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3話「二人の精霊と一人の魔法使い」





――三人称――




ソルシエールの魔法で宮殿のように豪華になった屋根裏部屋。


その隅にある天蓋付きベッドで、金色の髪の美しい少女がすやすやと寝息を立てている。


「エラは眠ったみたいだね」


「日の出前から夜遅くまで、働かされているのだ。

 ベッドに入った途端、泥のように眠っても仕方あるまい」


「一刻も早くエラをこの家から連れ出してあげたいな。

 魔法で部屋を豪華にしたり、怪我やあかぎれを治したり、疲労を軽減したりはできる。

 だけどエラが心無い家族に一日中家事を強いられていたのでは、彼女がかわいそうだ。

 それにエラと遊べないしね」


ルドルフ、ウォルフガン、ソルシエールはエラの寝顔を覗き込んでため息をついた。


三人の姿はエラが起きていた時は五歳児ぐらいの背丈だったが、今は成長し二十歳前後の姿をしている。


三人とも容姿端麗で人にはない、神々しいオーラをまとっている。


ルドルフは栗色の髪に翡翠の瞳の見目麗しい青年の姿に。


ウォルフガンは銀色の長髪にアメジストの瞳の容姿端麗な青年に。


ソルシエール様は金色い長い髪を後ろで一つに束ねた、サファイアブルーの瞳の絶世の美青年に変わっていた。


「部屋にかけた魔法も朝までに解くように言われてる。

 『昼間誰かが屋根裏部屋に入ってきて、屋根裏が宮殿のようにきらびやかになっていたらびっくりしてしまうわ』……と言われてな」


ソルシエールが残念そうに呟いた。


「夜の数時間しかエラと一緒にいられないのは辛いよね。

 昼間も遊びたいし、昼間も可愛いドレスも着せたいし、屋敷の外にも連れ出してあげたい」


ルドルフが残念そうにささやく。


「エラに『共に家を出よう』と言っても、『父との約束があります。義妹(アルゾン)が素敵な殿方と婚約するまではこの家を出られません』の一点張りだしな」


ウォルフガンが眉間にしわを寄せ、深く息を吐いた。


「要するにエラを自由の身にするためには、彼女の義理の妹であるアルゾンを適当な誰かと婚約させればいいって話だよね?」


ルドルフがボソリと呟いた。


「エラの義妹のアルゾンは、容姿が醜い上に性格も悪く、根性が曲がっていて、意地悪で怠け者のろくでもない女だぞ。

 あんなのと婚約したがる男などいるわけがないだろう」


ウォルフガンが吐き捨てるように言った。


カウフマン伯爵夫人は厚化粧で鬼ババアのような恐ろしい目つきをしている。その上、年甲斐もなく胸の大きく開いた服を着ていた。


その娘のアルゾンは、ボサボサのピンクの髪に、そばかすだらけの肌、曲がった鼻に突き出た顎をしていた。彼女は容姿だけでなく心も醜かった。


カウフマン伯爵夫人とアルゾンがエラを蔑み邪険に扱うので、伯爵家に仕える他の使用人たちもエラを軽んじ、自分たちの仕事をエラに押し付けるようになっていた。


本来ならエラこそが伯爵家の血を引くお嬢様で、仕えるべき主人であるのに……彼らは自分たちに都合の悪い事実に気づかないフリをした。


使用人たちはカウフマン伯爵夫人に言われるがままに、エラの酷い噂を流した。


「長女のエラ様は義妹のアルゾン様を虐めている」「エラ様は使用人に暴力を振るっている」「エラ様は金遣いが荒い」などなど……。


領民たちはその噂を信じ、エラのことをろくでも無い娘だと罵った。


実際には金遣いが荒いのも、使用人に暴力を振るっているのもアルゾンで、アルゾンに虐められているのはエラの方なのに……。


エラが伯爵家で軽んじられるのは、エラの実父であるカウフマン伯爵のせいでもある。


カウフマン伯爵が後妻に言われるがままに、アルゾンを養子にし、カウフマン伯爵家の後継者にしてしまったからだ。


そのため継母は、夫が亡くなるとすぐにエラを屋根裏部屋に閉じ込め、使用人として扱うようになった。


そのへんの事情をよく知っている三人は、継母とアルゾンだけでなく、故人であるカウフマン伯爵も、伯爵家に仕える使用人も、伯爵領で暮らす民も全部嫌いだった。


「その上、アルゾンは『男爵令息や子爵令息は身分が低いから嫌!』と文句ばっかり言ってるしね。

 あんな不美人で、欲深く、教養のない女を、高位の貴族や王族が嫁に欲しがるわけがないのに」


ソルシエールがげんなりとした表情で呟く。


「そのことなんだけど、僕にいいアイデアがあるんだ。

 今度第二王子が婚約者を決めるために王宮パーティを開く。

 そこにアルゾンを送り込もうと思うんだけど」


ルドルフの提案に、残りの二人は目をしばたたかせた。


