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第107話 本領発揮

~音咲華多莉視点~


「オープニングゲーム、ビクトリークラウンを手にしたYummy選手とMANAMI選手の1V1だぁぁぁ!!」


 私は応援する言葉すら発せない程、ドキドキしながら2人の戦闘を見つめていた。


 Yummy選手は宣言通り、強い武器のある激戦区へと降り立ち、見事強力な武器を手に入れていた。


「対してMANAMI選手はハンドガン!武器においてはYummy選手の方が有利だがどうなる!?」


 愛美ちゃんを追ってYummy選手は窓から外へ飛び降りたが、その間に3発、愛美ちゃんの放った弾が命中した。


「上手い!」

「やり合うのか!?」


 各々反応する解説者達だが、そんな中ルブタンさんが言った。


「彼女、相手がサブマシンガン持ってることわかった上で、戦いを選択しましたね」


 その物言いには逃げた方が良いのにというニュアンスが含まれていた。


「負けじとYummy選手も撃ち返します!っとしかし建築を駆使して回避…おお!!またMANAMI選手、当てましたね」


 Yummy選手も建築で壁を造って防戦する。


「回復したいところですね」


 新界さんの言葉通り、建築を積み上げて要塞を造り上げるYummy選手だが、次の瞬間解説者達が唸る。


「うはっ!」

「はやい!!」

「はぁ!?」


 実況の武藤さんは興奮気味ではあるがしっかりと自分の仕事を全うした。


「建築を積み上げて回復する時間を造ろうとしたYummy選手でしたが!そんな時間は与えないとMANAMI選手が驚異的な建築スピードでYummy選手の上をとった!!」


 ルブタンさんが言った。


「うわぁ!天井張り替えて、上から一網打尽やん!!」


 それを予測してか、Yummy選手は自分が造った横壁に編集で穴をあけて逃げようとした。


「逃げられるかYummy選手──っ!!」


 実況の武藤さんの言葉が詰まる。


「上手いぃぃぃ~!!」

「えっぐ!!」

「はんや!!」


 Yummy選手の逃げた先には既に建築が施されていた。そこは愛美ちゃんの鳥籠の中であった。混乱したYummy選手の捕らわれた壁から編集で斜めに穴をあけた愛美ちゃんがジャンプをしながら銃を放った。 


「エイム良すぎやろ!!」

「やばいな!」

「くぅ~~~!!」


「なんとここで!オープニングゲーム、ビクトリークラウンを手にしたYummy選手が一番最初に落ちたぁぁぁぁ!!」


 解説のおじさん達は叫んだ後、しばらく放心状態であったが、実況の武藤さんが話を振る。


「新界さん、MANAMI選手の今のプレイはどうでしたか?」


「いやっ、完璧な読みとピースコントロール、そして完璧なエイムでしたね。それに最後、編集で斜めに穴をあけた後、それに沿ったように階段を置いて撃ってましたね。その後、その階段に蓋をするように平らな天井を造って、また編集をして穴をあけてそこから撃っていたのは、Yummy選手に先に階段の上に天井を造られないようにした動きでしたが……」


 今の一瞬でそんな事が起こっていたとは私にはまるでわからなかった。


 次にロスアンジェロのおじさんが興奮冷めやらぬ口調で言った。


「ちょっと、今のは世界レベルのプレイでしたね!!ていうか、オープニングゲームと違って建築にムラがなくなったというか、それに建築スピードが更に上がったってことはないですか?」


「それは私も思いましたが、試合はまだ始まったばかり!これからたくさん見られることに期待しましょう!!」


 実況の武藤さんに続いて、新界さんが呟く。


「…あのぉ~、皆さん、やっぱりシロナガックスっぽくないですか?あの動き……」


 愛美ちゃん視点の画面が写る。


 遠くにいる敵に対して、スナイパーライフルを使って撃ち抜いた。


「っぅまい!!」

 

「これで2キル目!!MANAMI選手、止まりません!!おおっとここでジャンプパッドを使って更なる敵に向かって行った!!」


 愛美ちゃんは地面に置かれたトランポリンに飛び乗り、跳ね上がる。そのまま敵の籠城する建築の上に乗った。


 またも入り組んだ建築バトルが開催されるも、直ぐに決着が付いた。まるで巨大な津波のように迫る愛美ちゃんの建築。それに飲み込まれる相手は、なす統べなく愛美ちゃんの造った檻の中に閉じ込められてしまった。そして愛美ちゃんは天井に穴をあけて敵のいる檻の中に入るとサブマシンガンで仕留めた。


「編集が速すぎる!!」

「MANAMI選手、オープニングゲームの時のプレイと全然違いますよね?」

「……」


「まるで、オープニングゲームでのYummy選手のようにキルを立て続けにとっていくぅ!!」

 

