異世界転移はプロにお任せ!
朝、起きてパンをかじりつつ学校へと向かう。
成績が特別良いわけではないし、運動だって特別得意というわけではない。
どこにでもいる平凡な男子高校生。
それが俺、杉田 圭介である。
いや……実は、一つだけだけど平凡じゃない部分もあったりするのだけれど……
「ケースケ!おはよ~!」
不意に、背後から声をかけられると同時に、背中に強い衝撃を受ける。
「ミサトぉ……少しは加減して叩けよ。背骨が砕けるだろ」
「アハハハ!私が軽く叩いたくらいで骨が折れるわけないじゃん?ケースケは大げさだねぇ~」
自分の腕力を自覚していないのか、朝から俺にテロを仕掛けてきた小柄な女子高生は、笑いながら俺の隣を歩き出す。
彼女の名前は、古森 美里。長い黒髪と大きな瞳が特徴的な少女だ。
同じ学校に通ってはいるが、クラスが違うどころか、選考学科からして違っている。
出身中学が一緒なわけでもないし、部活が同じとか、趣味が同じとか、そういう事も一切無いし、実は昔から知り合いだった幼馴染だ、とかいう設定も、もちろん無い。
おそらくだが、俺が普通に生きていて、接点を見つける方が難しいんじゃないかと思えるような少女だ。
じゃあ何で今、仲良さそうに会話しているのかというと……
「それで?異世界から持ってきたチートスキルを持ったままの生活には、もう慣れた?ケースケ?」
そう!そうなのだ!
俺は一度死にかけて、コッチの体が意識不明の重体になっている間、精神の方は異世界へと転移して、大冒険をしていたのだ。
もちろん、よくわからない神様的な人に、チートスキルを一つだけもらっている。
そして、異世界での問題を解決して、手に入れたチートスキルごと、コチラの世界へと戻ってきたのだ。
そう!それこそが、俺が平凡ではない、たった一つの部分なのだ。
……でミサトは、俺が異世界帰りだという事を唯一知っている人物なのだ。
接点は……たぶん、それだけだと思う。
では何故、俺が異世界帰りだという事を、ミサトが知っているのか?
そこには、話すと長くなるエピソードが存在する。
それは、俺が死にかけた日までさかのぼる……
何の変哲もない日常を送り、帰宅しようと校舎を出た俺だったが、その日は何となく寄り道……というか、ちょっとブラブラしてたい気分だった。
まぁ、すぐに帰っても暇だから、少し時間潰しでもしようかと考えていただけなんだけど……
ともかく俺は、直帰せずに、何となく校舎裏でも探検しようと歩を進めた。
そして、そこで偶然遭遇した自殺現場。
屋上から落下してきたミサトを、見事にナイスキャッチしたのだ!
あ、ゴメン。嘘ついた。
いくらミサトが小柄とはいえ、屋上から高速で落下してくる40㎏弱の物体を、平然と受け止められるわけもなく、あえなく潰されて生死の境をさまよう事となった。
つまるところ、簡単に要約すると……
俺はミサトに巻き込まれて異世界転移したのだ。
そう!つまり、異世界転移していたのは俺だけじゃなく、ミサトも一緒だったのだ!
だからミサトは、俺がチートスキル持ちなのを知っているのだ!
……うん、長くなると思ったけど、実際に説明してみると、意外と短かったな。
「あのなぁ……スキル持ちでの生活って言っても、俺のスキルは日常じゃ使い道無いの知ってるだろ?しかも1日に1回しか使えないっていう制限付きだ。日常生活には何の支障も無いっての……」
「そう?悪い人を懲らしめたりするのに使えるんじゃないの?」
「悪人懲らしめるために使って殺人犯になれと!?世間的に『悪い人』になるの俺だぞ!」
誇張でもなんでもない。俺が手に入れたスキルは危険すぎるのだ。
だからこそ、神様も制限を付けたのだろう。1回使ったら、そこから24時間は使用不可になる。
異世界では、そのスキルで、敵との熱い駆け引きなんかして、ちょっと胸熱展開を楽しめたりもしたけれど、現世で使ったりしたら、即逮捕案件になってしまうだろう。
使えても使わない……いや、使えないなら、スキルなんて無いもの同然だ。
スキルが無い。つまりは平凡な一般人と何も変わらないのだ。
「アハハ!大丈夫大丈夫!何も知らない人達が、ケースケを『悪人だ!』って言っても、私は、ケースケが『良い人だ!』って知ってるから!」
コイツは……『今、良い事言ったぞ!』みたいなドヤ顔してるけど、世間的に悪人扱いされるのが嫌だって言ってんだぞ俺。
「はぁ~……だから、使わねぇって言ってるだろ?ったく……もうちょっと違う能力が欲しかったよ」
「え~?じゃあケースケは、どういうスキルが欲しかっ……」
ドンっ!!
