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第103話 フォートトゥナイト

~音咲華多莉視点~


 私達はモニターを見ている。モニター画面の中央には空飛ぶ水色のバスがあった。バスの下にはこれから生き残りをかけた戦いの舞台となる島が見える。アーペックスとは違ってリアルな質感の世界ではなく、3Dアニメのようなポップな世界だ。その島を直線で横断するようにバスは空中を進んだ。


 実況の武藤さんが熱のこもった声で言った。


「さぁ、高校生の頂点を決める戦い!全3マッチ!!そのオープニングゲームが今始まります!!一体誰がビクトリークラウンを手に入れるのか非常に見物でございます!!」


「うわぁ、もう始まってるよ」

「緊張してきた」


 ポケットジャングルの2人は言った。


 バスから続々と選手一人一人が飛び降りていく。私の見ている画面は所謂神視点というもので、マップ全体を見渡すこともできれば、任意の選手のプレイ画面を写すこともできる。


 早速画面が選手のプレイ画面に切り替わった。その選手は傘を差しながらメリーポ○ンズのようにゆっくりと下降していく。


「さぁ、こちらは前回大会優勝者の龍人選手のプレイ画面です」


 龍人選手は下降しながら周囲を見渡している。数人同じように下降していく選手が視認できた。龍人選手は彼等から離れるように着地を決め、持っている鍬で次々と資材を集めた。新界さんの言う通りの展開となった。


「やはり接敵を避けていますね。おや?既に1人落ちてますね?」


 画面右上に残りの人数が記されており、99となっていた。画面がしきりに切り替わる。どの選手が殺られたのか探しているのだ。


 そして画面はとあるプレイヤーの視点で止まる。そのプレイヤーは既に倒された敵の少ない資材を拾っていたところだった。


「おおっと!早くも撃破ポイントを稼いだのは…アジア予選ベスト16のYummy選手だぁ!!」


 うへぇ~、とルブタンさんが口ずさんでから言った。


「強気の攻めですね。1v1では負けないという気持ちが伝わってきます」


「初手は様子見だという相手の虚を付くような攻撃でした。おおっ!また別の相手を見つけて、走ってますね」


 それを受けて新界さんは言った。


「確かに、狭い安地の建築バトルになればキル数を稼ぐのは難しくなりますからね。稼ぐとしたら装備と資材が整ってから、安地が狭まりつつある時に仕掛けるのが一つの手なんですけど、解説の我々でさえ、慎重な立ち回りを意識していましたからね、それをYummy君は逆手にとって序盤からゴリゴリに攻めていってます。この強気な姿勢はやはりアジア大会を経験しているからこそなのかもしれません」


 Yummy選手はまたも1人を撃破した。おお~っと放送席だけでなく、会場からも歓声があがる。


 画面は切り替わり、愛美ちゃんのプレイ画面になった。その瞬間私は叫んだ。


「愛美ちゃん!!?頑張れぇ~!!」


 笑いながらも武藤さんが私の声援を拾う。


「はい、ありがとうございます。こちらは椎名町45の音咲さんの同級生であるMANAMI選手の画面です。良い感じに資材と武器を集めていますね」


 2階建ての家が密集している場所だった。愛美ちゃんは、家の壁を鍬で破壊している。画面を見つめながらロスアンジェロのおじさんが言った。


「いますね」


 その言葉に私は何がいるのかわからないでいたが、解説の新界さん、ルブタンさん、実況の武藤さんも頷いていた。


「窓の外から忍び寄る影が見えました。MANAMI選手は気付いているか?」


 私は目を凝らして画面を良く見た。忙しなく動くプレイ画面に酔いそうになる。愛美ちゃんは、破壊した壁から家を出て、側にある車の影から、外を窺うように出たり入ったりしている。


「気づいてますね。MANAMI選手」


 愛美ちゃんは車の影から木の裏に隠れている小さな点目掛けて銃を連射した。黒い点よりも大きいサイズの数字が表示される。


「うおぉぉ~」

「上手い」

「良いエイムですね」


「しかし、ここで相手は建築を駆使して防御の体勢に入ります!!」


 小さな黒い点の付近に半透明の壁が造られ始める。その半透明の壁はジグソーパズルが徐々に埋まっていくかのように、木製の壁となった。それらの壁が幾つも造られ、小さな掘っ建て小屋のようなモノが出来上がっていく。