「この国の第二王子は金と欲に目がない女好きの遊び人で、おまけに頭が悪く、暴力的で、選民意識が強く、金遣いが荒い男だそうだな」


ウォルフガンが顎に手を当て考える仕草をした。


「そうそう顔が多少良いだけで中身はゴキブリ以下。

 王族は第二王子の本性を必死に隠しているけどね。

 国王は第二王子が学生時代にやらかしたあれこれをうやむやにして、金持ちの貴族の家に婿養子に出そうとしているみたいだね」


ソルシエールが紅茶の入ったカップを手に取り呟く。


第二王子は学生時代に平民の女に手を出しまくり、彼女たちの処女を奪い飽きたら捨てていた。


第二王子のせいで婚約が破談になり、修道院に送られた女性は十人を超えていた。


中には精神を病み、自ら命を断った者もいる。


さらに第二王子は、自分より成績が良い平民を、取り巻きに命じて問答無用でいたぶっていた。


彼らの殆どは第二王子に無実の罪を着せられ、学園を退学になっていた。


「アルゾンを押し付けても心が痛まない相手だと思わない?」


ルドルフがいたずらっ子のような笑みを浮かべ、二人に提案した。


「確かにそうだね。

 破れ鍋に綴じ蓋、お似合いの二人かもね」


ソルシエールがカップを受け皿に戻し頷く。


「アルゾンをパーティに送り込むのは賛成だ。

 問題は第二王子がアルゾンのような特に魅力のない女を選ぶかだ」


ウォルフガンが眉間にしわを寄せ、ルドルフに問う。


「ソルシエールがアルゾンにすごく美人に見える魔法をかけるってのはどう?

 第二王子は王太子が美人で完璧な淑女と称される公爵家の令嬢と結婚したことを羨んでいる。

 第二王子は年も地位も頭の良さも顔の作りも、王太子に負けているからね。

 彼は兄嫁以上の美人との結婚を望んでいる。

 まぁ、ついでに一生遊んで暮らせるだけのお金を持っている家ならなおよしと言ったところかな?

 アルゾンを絶世の美人に見えるように魔法をかければ、第二王子は彼女に求婚するんじゃないかな?」


ルドルフが楽しそうに笑みを浮かべながら、他の二人に提案した。


「なるほど……頭の足りない第二王子は、お金と顔目当てで婚約者を選ぶわけだね」


ソルシエールがふむふむと頷く。


「第二王子は相手の家に婿入りするわけだからな。

 相手の家の財産は、ある意味妻になる者の顔よりも重要かもしれんぞ」


そう言ったウォルフガンの顔には、蔑みの色が宿っていた。


「カウフマン伯爵家の財産は申し分ないからね。

 僕が聖なる魔法で土地を浄化しているから、伯爵領にはモンスターは出ない。

 ウォルフガンが土地を豊かにしているから毎年豊作。

 そしてソルシエールが商売が繁盛するように魔法をかけているから、伯爵家の商売は順風満帆。

 王宮で開かれるパーティに参加するアルゾンに、豪華な宝石やドレスを身につけさせれば、第二王子は伯爵家が裕福だと気づいて彼女にプロポーズするだろう」


ルドルフが楽しそうに計画を話す。


「そういう事なら任せておけ!

 ネックレスとイヤリングは私が用意しよう!」


ウォルフガンが悪い笑顔を浮かべながら言った。


「ボクは馬と馬車を用意するよ」


ソルシエールが黒い笑みを浮かべながら呟く。


「それなら僕は、アルゾンがパーティに着ていくシルクのドレスと金の靴を用意しようかな」


ルドルフがいたずらっ子のような笑みを浮かべながら話す。


「それじゃあ今から、アルゾンを第二王子と婚約させ、エラをカウフマン伯爵家から解放する作戦を開始する!

 この計画が成功するかどうかは、ソルシエールの魔法と僕たちが用意する道具の質にかかっている!

 みんな頼んだよ!!」


「「おおーー!」」


ルドルフの掛け声にウォルフガンとソルシエールが答える。


エラの寵愛を巡り、普段仲の悪い三人が一致団結した瞬間だった。






☆☆☆☆☆






数日後、カウフマン伯爵家には三人の商人が訪れる。


一人は隣国からやってきた宝石商。


彼は大きな宝石のついたアクセサリーを破格の値段で売りにきた。


伯爵夫人とアルゾンは、目をギラギラとさせ宝石を買い漁った。


二人目は帝国からやってきた商人。


彼は帝国で流行りのドレスと靴を何着も伯爵夫人とアルゾンに見せた。


そしてあり得ないくらい安い値段で、ドレスと靴を伯爵婦人に提供した。


三人目は辺境の地からやってきた商人。


彼は商売を辞めると言って、立派な馬と馬車をただ同然で伯爵夫人に譲った。




読んで下さりありがとうございます。

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