調子に乗って、ちょっと可愛い仕草で、俺の前に飛び出してきたミサトの姿が、凄まじい音と共に、視界から消える。
狭い路地の、塀に囲まれた見通しの悪いT字路で飛び出したせいだろう。
塀の向こう側から走って来た車に、ミサトは豪快に跳ねられたようだ。
急停止して、車から出て来て、青い顔をしてミサトに駆け寄っていく運転手のオジサン。
「はぁ~~…………」
深いため息が漏れる。
運転手のオジサン可哀想に……
ん?ミサトの心配?
するわけない!いや、する必要が無い事を俺は知っている。
っていうか、コレだよコレ!こういう日常的に無敵感をかもし出せるような、そんなスキルが欲しかったんだよ俺は!
「大丈夫!大丈夫です!ごめんなさい!!急に飛び出したりしちゃって……なんか、持ってたバッグがクッションになったみたいで、ケガしてないんで!」
すぐに立ち上がって、運転手のオジサンに、色々と言い訳しながら謝りだすミサト。
何が『クッションになったみたい』だよ?
その、弁当と筆記用具しか入ってないスカスカの手提げ袋が、どうやったらクッションの代わりになるんだよ?
まぁ何だ……えっと、ミサトも俺と一緒に異世界転移しているわけで、一緒にチートスキルを貰ってたりしてて……
つまるところ、コレがアイツのチートスキルであって……いや、違うな……正確には、アイツが持ってるチートスキルの一つなのだろう。
「いやぁ~……アハハ……ちょっとビックリしちゃったよ」
運転手のオジサンを丸め込んで、何事も無かったかのように、ちょっと照れくさそうにミサトが戻ってくる。
「にしても、ちょっと参ったね……あの程度じゃ死ねなくなっちゃってるよ私。次はどうやって異世界行こうかな?電車に飛び込んだくらいじゃダメかな?……いっその事、新幹線にでも轢かれてみようなか?」
何か話しかけてきているが、脳が内容を理解するのを拒んでいるような感じがする。
ノンブレーキで走行してきた車に跳ねられて『あの程度』?
とりあえず、どう補足説明しようか?
まず、異世界転移する事は、さして難しい理屈はいらない。
死にかけて意識不明な状態になればいいのだ。
ミソなのは『死にかける』って部分だ。
完全に『死んで』しまったら、身体との繋がりが無くなった魂は、リセットされて次の身体へと『転生』してしまう。
新たに生まれる場所は異世界かもしれないけれど、記憶も魂ごとリセットされている上に、1から成長しなおさなくてはならない。
……まぁ、稀に記憶を持ったまま異世界に転生する希少パターンはあるらしいが、そうだとしても、今のこの世界に戻って来る事はできないのだ。
異世界に『転移』するのは、身体と魂の繋がりが大切なのだ。
完全に死ななければ、魂の持つ情報?経験?はリセットされないし、異世界での用事が済んだら、繋がりを辿って、元の世界に戻って来れる。
まぁ、もし異世界で死んでしまったりした場合は戻って来れないけどね……
異世界で魂がリセットされてしまえば、現世に残った身体も死んでしまう、ってわけだ。
ともかく何だ?とりあえず、異世界に記憶持ったまま転移するには、コッチの世界で、本当にギリギリのラインで死なないように、死にかけなくてはならない。
……で、次。
ミサトがさっきポロっと言った「次はどうやって異世界行こうか?」って言葉。
察しがいいと気付くかもしれないが、コイツが異世界行ってるのは、1度や2度の事ではないのだ。
じゃあどれくらいか?
