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7話「出がらし第二王子はクズ」





――第二王子視点――




俺の名前はリカード・クラウゼ。


クラウゼ王国の第二王子だ。


世間では優秀な部分は第一王子に全部持ってかれた出がらし王子だの、ポンコツ殿下だの、税金泥棒の役立たずだの言われている。


そう言われると腹が立って、学園に通っていた頃は平民の女を犯してうっ憤を晴らしていた。


嫌がる女を手籠にして、用が済んだら捨てる。


そんな生活を繰り返していた。


俺と関係を持った女が、その後どうなったかは知らない。


みんな学園を辞めて行ったから、知りようがない。


女で遊ぶのに飽きたら平民の男を殴った。


特に平民のくせに俺より良い成績を取る身の程知らずどもは、取り巻きを使ってボコボコにしてやった。


そいつらがその後どうなったか、俺は知らない。


そいつらも学園を辞めてしまったからな。


そんな俺も今年で十九歳。


学園を卒業したことだし、そろそろ婿入り先を決めなくてはならない。


美人な娘がいて、沢山お金を持っていて、うるさい(しゅうと)がいない家に婿入りしたい。


第二王子の俺が力を持ちすぎることを危惧した父が、「兄の結婚相手よりも爵位の低い家の娘と結婚するように」と口うるさく言ってくる。


第一王子である兄は王太子で、兄嫁は王太子妃だ。


王太子妃の実家は公爵家だから、俺は侯爵家以下の家に婿入りすることになる。


王太子妃は国一番の美人で、完璧な淑女で、才女と褒め称えられている。


どうせ結婚するなら兄嫁より優れた女性と結婚したい。


とはいえ完璧な淑女と称される、王太子妃に全ての面でまさっている女を、この国で見つけるのは不可能だ。


そんなことは俺だってわかっている。


公爵令嬢は王太子妃になるために、莫大な金と時間を費やしている。


完璧な王太子妃を作るための国家プロジェクト、そう言っても過言ではない。


第二王子である俺の嫁には、そんな金はかけられない。


だからせめて兄嫁に一点だけ勝ちたい。


兄嫁よりも容姿の優れた女性と結婚したい。


婿養子に入ったあと、お金に苦労したくないから、お金持ちの家の娘がいい。


ナイスバディだったらなお良し!


どこかに美人で、金持ちで、侯爵家以下の身分でナイスバディの女性はいないものだろうか。


今夜の舞踏会には国中の独身女性が集まる。


素晴らしい女性と出会い、より良い条件の家に婿入りしたい。




☆☆☆☆☆





その女性が会場に入ってきた時、会場がどよめいた。


その女性は桃色の髪をハーフアップし、サーモンピンクのシルクのドレスを身にまとっていた。


彼女の足元には金の靴が光り、ヌーディーピンクのインペリアルトパーズのついたイヤリングとネックレスを身につけていた。


「美しい……!」

「美人だな、どこのご令嬢だ?」

「まるで女神が降臨されたようだ」

「妖精のお姫様みたい」

「綺麗だわ。その上スタイルも抜群ね」


会場に集まった客たちが、口々に彼女の容姿を褒め称える。


あのドレスは最近帝国で流行しているものだ。


作り方が難し過ぎて、この国の職人には仕立てられないはずだ。


彼女はどうやってあのドレスを手に入れたのか?


それに彼女が身につけているインペリアルトパーズはかなりの大きさだ。


彼女のネックレスに使われている宝石は、拳ほどの大きさがあった。


彼女の家は、かなりの財力を持ってると見て間違いないな。


そして何より彼女は容姿が素晴らしい!


こんなに綺麗な女性を見たのは、生まれて初めてだ!


国一番の美女と褒め称えられている、兄上の嫁が霞むほどの美しさだ!


彼女と結婚すれば兄上の鼻を明かしてやれる。


しかも彼女の実家は、拳大のインペリアルトパーズを買えるほどの金持ちだから、一生遊ぶ金に困らない。


俺はすぐに側近に尋ねた。


「今しがた会場に入ってきた、サーモンピンクのドレスをまとった桃色の髪の令嬢はどこの家の娘だ?」と。


側近は名簿と照らし合わせ答えた。


「カウフマン伯爵家の養女、アルゾン・カウフマン嬢、十六歳です」


伯爵家か……婿入り先としては申し分ない。


しかし養女というのが気になる。


「養女とはどういうことだ?

 それとカウフマン伯爵家についてもう少し詳しく教えてくれ。

 特に財力とか経済状態とかそのへんを詳しく知りたい」


「カウフマン伯爵家の領地は広く、森も川も大地が清らかで、毎年豊作に恵まれ、モンスターの被害を受けることもなく、商売も上手く行っています。

 カウフマン伯爵家の営む商売は全て成功し、『カウフマン伯爵家が手を出すものに外れ無し!』と周囲から称賛される程です」


「カフマン伯爵家は裕福なのだな?」


「はい、この国の貴族の中でも一二を争うほど裕福です」


よし、財力と見た目はクリア。


問題は養女のアルゾンが、伯爵家の家督を継げるかどうかだ。


「大事なことだから慎重に答えろ。

 間違いは許されないぞ。 

 養女のアルゾンはカウフマン伯爵家を継げるのか?」


俺は婿入り先を探している。


いくらアルゾンが美人でも、伯爵家が裕福でも、跡継ぎでない娘と結婚しても意味はない。


「そのへんはわたくしからは何とも……。

 カウフマン伯爵夫人に直接お尋ねになられた方が、よろしいのでは?」


「それもそうだな」


「本日のパーティに、カウフマン伯爵夫人も娘のアルゾン嬢と一緒に参加しております」


俺は足早にアルゾンとカウフマン伯爵夫人に近づいた。


「ごきげんようカウフマン伯爵夫人、並びにカウフマン伯爵令嬢」


「キャー!

