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第102話 ご学友

~一ノ瀬愛美視点~


 慣れない舞台で緊張が増す。華多莉ちゃんのお陰で少しは和らいだものの、これから本番だと思うと足が震えてしまう。ここで負けて夢を諦めるのか、絶対に諦めたくない。しかしそう思えばそう思うほど緊張というのはやってくるものだ。


 緊張とワクワクは表裏一体であると聞いたことがある。緊張しているのではなく、自分はワクワクしているのだと言い聞かせることによって脳に勘違いを起こさせて、緊張状態を高揚感に変えることができるらしい。


 ──とっくにやってるのに……全然震えがおさまらない。


 あとは、掌に人の文字を書いて飲み込んだり、お客さんが皆じゃがいもであると想像したり、私は掌に「人」と書いたりお客さんの顔をすべてじゃがいもに見立てようとしたその時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「愛美せんぱ~い!!」


 いつもは織原君に対して先輩呼びをする薙鬼流さんのよく通る声が聞こえた。私はじゃがいもの想像を脳内から削除して声のする方を見た。


 そこにはリボンカチューシャをした薙鬼流さんと制服姿の織原君がいた。


 私と目があった薙鬼流さんは、またそのよく通る声で言った。


「頑張ってくださ~い!!」


 それに呼応して織原くんも手を振って応援してくれた。


 チーム、キアロスクーロがそこにいる。アーペックスの大会で優勝したメンバーだ。同じ部屋で互いに鼓舞しながら戦った戦友があそこにいる。


 私はふっと肩の力が抜けるのを感じた。


 なんてことはない。彼等の挑戦と同じではないか。私も挑戦したい。だからこの場にいるのだ。


 ──私が見てきた彼等の挑戦を、今度は私が見せる番だ。


 私は彼等に微笑むと、クルリと反転して、試合会場であるステージの奥へ、一歩足を踏み出した。


──────────────────────


~音咲華多莉視点~


「これからいよいよフォートトゥナイト・ソロ部門の高校生No.1が決まります。ここからは私、武藤兼次むとうかねつぐが実況を務めさせて頂きます。宜しくお願いします。解説には元プロゲーマーの新界雅人さん、フォートトゥナイト初代日本チャンピオンのルブタンさん。そしてゲストにクレイジーゼィーロット、オーナーのロスアンジェロのおじさんにお越し頂きました」


 新界さんとルブタンさん、ロスアンジェロのおじさんと武藤さんは互いに礼をしながら、挨拶をする。武藤さんはそのハキハキとした声で続けて言った。


「そして、椎名町45の音咲さん、三枝さん。ポケットジャングルの幸田さん、佐藤さんにもこの放送席に来て頂きました。宜しくお願いします」


 紹介された私達も挨拶をする。ここは放送席といって、ステージ場を見下ろすことのできるvip席のような場所だ。


「まず新界さん、会場のこの雰囲気はどうすか?」


 ヘッドセットを付けた新界さんは言った。


「はい。会場の盛り上がり、高校生達の力強さ、ここからどんどんと新しい世代が台頭して、この先日本のeスポーツ業界が更に活性化していくような、そんなエネルギーを感じますね」


「その通りですね。この場の雰囲気、100人が一堂に会するパワーというのはここでしか感じられないものなのかもしれないです。ルブタンさんは如何ですか?」


 ルブタンさんがヘッドセットのマイクに向かって話した。


「高校生といってもレベルは物凄く高いので、まず間違いなく日本のフォトトゥナシーンで語り継がれていく戦いになるんじゃないかと思っています」


「はい!私もこの場で実況ができることを本当に嬉しく思います。今日は高校生の大会になりますので、あまり暴言紛いのことは控えるようにお願いします」


 ルブタンさんは配信上で忌憚のない言葉を述べることがよくあるらしい。


「わかっとるわ!!」


 ルブタンさんの返しに私達は笑った。


「はい。軽い暴言を頂いた後で申し訳ありませんが、優勝賞品としてCZカップの出場権を提供してくださったロスアンジェロのおじさん。如何でしょうか?」


 ロスアンジェロのおじさんは口を開く。


「もうね、入場シーンだけで込み上げてくるモノがありましたね」


 佐藤さんがツッコム。


「早くないですか?」


 おじさんは後ろを振り返って佐藤さんに笑いながら言った。


「自分でも驚いてますよ!でも本当に、僕が高校生の時だったらありえないようなことが起きてるんですよ」


「そうですね。本当に大会を主催してくださった方々、スポンサー企業の皆様、選手、選手達を支えて下さったご家族やご友人には本当に感謝しかありません。えぇ~、そして椎名町45の音咲さん。今大会唯一の女性選手がお友達ということで──」


 私は食い気味に答える。


「はい!愛美ちゃんは生徒会に入っていたりクラスのまとめ役でもあるので、そんな彼女がこの大会に出てるなんて本当にビックリしてます」


 武藤さんは言った。


「我々も驚きましたよね」


 新界さんやルブタンさんも頷く。ロスアンジェロのおじさんが後に続いた。


「ご学友というところは確かに驚きましたけど、女性プレイヤーが最近増えた印象ですね。それにこれはeスポーツの良いところですよね。フィジカルスポーツとなるとどうしても男女の体格差というものが出てきてしまいますが、このeスポーツでは女性が男性をねじ伏せるような光景が見れますからね。彼女には頑張って貰いたいです」


 私は言った。


「はい!頑張ってほしいです!!」


 ポケットジャングルの佐藤さんがツッコんだ。


「だいぶ私情が入ってますが大丈夫ですかね?」


 放送席の一堂は笑った。武藤さんがまとめる。


「音咲さんの気持ちはわかりますが、是非全ての選手にエールを送って貰いたいです」


「みんなぁ~!!頑張ってぇ~!!」


 私のほぼ投げ槍な言葉を切っ掛けに、実況の武藤さんは大会のルール説明と簡単なフォートトゥナイトがどういったゲームなのかを解説していく。


 全部で3マッチ。順位によってポイントが違うこととそれとは別に相手を撃破するエリミネートポイントが加算されるとのことだ。


 新界さんがどのような戦いになるのかを述べた。


「序盤はなるべく接敵を避けて、資材と武器を揃えるような戦いになるんじゃないかと予想されますね」


「しかし3マッチという、少ない戦いでは積極的に攻めてくる選手もいるんじゃないですか?ルブタンさん?」


 ルブタンさんは応えた。


「そうですね。3マッチということでかなり運的要素が含まれる戦いになると思います。それにしても序盤は新界さんのように大人しい戦いになるんじゃないですか?」


 ポケットジャングルの佐藤さんが尋ねる。


「それはどういうことですか?」


「初めは様子見をしつつ徐々に大会の空気に慣れることが大事になってきますね。オープニングゲームの結果次第では次のゲームとラストゲームの攻め方が変わってくるので、余裕を持つためにも初めは無理に攻めずに上位を狙っていくのが定石ということです」


 なるほどとポケットジャングルの2人は感心していた。


 そしていよいよフォートトゥナイト・ソロ部門の火蓋が切って落とされた。

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