もちろん俺も気になって聞いてみた事はある。
返答は「10回から先は数えていない」だそうだ……そして、その都度チート能力を貰っている。
つまりコイツは、1つでも持っていたら異世界でもチート扱いされるような能力を、現世での身体に、最低でも2桁内包した、いわば『歩く凶器』と化しているのだ。
ミサトが俺に語った武勇伝を、俺なりに考察した感じだと、恐らくは最初と2番目に手に入れた能力が悪かったんだと思う。
ミサトが最初に手に入れたスキルは『不死』……絶対に死なないのだ。
普通なら死ぬような衝撃を身体が負っても、致死量の毒を喰らっても、それこそ心臓を握りつぶしても、ミサトは死なない。
死なないながらも、身体を動かせない程のダメージは負う。
つまりは、常に異世界転移に必要な『ギリギリ死なないライン』で止まるのだ。
徐々にではあるが、身体の傷は治るし、毒は浄化されるし、臓器は修復される。
ともかくミサトは、この無限コンテニューを活かして、文字通りトライ&エラーを繰り返して、6年かけて異世界の問題を解決して戻って来たらしい。
ただ、俺も異世界から帰って来た時驚いたのだけれど、異世界と現世での時間の流れが違うのだ。
異世界での6年は、現世では半年しか経過していなかった。
話は少し変わるが、ミサトは今でこそ、かなり明るい性格だが、中学の時は結構陰湿なイジメにあっており、内向的な性格だったらしい。
最初の異世界転移も、イジメを苦にした自殺だったらしい。
そして、異世界から戻って来たミサトを待っていたのは、変わらないイジメだった。
異世界での問題を解決できたミサトだったが、不死のスキルでは、肉体的なダメージは無視できても、精神的なダメージはどうにもできずに、イジメに対抗する事ができなかった。
結果ミサトが取った行動は、再度の自殺だった。
そして、再び異世界転移した……
ここで初めてミサトは、異世界からスキルを引き継いでいた事に気が付いたらしい。
そんなこんなで、ミサトが2番目に手に入れたスキルは『痛覚超軽減』。
ミサト曰く「銃で撃たれても、待針か何かでちょっとチクッとされたくらいにしか痛みがない」だそうだ。
つまり何だ……コレのせいで『苦しみの無い自殺』が可能になってしまったのだ……まぁ『自殺』とはいっても、実際は死なないんだけど……
とにかく、ミサトはこの2つを活かして、イジメに対抗できるスキルを手に入れるために、異世界転移を繰り返した。
その結果、異世界転移時にスキルを与えてくれる神様に存在を認識された。
5回目くらいから「またお前かよ……」って呆れられたそうだ。
そりゃあそうだよな……同じ立場だったら俺も言ってると思う。
8回目くらいからは、スキルチートなせいで、異世界での問題解決に要する時間は、現地時間でも2か月程度……現世時間だと5日程度まで短縮されていた。
ここまでくると神様も何かを諦めたのか、厄介な問題を抱えた異世界が出てくると、ミサトに助力をお願いするようになったらしい。
そこまで頻繁ではないが、神様から出動要請があると、ミサトは自殺未遂を決行して異世界を救いに行く、という図式がジワジワと完成していった。
まぁつまりはアレだ……俺は、そんなミサトの自殺未遂に巻き込まれて、異世界に同行するハメになったのだ。
あ、ちなみに……
イジメに対抗するスキルは9回目で手に入れた『瞬間移動』のスキルだったらしい。
「真夜中に、私をイジメてる子達の部屋に瞬間移動して、寝てる枕元に立って『私をイジメるのやめて……』って囁き続けたの。あの頃の私って内気だったから、面と向かって言えなかったんだ。だから睡眠学習的な感じで、潜在意識にすり込んでおこうと思ってさ……あ、もちろん、その子達が目を覚ましそうになったら、バレる前に瞬間移動して逃げ帰ってたよ」
とか言ってたけど……
普通に怖えよ!!!?
それで「その甲斐あってイジメられなくなった」じゃねぇよ!?
それって、コイツが『イジメの対象』から『恐怖の対象』に変わったからじゃね?
自分達がイジメてるせいで何度も自殺未遂してる奴が、毎晩枕元でブツブツ言って突然消えたら、そりゃビビるだろ!?『毎日見てるコイツは実はもう死んでて、自分達を恨むあまり怨霊として、生きてるフリをしてるんじゃないか?』とか考えてもおかしくないだろ?
