っても居間に仕切りをつけただけの簡易的なモノだ。


 ドンドンドン。


 玄関を叩く音が聞こえる、萌はまだ風呂に入っていた。


 僕は仕方なく靴を履いて、玄関を開けると驚いた。玄関を叩いていたのが音咲さんだったからだ。


「え?」


「もう!いるなら早く出なさいよね」 


「え……」


 僕が狼狽えていると、音咲さんは渡してきた。


「はいコレ」


 僕のスマホだった。


 僕はお礼を言った。


「…あ、ありがとぅ……」


 勿論声を変えてだ。


「……か、勘違いしないでよね。この前私の忘れ物を届けてくれたからそのお返しよ」


 音咲さんは僕から目をそらしながら言った。それでも僕は嬉しかった。しかし思い出した。玄関から僕が配信しているモニターが見えていることを。そこにはおもっくそエドヴァルドが写っている。


「んぐっ!!」


 僕は慌てて扉を閉めて、音咲さんと外に出た。


「な、なによ?見られちゃまずいものでもあるの?」


 仰る通りだ。


 僕が答えあぐねていると音咲さんは言った。


「ま、まぁ良いわ。明日、学校で……」


 僕は頷くと音咲さんは階段を降りる。そしてタクシーに乗って帰って行った。


 僕は安堵の息を漏らして、部屋に戻った。そしてスマホを開く。ロック画面にララさんの誕生日を打ち込んだ。


 そして保存しているララさんのコメントの画像を見て心を落ち着かせた。


 すると風呂から上がった萌が言った。


「誰だったの?」


「バ、バイト先の人だよ。ホラ、スマホ忘れたって言ったろ?届けに来てくれたんだ」


 ふーん。と濡れた髪をタオルで吹きながら言った萌は、ハッとした表情を浮かべる。そして僕の配信画面を指差して、小声で言った。


「マイク、ミュートになってる?」


 僕の体温が徐々に低下していくのがわかった。僕は慌てて配信卓に行くと、コメント欄に文字が刻まれた。


 〉おかえりw

 〉ミュートになってないっすよ

 〉何か聞こえる……

 〉汚部屋ではなさそうだな

 〉おかえりー


「な、何か聞こえてなかった!?大丈夫!!?」


 〉特に何も

 〉何も聞こえなかった

 〉俺は何も聞いてない

 〉女の子声が……

 

「女の子の声?あぁ、だったらたぶん妹かな」


 〉妹!?

 〉え?知らなかった

 〉妹いんのかよ!!?

 〉妹だと?


「え?初だしだっけ?妹と住んでます」


 〉けしからん

 〉えっちだな

 〉どんな妹?

 〉いいなー


「そっか、じゃあこれも言ってないか…妹が俺のママだよ」


 〉はぁぁぁぁぁ!?

 〉妹がママ!?

 〉バブみを感じる

 〉なんだってぇぇ!!?


─────────────────────


~音咲華多莉視点~


 織原にスマホも返せた。


 ──しかし、一体どうして織原の暗証番号が私の誕生日だったのだろうか?


 少し、考えたがエドヴァルド様の配信を巻き戻して見ながらタクシーで帰っている途中。私は信じられないことを耳にする。


『え?初だしだっけ?妹と住んでます。そっか、じゃあこれも言ってないか…妹が俺のママだよ』 


「えぇぇぇ~~~~!!!?」


 私の声に驚いたタクシードライバーがビクンと身体を跳ねさせた。

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