 愛美ちゃんはジャンプをしながらその掘っ建て小屋を大きくしようとする相手目掛けて銃を放つ。しかし銃弾は壁に吸い込まれてしまい、それを建築したプレイヤーは無傷だ。そして敵の逃げる姿を確認した後、愛美ちゃんは別のエリアへ向かって走り去った。


「ここは、追わずに一旦ひきましたね」


「良い判断です。そうやって序盤にダメージを稼ぐ必要がありますからね」


「はい、この大会にはストームボーダーが採用されているので、ダメージを与えていないプレイヤーの頭上に雷が落ちてきて強制的にゲームから退出さてしまいます」


「なんですかそれは!?」


 ポケットジャングルの真ん丸とした目を見開いきながら佐藤さんが尋ねる。


「やはり大会になると慎重になって生き残ろうとするプレイヤーが多くいますので、狭い安地の中に70名ほどのプレイヤーがすし詰め状態になるようなことが過去の大会であったんですよ。そうなるとキャラコン云々というよりかは只の運ゲーになってしまうので、その対策としてゲーム中、一定のダメージを与えていない消極的なプレイヤーには雷を落として強制的にゲームオーバーにするシステムが採用されております」


 佐藤さんは理解したのか、怖じけ付きながら言った。


「恐ろしいシステムですねぇ。芸人だったら収録中に笑いが1つも取れなくて、現場から退出させられるってことですもんね」


 ポケットジャングルの幸田さんがそれに返す。


「実際にうちのさたけがそうなってますからね」


「いや寧ろアイツ、一言も喋らないでその場にず~っといるから誰かストームボーダーを発動させてほしいですよ」


 放送席が笑いに包まれた中、画面は今大会の優勝候補Rain選手のプレイ画面に切り替わる。私は名残惜しくも愛美ちゃんから強制的に目を離すこととなった。


─────────────────────


~Rain視点~


 パルス──アーペックスでいうエリアを蝕む炎と同じもの──が迫ってくる。その間にもキルを獲っておきたい。キルログからYummy君が強気に攻めてるのがわかる。


 実力では負けていないと思っているが、大会経験においては僕よりもYummy君の方が上であることは間違いないだろう。その姿勢に僕は敬意を評する。


 パルスが迫ってきていることから僕は安地に向かって走った。しかし直ぐに足を止める。なだらかな草原に敵を発見したからだ。


 豆粒のように小さい敵を遠目からアサルトライフルで撃ち抜く。2発ヒットしたことから僕は前へ詰めた。敵は射線を遮るように壁を建築している。僕はなだらかな斜面をスライディングしながら距離を詰めた。


 敵は自分で造り上げた壁の裏からジャンプをして、こちらに向かって銃を放つ。


 僕もジャンプをしてそれを躱すと、相手は自分の足元に階段を建築してその上に着地をした。階段と言っても一段一段あるわけではなく、90°の直立した壁を45°に傾けたものだ。それを高く積み上げることによって高所、いわゆるハイグラウンドに移動することができる。


 僕も同じように斜めの階段を置きながら相手との距離を詰めた。共に斜め上を駆け上がりながら、相手の位置を確認して、銃を放ちつつ、今度は90°の壁を建築して遮蔽を造りながら相手の動きを牽制する。


 僕は遮蔽の為に造った壁を編集して左下から壁を潜り抜けられるように造り直し、その空いた隙間から更に建築を一瞬で進めていく。斜めに穴を空けた壁の向こうに立方体の部屋を造る。その部屋へ進み、また壁や屋根に編集で穴を開けて、その奥に更なる立方体の部屋を造った。敵の位置を確認しつつ、予測する。


 敵は僕の造った部屋の壁1枚隔てた向こう側にいる。敵も同様にして部屋を造っており、僕よりもハイグラウンド、僕の上を取ろうとしているのが見えた。正面の敵は自分で造った僕から見て右側の壁を編集して穴をあけ、上へ行こうとしている。僕はそんな敵よりも早く動いて、僕のいる部屋の右側の壁に編集で穴をあけて、そこから横っ飛びをして、上空へその身を投げた。そして瞬時に足場を建築しつつ、そこからまたジャンプをして屋根の上で回復を試みようとしている敵目掛けてショットガンを放つ。


 散弾は命中し、僕は距離を一気に詰め、見事撃破することに成功する。資材と武器が散乱した。


 残り65人

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