第105話 似てる
~音咲華多莉視点~
愛美ちゃんの様子が気になる私だが、大会の応援マネージャーとしての責務を果たさなければならない。
現在モニター画面には優勝候補のRain選手が写っている。
まるで昭和から令和までの都会の様子を早送りにして高層ビル郡ができあがる過程を見せられているようだった。私からしたら何が起きているのかわからない。しかし実況と解説の皆さんは当然のように画面から情報を受け取っている。
「資材が足りませんね」
「はい!ここは必ずキルして相手のアイテムを回収したいところです」
相手とRain選手が互いに建築を施しながら移動している。彼がどこへ向かっているのか全くわからない。しかしRain選手が唐突に床を編集して穴を空けると、その中には先程相対していた相手の姿があった。
Rain選手は穴の空いた床に飛び込むとそのまま引鉄を引いて撃破する。相手の無惨に散らばったアイテムを回収し、回復アイテムを使った。
「素晴らしいピースコントロールですね。これで6キル目!」
ピースコントロール。
対戦相手の動きを予測し、相手の行き先に対して先に建築を施して、相手を取り囲む。ピースコントロールという技術は、速度と正確さが求められる。ピースとはつまり、建築で造った壁や足場のことで、それらを上手く活用──コントロール──しながら相手の動き、武器の切り替えやどこに逃げたいのか等をよく観察して自分の意のままに相手の動きを封じ込める。
追い込み漁なんかに例えられることもあるらしいけど、その例えよりかは、囲碁の方がしっくりくるかもしれない。
「早すぎて何がなんだかわからなかったです……」
私がそう言うと、ふみかやポケットジャングルの2人もそれに賛同してくれた。
「彼はもうプロゲーマーと同じくらいの腕前ですからね」
新界さんがそう言うと、実況の武藤さんが勢いよく口を開く。
「おおっとここで、またしても接敵したぁ!!しかも今度の相手は音咲さんの同級生のMANAMI選手だ!!」
「愛美ちゃんっ!!?」
私は両手を祈るようにして握り締めた。画面が2分割されRain選手と愛美ちゃんのプレイ画面が写し出される。
またしても両者建築をしながら移動していく。階段や屋根がまだ完成しきっていないその上を走り、そして置き去りにしていく。
私は愛美ちゃんのプレイ画面を見た。それと同時に新界さんが口を開く。
「MANAMI選手、建築が早いですね」
ロスアンジェロのおじさんがそれに応える。
「いや少しミスってます?」
どこに屋根を造るか、壁を置くか、階段を造るか、相手の動きを見て、読んで瞬時に判断する。そして素早く建築するのだが、狙ったところに建築ができなければ資材の無駄使いになるどころか、ただの障害物となってしまう可能性もある。
ルブタンさんが言った。
「相手がRain君なのでその動きに引っ張られているんじゃないですか?逸る気持ちを押さえきれずにいつもより建築スピードを上げてしまって…その分ミスも出てしまう」
「それにしても早い気が……」
愛美ちゃんとRain選手が2人でトリックハウスのような大きな迷宮を造り上げる中、突然有識者の4人が唸るような声を上げた。
「上手い!!」
「早い!!」
「うおおぉぉ!!」
「すごっ!!」
「Rain選手を閉じ込めた!!まさに光のような速さで先んじて壁をとった!!」
先程、Rain選手がやったように今度は愛美ちゃんがRain選手を木製の小屋に閉じ込めたようだ。
愛美ちゃんは編集を駆使して壁の右側を空け、中にいるRain選手にショットガンを放つ。
しかし、弾は外れた。
実況と解説の皆さんは熱のこもったリアクションをする。
「外すかぁ!!」
「外したぁ!!」
「惜しいぃ!!」
「先制攻撃を外してしまったMANAMI選手、それまでの動きが素晴らしかっただけに悔やまれます!!追撃といきたいところですが、ここでRain選手も撃ち返す!!」
Rain選手はその場でジャンプをしながら、愛美ちゃんに向かって同じくショットガンを放つ。愛美ちゃんはもう一発ショットガンを放つが先にRain選手の弾丸が命中し、撃破されてしまった。
「あぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
「惜しいぃぃぃ!!」
「愛美ちゃぁぁぁん!!」
「いやぁRain選手、間一髪でしたねぇ」
二分割されていた画面は元に戻り、Rain選手のプレイ画面のみを写していた。ロスアンジェロのおじさんは言う。
「MANAMI選手、今の決めてたら世界レベルでしたよ?」
それを受けて武藤さんが言った。
「はい、それまでの建築は見事でした。今大会唯一の女性プレイヤーMANAMI選手、ここでエリミネートです」
私は肩を落とす一方で解説の新界さんは腕を組んで難しい顔をしながら愛美ちゃんのプレイについて言及した。
「あの動き、どっかで見たことあるんですよねぇ~……それにMANAMI選手、予選は結構ギリギリの通過だった気が……」
「はい。予選は49位でしたね」
ルブタンさんが口を挟んだ。
「やっぱり、Rainくんの早さを上回ろうとしたんじゃないっすか?それにしても成長エグいですけど」
この愛美ちゃん会議にロスアンジェロのおじさんも参加した。
「さっき新界さんが言ってた、見たことあるってやつ、シロナガックスのことじゃないですか?」
シロナガックス。私はこの人の名前を知っている。解説の新界さん、ルブタンさんも参加していたアーペックスの大会に出てたストリーマーだ。
──エドヴァルド様と同じチームだった人。
シロナガックスという単語が出て放送席はピリついた。確かルブタンさんが目の敵にしているからだ。
すると、ポケットジャングルの幸田さんが訊いた。
「シロナガックスというのは何者なんですか?」
実況の武藤さんが後を引き継ぐ。
「今、世界で最も注目されている謎の日本人フォートトゥナイトプレイヤーです。最近世界2位のプレイヤーを倒したことでも話題になりました」
「世界2位を倒した!?」
「はい。以前、私が実況を務めさせて頂いた大会に出場するも姿を見せず、声も変えておりました。新界さんとルブタンさんもその大会に出場しておりましたが、シロナガックスさんのチームに1位を奪われましたね。それもあってかルブタンさんがライバル視していて、禁句扱いだったんですけど、仕方ありません。確かに今のMANAMI選手のプレーは少しシロナガックスさんに似てる気もしました」
ルブタンさんが口を開く。
「いや!でもそう、世界2位を倒したんだから俺がやられる動画がそんなに出回らなくなったんで、今はそんなに憎しみみたいなものはないですね」
「もしかしたらMANAMIさんはシロナガックスに影響を受けたのかもしれませんね」
愛美ちゃんは凄い。勉強もできてゲームもできる。今すぐ会ってお話をしたい。何を話したいのか思い付かないけれど、兎に角お話がしたかった。
愛美ちゃんは今悔しがってる?それとも優勝候補の人を追い詰めたんだから満足している?
私にはないもの。その輝きが今、少しだけ見えた気がした。
そしてオープニングゲームの勝者が決まる。