 ロスアンジェロのおじさんは口を開いた。


「先程新界さんが言ってたこと、わかりますよ。シロナガックスに似てる。うわ、鍬で殺っちゃったよ」


 画面には、愛美ちゃんが銃を使わず相手の造った壁を壊した鍬をそのまま使ってキルをとった場面が写し出されていた。


 私は次々とキルをとる愛美ちゃんにみとれていると、今度は既に1V1をしているプレイヤー達に向かって走り出す。


「既に戦闘が繰り広げられている中に、漁夫りに行ったぁぁ~!!」


 子供達の争いを止めるように、愛美ちゃんは2人の間を割って分断させると、即刻1人を仕留める。


 それを見て、ためらいがちに新界さんが言う。


「……これ──」


 新界さんの言葉を待たずに愛美ちゃんは壁を光速で張り替え、編集し、向こう側にいたもう1人を撃破した。撃破された選手はきっと何が起こったのかわかっていないだろう。


 息を飲む解説者達、そしてとうとう実況の武藤さんも言葉を出しあぐねている。そんな中、先程言いかけていた新界さんが続きの言葉を仕切り直すようにして述べた。


「…これ、もう本人じゃないですか?」


 新界さんの思わぬ言葉に武藤さんが聞き返す。


「え?」


 ロスアンジェロのおじさんももごもごした口調で言った。


「…確かに……」 


 するとルブタンさんが反論する。


「いやいや、プレイヤーがゾーンに入って連続で良いプレイをすることなんてよくあることですよね?」


 新界さんが反論した。


「それもそうですが、迷いのない建築と編集をしていて、相手のことを良く見てるのが窺えるんですけど、時々その読みを外して別のところに建築をしてしまう場面がありましたよね?」


 ルブタンさんは黙り、代わりにロスアンジェロのおじさんが答える。その間にも続々とキルをとっていく愛美ちゃん。


「ありました。あれは確かにMANAMIさんの相手が世界レベルのプレイヤーであったならその建築に引っ掛かってただろうなって言うところに建築をしてましたね。勿論、やられてしまった選手をおとしめているわけではないですよ?大会には独特な空気と緊張がありますから」


「いや、でも……」


 ルブタンさんが反論の言葉を探している間に迫るパルスから逃れようと、先程愛美ちゃんが使っていたアイテムのジャンプパッドを使用してか、空中を滑空している選手がいる。


 かなり遠目から愛美ちゃんはスナイパーライフルを構えて、パルスに沿うようにして飛ぶ選手目掛けて撃った。


 1発。


 2発。


 3発。


 すべての弾が命中し、その選手は絶命する。愛美ちゃんが1発当てるごとに解説者のおじさん達がはしゃぐような声をあげ、そしてとうとう先程の敵をスナイパーライフルで倒しきったあかつきにルブタンさんが叫んだ。


「~っシロナガックスじゃねぇか!!」


─────────────────────


~ぼっち組・渡辺視点~


「すごい!すごいでござるよ!!」


 森氏と通話しながらクラスのもう一人のアイドル、マナティーこと一ノ瀬愛美の応援をしていた。


 マナティーは次々と選手を撃破していく。無双状態だ。現在15キル。


「なんでこんなに上手いんだ?」


「そりゃ勉強できるからでござろう?」


「なるほど、だから僕がいくらゲームを練習しても上手くならないわけか……ってなんでだよ!!」


 軽口を叩き合いながら観戦していると森氏が驚愕する。


「え!!?今聞いたでござるか?」


「なにを!?」


「新界さんの言葉!!」


 僕は森氏と会話をしながらだったので聞き逃していた。

 

「シロナガックスって聞いたことあるでござろう?」


「あぁ、この前田中カナタ杯で優勝したチームのメンバーでしょ?元プロとかだっけ?」


「違うでござるよ!元々は謎のフォトトゥナプレイヤーで有名だったでござる!」


 森氏の語気が少し強くなった。あの大会は元々、ブルーナイツのメンバーがでるから観たのであって、ラバラブのメンツならともかく、プロゲーマーとかはそんなに詳しくなかった。森氏もそうだと思ったが、優勝したシロナガックスのことについて調べていたようだ。


「へぇ~、それがどうしたの?」


「当時、そのシロナガックスがあの大会に出るってことでこっちの界隈ではかなり話題になったみたいでござる」


 森氏のいうこっちの界隈とは、フォトトゥナ業界の事だ。


「うん……で?」


 僕は続きを促した。


「コメント欄を見るでござる!!」


 僕はコメント欄を見ると英語と日本語、スペイン語なんかの言語が大量に流れていた。


「え!?なにこれ?」


 〉マジでシロナガックスじゃね?

 〉is she shironagax?????

 〉うますぎ 

 〉ella es shironagax??

 

「さっき新界さんがマナティーがシロナガックスじゃないかって言ってたでござる!!」


 そしてルブタンというフォトトゥナの初代日本チャンピオンが叫ぶ。


「~っシロナガックスじゃねぇか!!」


─────────────────────


~織原朔真視点~


 本領発揮だ。


 一ノ瀬さんがキルする度に会場の観客達が歓声を上げる。その熱量や声がどんどんと大きくなっている。


 僕らの背後に座っている中学生3人組は、「ヤバい」や「えぐい」としか言わなくなっていた。そして彼等の内の1人がシロナガックスの名前を口にする。


 とうとう、一ノ瀬さんがシロナガックスであるとバレる時が来たのか。こんなにも歓声が上がる中、自分の正体を明かすのってどんな気持ちなんだろうか?


 ──僕がエドヴァルドだと知ったら、リスナーのみんなはどう思うんだろう?一ノ瀬さんのように世界的に有名ではないけれど、こんな風に歓声を上げてくれるのだろうか?

 

 僕がもしもの想像をしていると、隣の薙鬼流がため息まじりに言った。


「かっこいい~……私、この人と一緒に大会出てたんだよなぁ……」


 僕の中で一抹の不安が過る。


 ──ここで一ノ瀬さんがシロナガックスだってバレたら、林間学校中にアーペックスの大会に出たってことが明るみになってしまう……そうなったら結構な問題になりそうなんだけど……


 その時、またしても大きな歓声が起きた。一ノ瀬さんが前回大会優勝者である龍人選手を撃破したのだ。


 その歓声によって僕は不安を一先ず棚上げ状態とした。

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