まぁ自業自得っちゃそうなんだろうけど……
そんなわけで、イジメられなくなってから、ミサトの自らの意思での異世界転移はなくなり、転移回数も数えなくなったのだった。
そして、大量のスキルのおかげで、文字通り怖い者もなくなり、高校デビューした事もあり、徐々に今の明るい性格になっていったらしい。
……と、まぁこの辺の経歴は、基本俺と知り合う前の出来事なんで、あくまでも本人談であり、真偽のほどは不明だったりもするけれど、ミサトの性格上、たぶん9割くらいは正しいんじゃないかとは思っている。
「あれ?ケースケ?目の前で私、車に跳ねられたのに全然心配してくれてなくない?」
色々と考え事している俺へと、跳ねられる直前のようなポーズで、ミサトが話しかけてくる。
これでもう一回轢かれれば、天丼ネタで笑いがとれたのだろうけど、残念ながらそんな事はなかった。
「お前のヤバさは、半年間の異世界生活で学んでるっての……」
そう、異世界に転移して混乱していた俺に、ミサトは軽く事情を説明すると、これでもかというくらいに大暴れしていた。
まるで、現世で溜まったストレスを発散するかの様に……
え?それって俺役立たずだったんじゃないか、って?
まぁミサトに比べれば穏やかだったかもしれないけど、ミサトって意外と大雑把なんだよ……行動全体がね。
必然的に討ち漏らし的な部分も出てくるわけよ。
俺は、ミサトと別行動を取る時とかは、そういった部分で立派に冒険してたんよ……あんまり自慢できないんだけどね。
あと、俺を異世界転移に巻き込んだ負い目でも感じてたのか、『絶対に生きて現世に帰す!』って、完全に保護者みたいになってて、どうしてもって時以外は、基本的に一緒に行動していた。
実際に、ミサトが一緒じゃなかったら、俺確実に途中で死んでた自信がある。
まぁ神様がミサトに助力をお願いしている案件だから、高難易度だからってのもあるんだろうけど……
あ、ちなみに神様がミサトにお願いする時ってのは、チート能力持たせて異世界転移させた奴が3人以上途中退場しちゃった異世界事件案件らしい。
そりゃあ俺1人じゃ、まずクリアは不可能だよね。
そんなわけで、俺を守りながらの冒険だったせいで、通常ペースよりも遅く、半年かかってしまった、というわけらしい。
「で?無傷なのは、何の能力のおかげなんだ?『不死』と『痛覚超軽減』だけだったら、負傷はするだろ?『攻撃反射』?」
とりあえず、コイツが車に跳ねられて無傷だった種明かしを知りたくなったので、思いつくスキルを言ってみる。
「残念!『攻撃反射』じゃないよ。このスキルは私の意識外じゃ発動しないんだよ。私が、攻撃されてるって認識さえすれば、反射するかしないかの選択はできるけどね……それに『攻撃反射』使ってたら、あのスピードだと車、グシャ!ってなってたよ」
なんか、よくわからない身振り手振りを交えつつ、得意気に説明するミサト。
……ちょっと腹立つな。
「実はコレね、スキルじゃないんだよ」
「は?」
スキルじゃない?じゃあどういうカラクリで、車に跳ねられて無傷なんだよ?
「この前転移した異世界がね、ステータスとかが存在する世界だったんだ。そこでモンスターとか退治しまくってたらレベルが上がりまくってね、それで防御の数値とかがスゴイ事になって……だから、さっきのは純粋にダメージをほとんど受けなかったってだけの話なんだ」
不思議そうな顔をしていた俺に、得意気になって説明するミサト。
いや……でも、ちょっと待ってくれ……
「待て!?この前?俺と一緒に行った異世界にはステータスなんて概念なかったぞ!?」
「うん。だからケースケと異世界から帰ってきて、その後に行った異世界での話だよ」
コイツは……何で「当たり前だよ」みたいな顔で言ってんだよ!?
「俺と一緒に行った異世界から帰って……まだ一か月経ってないんだが……」
「あ~……そういやそうだね……でも、しょうがないんだよケースケ!この前の3連休の時、特にやる事なくて暇だったんだよ!」
オイ!!?しょうがなく無いだろ!?
「何で暇つぶしに、自殺未遂して異世界行ってんだよ!!?」
なにコイツは、『暇だから目的もなく買い物でも行こうかな?』くらいの感覚で異世界に旅立ってんだよ!?
そんなホイホイと行けるような場所じゃねぇだろうが!?