 王子様よ!

 王子様があたしに話しかけて下さったわ!」


カウフマン伯爵令嬢は近くで見ると、遠くで見たときよりもかなり美しかった。


白磁のようなきめ細やかな肌、宝石のように輝く珊瑚色の瞳、艶のある唇……!


どれをとっても最高だ!


ちょっとアホっぽい話し方だが、そこがより魅力的だ!


「カウフマン伯爵夫人、少し尋ねたいことがある」


「殿下、娘のアルゾンに話しかけてくださりありがとうございます。

 もしよろしければ、娘と一曲踊っていただけませんでしょうか?」


カウフマン伯爵夫人は赤い髪と同じ色のドレスをまとっていた。


年甲斐もなく派手なのがいい!


大勢の中でも見失うことがないからな!


母娘揃って気に入った!


まずアルゾン嬢が後継ぎなのかどうかについて確認したかったが、美しい令嬢と「ダンスを踊ってほしい」と言われたら断る理由がない。


家のことをあれこれ聞くのは、ダンスのあとでも遅くはない。


俺はそう考えてアルゾンをダンスに誘った。


「カウフマン伯爵令嬢、俺と一曲踊っていただけますか?」


「もちろんですわ、王子様!」


カウフマン伯爵令嬢の声はかん高く、頭の芯までキンキン響いた。


そんな声も愛らしい。


俺は誰もが見とれる容姿端麗な令嬢と踊れて、夢見心地だった。


アルゾンに何度も足を踏まれたが、絶世の美女と踊れるのだ。


足の痛みなど、蚊に刺されたようなものだ。


彼女とダンスをしている間、周囲から羨望の眼差しが注がれた。


絶世の美女と踊っているのだから、羨ましがられて当然か。


兄上は義姉と踊るとき、こんな美味しい思いをしてきたのだな。


これからは俺が羨望の眼差しを浴びる番だ。


国一番の美人と結婚して、兄上を悔しがらせてやる。


そんなことを考えていたら、カウフマン伯爵令嬢との、夢のようなダンスの時間はあっという間に終わってしまった。


まずはアルゾンが家督を相続できるのか、カウフマン伯爵夫人に確認しなくては。


ダンスの後、カウフマン伯爵夫人を呼び出し、伯爵家の家督の相続人について尋ねた。


カウフマン伯爵夫人は後妻で、アルゾン嬢はカウフマン伯爵夫人の連れ子らしい。


しかしカウフマン伯爵は、亡くなる前にアルゾンと養子縁組をしているらしい。


なのでアルゾンにも伯爵家を継ぐ権利がある。


カウフマン伯爵夫人の話では、生前カウフマン伯爵は「実子のエラではなく養子のアルゾンに伯爵家の家督を継がせる」という遺言書を残したらしい。


先代当主の遺言書があるなら問題ない。


アルゾンは伯爵家を継ぐことができる。


伯爵の実子であるエラという娘の事が気になるが、エラは独身だという。


もしもエラという少女が、伯爵家の家督相続について、煩く言ってくるようなら、彼女を俺の愛人にしてしまえばいい。


そうすれば全て丸く収まる。


俺は婿入り先をカウフマン伯爵家に決めた。


「カウフマン伯爵令嬢!

 出会ったばかりでこのようなことを言うのは失礼かもしれませんが、あなたを一目見た瞬間、俺の心はあなたに奪われました!

 どうか俺と結婚してください!」


俺はアルゾンの前に跪き、彼女にプロポーズした。


「はい、もちろんです! 

 喜んでお受けします! 王子様!」


アルゾンはニタリと笑い、私の手を握りぶんぶんと振った。


見かけによらずアルゾンは握力が強いんだな。


この握力ならりんごも握り潰せてしまいそうだ。


そんなところもまた彼女の魅力の一つだ。


美女がニタニタと下品に笑う、そのギャップもたまらい!


「会場にいる招待客の皆様、聞いてください!

 俺はカウフマン伯爵家のアルゾン嬢と結婚します!」


俺が高らかにそう宣言すると、会場から割れんばかりの拍手が起こった。


「あんな美人と結婚できるなんて羨ましい!」


という囁きがあちこちから聞こえてきて、俺の自尊心を満たしてくれた。


アルゾンは鼻の穴を膨らませ、ニタニタと笑いながら会場の皆に手を振っていた。


美女がやるとどんな仕草も絵になるな!


素晴らしい!


俺は素晴らしい伴侶を手に入れた!


俺の婚約者のアルゾンは、美人でスタイルもよく、しかも金持ちだ!


俺の人生は順風満帆だ!



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