振り向くことなく
さくっと読めるプチSFミステリーです。
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最近、スパイが多いらしいぜ。 僕はスパイだ。
近隣の惑星でも話題になってたろ。 地球に危機が迫っているため、
潜入調査をすることになった。
あぁ、あの?タコみたいなやつらが
騒いでたやつか? 通称720生命体。
この名称は、彼らが720度周囲を
それで、どこの回し者かわかったのか? 見渡すことができることから
付けられた。
そりゃな。
そいつはバレた瞬間に消えたが 720度という表現には違和感が
痕跡は残っていた。 あるかもしれない。
回線をトラッキングしたら だけど、360度では不足なのだ。
どこの星のやつかは一発だぜ。
彼らは水平に1周だけではなく
へえ。それでどこだったんだ? 垂直にも1周見渡せる。
それがな、 それを便宜上720度と科学者たちは
なんと一番の同盟国だったんだと! 表現した。
うへぇ。そりゃ同盟も 「君に世界の命運がかかっている」
一瞬でおじゃんだな。 僕はボスの言葉を思い出しながら
アバターを着た。
その通りさ。
これは便利だ。
惑星はエネルギーだけ 周囲を完全に見渡せると
キューブ化して抽出して 振り向く必要がない。
あとは焦土と化したらしい。 常に全方向が見えるからだ。
そりゃまた物騒な話だな。 なんとも便利な生活を送る彼らを
少し羨ましくも思った。
うちは大丈夫か?
最近同盟に加わりたいって 僕はふうと息を吐いた。
妙なやつら入れてただろ。 大丈夫だ。地球の技術力、中でも
3Dモデリングは群を抜いていて
技術力もなかなかのようだし アバターは実物そっくり。
あっさり受け入れてよかったんだろうか。
まったくお偉いさんの考えることは その惑星の生命体でも見分けが
わかんねぇぜ。 つかないことは確認済みだ。
僕は彼らの街を歩いた。彼らが歩くのとまったく同じように。
大丈夫だ。絶対にバレない。
「おい、背中のチャックが開いてるぞ」
僕はとっさに振り返り、背中を手でさすった。
まさか。このアバターは完全再現で、そもそもチャックなんてものはついていない。
僕に声をかけてきた生命体はにやりと笑った。
「あ……」
そして、すべてを悟った僕は心の中で地球に別れを告げた。