「だってぇ~本当に暇すぎて死にそうだったんだもん……そんな怒鳴らないでよケースケぇ……」
暇すぎて死にそうだったから、って言って、本当に死にかける行為すんなよ……
ってか、暇な時にやるような趣味くらいは持っておけよ!就活とかの面接で「趣味は何ですか?」とか聞かれたら「異世界転移です!」とかドヤ顔で答えるつもりか!?一発アウトだぞ。
「そ、そもそも……これに関しては、ケースケにだって責任あるんだからね!」
は?何で?勝手に俺を巻き込むなよ?
「土曜に私、ケースケに電話したよね?『暇だから遊び行こう』って!でもケースケ『用事あるから無理』って断ったよね?」
確かに電話あった。
そして、特に用事があったわけでもないけど、断った記憶がある。
だって、休日に2人で遊びに出かけるとか、まるで恋人同士じゃん!?
いや……まぁ異世界だと、ほぼ一緒にいたよ。
でも、現世ではちょっと恥ずかしさってのもあるだろ?
……違う、違うな。
恥ずかしさよりも、コイツと1日中一緒にいるのは鬱陶しいって感情の方が強いかもしれない。
「いや、だからって言っても、俺に断られたら『異世界に行く』って選択肢は普通選ばねぇだろ!?」
「でも……だって……ううぅ~……」
俺の反論に何も言えなくなり、ミサトはよくわからないうめき声をあげる。
頭は微妙に弱い感じだけど、ミサトのこういう反応は、素直にちょっと可愛いように思える。
まぁそれはともかく、ミサトに声かけられた時、軽く叩かれたハズの背中に異様な激痛があったのは、このステータス云々ってのが原因だったわけか……
なんとも迷惑な奴だ。
「楽しい登校中すまないが、少しいいか?」
不意に背後から声をかけられて振り返る。
そこには、服装はありきたりな格好だが、青い髪と瞳をした、長髪の中性的な男性?と思われる人が立っていた。
んん?この人、どっかで見た事あるような気が……
「あ、神様だ……珍しいね?いつもは私が一人でいるタイミングで出てくるのに」
ああ!言われてみれば、死にかけて異世界転移する時に見た人だ!服装が現代風だったからピンっとこなかった……
「コチラにも色々と都合があるんだ、気にするな……それに、会いに来た理由もいつも通りの案件だ」
なるほど、コレがミサトの言っていた、神様からの異世界転移要請ってやつか……こんな感じでいきなり現れるんだなぁ。
「今回のは、あきらかに厄介そうな世界なのだ……余計な犠牲を出す前に、最初からお前に行ってほしいのだが、構わないか?」
あ、一応賛否は問うんだな。
「ん?別にいいよ」
コイツはコイツで軽いなぁ……
「でもさぁ……私、この前行った異世界のせいで、簡単に死ねない身体になっちゃったんだけど……なんとかならないかな?」
「だから軽い気持ちで異世界転移するなと、あれほど言っただろうが」
やっぱ注意されてたんだな……まぁ普通に考えればそう言うよな。
ミサトには常識ってもんが欠如してるんだろうか?
「ともかく、その辺の事情は私も理解している……だからこそ、このタイミングでやってきたのだからな」
神様はそう言うと、視線を俺の方へと向ける。
……何か嫌な予感がする。
「キミが持ってるスキルの力を借りたい。協力してくれないか?」
「あ~そうか!ケースケのスキルって『触れた相手を即死させる』って効果のやつだもんね!」
うん、俺が説明する前にミサトに言われたけど、その通り……俺が手に入れたスキルは効果100%の即死スキル。
発動させた後、対象に触れなきゃならないってリスクもあるけど、少しでも触れれば絶対に効果がある脅威のスキルなのだ。
連発できれば異世界でも無双できるだろうけど、そこはさすがに回数制限があるのだ。
それが1日1回なのだ。
「いや、まぁ確かに俺、即死スキル持ってるけど……『不死』のミサトに効果あんの?」
そう、俺のスキルは外傷を与えるわけではなく、単純に息の根を止めるだけなのだ。
心臓を破壊する、とかなら、蘇生まで時間がかかるから、その間は『死にかけてる』状態をキープできて、異世界冒険ができるだろうけど……
死なない奴の息の根を止めるって、どうなるんだ?
「そうだな……そのスキルを彼女に使用した場合、意識は刈り取れるだろうから、結果的には『気絶させる』程度の効果になるだろう、が……」
「え~……じゃあダメじゃん。何か他に方法ないの?」
おいおいミサト。神様まだ話途中みたいじゃなかったか?
