表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

文学系

ユンジャボイの苦悩

作者: 七宝

『お父さん、お母さん、ごめんなさい。もう耐えられません、僕はこの世を去ります。そしてユンジャボイ、君を絶対に許さない』


 これは先日自殺した上田アジオの遺書の一部だ。なぜか俺の名前が書かれているが、全く心当たりがない。


 上田アジオは高校の同級生で、話しかけたこともなければ話しかけられたこともない、ただなんとなく名前くらいは知っているレベルのヤツだ。クラスも1度も一緒になったことはなかった。


 そんな上田アジオが俺の名前を遺書に出しただけでなく、その上『許さない』とまで書いている。俺は本当に訳が分からなかった。


 警察からは何か隠してるだろと責められ、両親も上田アジオの親に謝るばかりで俺の話は信じようとしてくれない。絶対に俺は関わっていないのに。


 そもそもヤツの自殺理由も曖昧だ。何に耐えられないのかが書かれていない。俺に何をされたのかも書いていない。

 なんでそんな曖昧なことで俺が責められなきゃならないんだ。なんで警察が動くんだ。なんで父ちゃんも母ちゃんも信じてくれないんだ。


 なぁアジオ、俺が何したって言うんだよ。誰と間違えてるんだよ。何か言ってくれよ。なぁ。


 誰かと間違えてるとして、俺と似た名前のやつなんてこの世にいるのか? なんで俺なんだ? なんでよりにもよってこんな珍しい名前と間違えたんだ? ユンジャボイだぞ? 普通じゃないだろ? ペンタゴンと同じ発音なんだぞ? そんな日本人今までいなかっただろ?


 もうマジで分かんねぇよ。俺は二重人格でも夢遊病でもないし、自分の知らないところで問題なんて起こしたこともねぇんだよ。

 それなのにあんなにハッキリと遺書に俺の名前を書きやがって。どういうつもりで書いたんだよ。俺が不幸になればお前は嬉しいのか? 捕まって欲しいのか? お前はそれをあの世から見てるのか? なぁアジオ、教えてくれよ。


 俺、有名人になっちまったんだよ。街を歩くだけでひそひそ話が聞こえてくんだよ。


「親が可哀想だよな」


「あんなのが息子だったら俺絶対泣くもん」


 アイツら無実の人間になんであんなひどいことが言えるんだ? どういう教育受けてきたんだよ。


 なぁ、なんで俺にだけこんな唐突に不幸が訪れるんだよ。不公平じゃねぇか。ダジャレじゃねぇよ。マジで不公平なんだよ。


 俺、どうすればいいんだ? 誰も信じてくれなくて、みんな俺の悪口言ってんだよ。俺もおかしくなってさ、刑務所の中の方が楽なんじゃないかって思えてきたよ。


 ていうかこれって捕まるの? 刑務所入れられるの? 実際何もしてないんだし、もし俺がなんかやりましたって自白したとしても証拠がないだろ? どうすんだよ!


 あーもう疲れたわ。なんで俺ばっかこんな⋯⋯


 こんなに人を恨んだことはないわ。怒りでおかしくなってんだよ。歯を食いしばり過ぎて噛み合わせおかしくなるわ、拳を強く握りすぎて手のひらから血ぃ出るわ、身体中傷だらけだよ。


 俺からしたらお前が加害者だよ。愉快犯だよ。通り魔だよ! あの世のインタビューで「ムシャクシャしてやった。誰でもよかった」とか言ってんだろ!

 なんもしてねーやついじめて何が楽しいんだよ! 殺してやりたいくらい憎いわ! お前が今死んでなかったら確実に俺が殺してただろうな!


 あーもう無理マジで無理! インターネットでも顔写真晒されて一生逃げられないだろうし、俺の味方1人もいねぇんだぞ? お前が死んだ時よりよっぽどひどい状況なんだよ、分かるか?


 だからもう俺も死んでやるよ! 怒りのままに死んでやる! 適当な同級生の名前でも書いて死んでやるからな! 俺がこんなに苦しんでるのにのうのうと生きやがってお前ら! 俺と同じ目に遭って苦しめ! ざまみろ! 死ねーーーーーーーー!

 お前も愉快犯になるのか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