「落ち着いて最後まで聞け。まだ続きがある」
やっぱり怒られたなミサト。
たぶん俺が神様の立場だったら、かなりイラっとするだろう……落ち着いてるあたり、さすがは神様って感じだな、寛容だ。
「すぐに蘇生するとはいえ、スキルが発動した瞬間には美里は死んでいる。その魂が無防備になっている状態の時に、私が、その魂を異世界に放り込む」
話だけ聞いてると、けっこう強引だなぁ……
「ねぇ……魂抜き取られたりしたら私、死んじゃうんじゃ……」
不安そうにミサトが声をあげる。
「心配ない。不死スキルがあれば、魂が離れてようと、身体との繋がりも勝手に復活するので、魂が身体に戻れなくなる事もなくなる……ハズだ」
最後の「……ハズだ」って部分は、ミサトに聞こえないほど小さい声だったのって詐欺みたいじゃね?
にしても、神様のくせに何とも曖昧だな。
「そっか……戻って来れるならそれでいいや」
だから、一度死ぬってのに、軽すぎだろミサト!?
異世界転移しすぎて死生観バグってんじゃねぇかコイツ!?
まぁミサトにとっては『メメント・モリ?何それ、美味しいの?』って感じなんだろうけど、もうちょっと雰囲気とかあるだろう?
「じゃあケースケ。さっそくだけどよろしくね」
「は!?今ここでスキル使うのか?さすがに道端で仮死状態になるのはマズイだろ?もっとこう……お前の家にいったん向かうとか……」
なんというか、死生観だけじゃなくて、常識までバグってんじゃないかミサト!?行き当たりばったりな行動じゃなくて、少しは考えて……
「そんな事してたら、ケースケ学校遅刻しちゃうよ?私の事心配してくれるなら大丈夫だよ。とりあえず『人が倒れてる』とか言って、救急車呼んでくれればいいよ」
「いや……救急車待って付き添いしてたら、どっちにしろ俺、遅刻確定だろ」
「あ、救急車呼んだら、私放置で学校向かっていいよ。どうせ、救急隊員の人『またコイツかよ……』って感じで、いつも通りの適切な処置してくれるだろうから」
神様だけじゃなくて、コッチでも『またお前かよ』案件が発生してたのかよ!?
やっぱ、ミサトの常識ってやつが、完全に行方不明になっちゃってるよ!?どんだけ他人に迷惑かけてんだよコイツ!?
「そんなわけで、今この場でやっちゃってくれていいよケースケ」
心の中でのツッコミ虚しく、スキル使用を促してくるミサト。
俺は一つ大きなため息をつき、スキルを発動させ、ミサトへとゆっくりと手を伸ばす。
「なぁ……一人で大丈夫か?何だったら、また俺も一緒に行こうか?」
俺がミサトについて行っても、足手まといにしかならないのは理解はしている。
それでも、俺がいる事で少しでもミサトの手助けができないか?そんな考えがあった。
状況を知っているうえで、ミサトだけを異世界に放り込んで、俺だけ「はい、さよなら。後は勝手にやっててね」ってのは、何か違うんじゃないか?そんな思いがあった。
「私の事心配してくれるの?やっぱケースケは優しいね……でも大丈夫だよ、心配しないで。それに、私と一緒に行くって事は、ケースケも瀕死になる必要があるんだよ」
確かにそうだ。
ミサトと違って『不死』じゃない俺は、加減を少しでも間違えれば、異世界ではなく、あの世へ行くはめになってしまう……しかも片道切符で。
「一か八かの危険な事をケースケはやっちゃダメだよ。自慢じゃないかもしれないけど、死にかける事に関しては私、プロだよ!」
本当に自慢になんねぇなソレ……
でも……
「確かにそうかもな……素人は出しゃばらずに、お前が無事に帰ってくる事を信じてるくらいが丁度いいのかもな」
ドヤ顔しているミサトへと微笑みかけながら、エールだけは送っておく。
「そうそう!異世界転移はプロに任せておいてよ!!」
そう言って、笑い返してくるミサトの肩に、俺はそっと手を置いた。
さらにチートスキルを増やして、強化された状態で戻ってくるであろうミサトの無事を祈りながら……
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
この様に拙い文章ではありますが、貴重な時間を使って読んで頂いた事、感謝しております。
この物語に関しましては
2023年1月20日の活動報告にて説明、といいますか
裏話的な部分を書かせて頂きましたので
もしよろしかったら一読してみてください。